第百四十六話
「ファ・ユイリィ、君に頼みたいことがある」
「私に、ですか?」
険があるが声だが、それは先日のことを考えれば仕方ないだろう。
とはいえ、プルシリーズのことをいつまでも受け入れられない場合、ここに住まわせるのは色々なリスクを含むことになる。
そこで対策を考え、行き着いたのが——
「プル達に勉強を教える気はないか?基礎的なものでかまわないから……ああ、道徳や一般常識はこちらで教えるのでそれは教えなくてもいい」
人殺しをしては駄目などと教えられては面倒なことになる。私達だけで暮らしていくなら家族は仲良く、家族第一主義ぐらいがちょうどいいだろう。
人間の命が地球より重いみたいなキチガイな思想は必要ない。人間の命なんぞ牛にも劣る(食料的に考えて)のだから。
「なぜ私なんですか」
「カミーユはMSの知識があるので私やスミレの助手をしてもらい、フォウ・ムラサメはニュータイプの実験に付き合ってもらう、ロザミア・バダムは治療に専念させるが……君はその間どうする?」
別に働かざる者食うべからず、とは言わない。カミーユとファ・ユイリィは勝利した軍閥に所属していたパイロットなので報酬はたくさん貰えたようで、カミーユ達が乗ってきた小型宇宙船も自費で購入するぐらいには余裕があるのだ。しかし、それでも蓄えというのは収入がなかった減る一方だ。
純粋な労働力という意味でならプルシリーズを量産すればなんとかなる。しかし、経験がある普通の人間にしかできない仕事もある。
その