第百四十五話
私達はアクシズ……いや、ネオ・ジオン軍とは現地解散して4日ほど月で過ごし、ミソロギアへの帰路についた。
もっとも月とサイド5はあまり距離が離れていないため時間はそれほど掛からない。
「うーむ、やはりこのデータを見る限り、クィン・マンサはプルシリーズの中でも優秀な者しか乗りこなせないか」
ハマーンの戦闘データを分析すると情報量があまりにも多い。
クィン・マンサの試験は完成が作戦開始間近であったため、あまりできていなかった。そのためデータはあくまで予測でしかなかったのだが、それを上回る情報量だ。
「こうなると強化人間人格型OSを鹵獲できたのは運が良かった。ハマーンに感謝だな」
そうでなければ小型化という名の劣化版を作らなければならなくなっただろう。
もちろん私も補助OSの開発ぐらいできるだろうが時間はいくらあっても余らないのだから労力は削れるところは削るべきだ。
予定としてはクィン・マンサの量産計画(ハマーンの要望通り姿形は変更する)、パノプリアのバリエーションを充実化、サイコミュの小型化、サイコミュを使った新たな兵器開発、初の試みである核融合炉の開発、Iフィールド発生装置の小型化や効率化、時間がなくて乱雑に建設してしまったミソロギア内部の都市(?)整備計画、プルシリーズの教育プログラム作成、プル24の葬儀と墓標の建設、そして本命のクローン研究などやることは山ほどある。
「しかし……これほど平穏な時間を過ごせたのはいつ以来だろうか」
最近、疲労と寝不足が続いていたのもあって、エゥーゴと新生ティターンズの会談が終わってすぐに意識を失うように眠ってしまった。
実は月に4日も滞在することになってしまったのは起きたら4日経っていたという話である。
同行者を全てプルシリーズにしたのが間違いだった。スミレが同行していたなら代わりに指揮を取って既にミソロギアについているだろうにプルシリーズばかりであったために混乱して無駄な時間を過ごすことになってしまった。
まぁ、おかげでかなり思考能力が随分落ちていたことを自覚できたのだが。
どうやら触手が過剰に感情に反応して暴走してしまうのは疲労や寝不足による精神不安定から引き起こされるものだったようで、今は以前のように制御できている。
これで以前のような平穏な研究の日々に戻れる——
「……などと考えていたのが悪かったのだろうか」
「それほど邪険にしなくてもいいだろ」
目の前にいるのはカミーユ・ビダン、ファ・ユイリィ、フォウ・ムラサメ、ロザミア・バダムの4人だ。
ミソロギアに到着して2日ほど経った頃、周辺宙域を巡回していたプルシリーズが小型宇宙船を発見し、連れ帰って来た。その中身がこの4人だということだ。
そういえば戦後にロザミア・バダムの治療を行うという約束をしていたことをすっかり忘れていた。
「とりあえず、双方無事、戦争を乗り越えれてよかったな」
「正直、あのハマーンの戦いぶりを見て負ける気がしなかった……でもゼダンの門の自爆はさすがに肝を冷やした」
「カミーユもニュータイプだろう。それぐらい察してみせろ」
「アレン博士ほど化——規格外ではないんだよ」
(原作ではフォウ・ムラサメ、ロザミア・バダムの死などを経験して成長しているが、ここでは生存しているため原作ほどのニュータイプではない)
「それに約束は守ってくれているようで安心した」
「ハハ……破ったらどんな目に遭うか怖くて誰にも言えなかったさ」
プルシリーズの事は誰にも話していないようで何よりだ。
「さて、あまり時間を無駄にするのは好きではない。本題に入るとしよう。ロザミア・バダムの治療を施すのはいいが……預けていくのか、それとも一緒にここで過ごすか、どちらだ?ちなみに私のおすすめは預けていくことだ」
私の言葉を聞き、ロザミア・バダムは不安そうな表情でカミーユを見る。
フォウ・ムラサメやファ・ユイリィはどちらでも良さそうな表情をしているが、正直プルシリーズの存在を知られるのは最小限に抑えたいからここに居てほしくはないのだが。
「悪いんだがアレン博士にしばらくお世話になろうと思う。もちろん代金は払う」
「……わかっているのか?その言葉の意味を」
それは、4人揃ってミソロギアの外へ出ることができないことを意味しているのだ。
プルシリーズの存在を隠し通せたなら問題ないのだが、ロザミア・バダムの治療がどれだけの時間を有するのか全く見当がつかない以上、隠し通すのは難しい。
となるとほぼ永住してもらうことになり、外に出る場合は人質として誰かに残ってもらうことになる。ここまで察してはいないかもしれないがそれなりに覚悟をしてここに来ているだろう……後ろの3人はどうかわからんが、な。
「ああ、わかっている。正直、ファ達が理解しているかどうかわからない。わからないけど、俺達は離れているつもりはないんだ」
一応説明はしているのか……ふむ、わかっていないように見えるが、決心しているというのは間違いないようだな。
それにしても……サラッとハーレム宣言か?確かにここは治外法権、私が法であるのだから別にハーレムでも問題ないのだが。
「まぁ、そういうことなら私は歓迎しよう。言っておくが、ここから出る時は死体の可能性があることを理解しておけよ」
ファ・ユイリィは若干動揺していたが、すぐに平静を取り戻して頷く。フォウ・ムラサメは特に変化はなかった。ロザミア・バダムに関しては選択肢はない。
(フォウ・ムラサメは本名を思い出しているが誰かわからなくなるのでフォウ・ムラサメで統一しています)
「クローンってどういうことですか!!」
怒鳴り込んできたのはファ・ユイリィだった。その後ろにはフォウ・ムラサメもいるがそちらは多少嫌悪感があるがまだ冷静さを保っている。
「クローンとは一般的には細胞を増殖させて同じ個体を作り——」
「そういうことを聞いているんじゃありません!ここにいる子達皆がクローンなんて何を考えてるんですか!」
「ふむ、何を考えているか。改めて問われると難しいが……1番はやはり好奇心だろうか」
「好奇心……好奇心でクローン人間を生み出すなんて……そんなことが許されるわけがありません!」
私から言わせれば性行為で生まれた人間だろうが試験管から生まれた人間だろうが同じ生命なのだからどちらでもいいだろ、と言いたいがな。
「許されないとは言うが、具体的にどう許されないんだ?」
「そんなの自然の摂理に反してます」
「くだらん。自然の摂理に反し続ける人間が生まれだけを見て自然の摂理に反する?本当にくだらん」
自然の摂理で言えばコロニーは自然の欠片もない大地だし、最近は星の屑作戦による食糧不足からクローン家畜の合法化をするという法案も出ていると聞く。
「それでも貴様の中で作られた自然の摂理は大事か?」
「……」
「そもそも理解しろとは言わん。言わんからいらないことを言うな。強いて言えばプル達と遊んでくれるだけで十分だ」
さて、言いたいことも言い終わったし、ファ・ユイリィも何か言ってくる様子もないから仕事に戻るか。
それにしても私が居ない間にこれほど無造作に設備拡張が行われているとは……整備計画は早々に行わないと面倒なことになるな。
「あなたにとってあの子達はなに?」
突然フォウ・ムラサメが口を開いた。
どうやら彼女はまた別のことを確認するためにここに来たようだな。
「プル達は私の作品であり、私の子……いや、家族だな」
「そう……あなたが彼女達に好かれてる理由がなんとなくわかったわ」
そう言い残してフォウ・ムラサメは部屋から出ていき、ファ・ユイリィも追いかけるように出ていった。
「監視を付けるべきだろうか……いや、ミソロギアに私がいる間は私が少し気にしていればいいか」
そもそもミソロギア内で私が把握できない場所はないのだから。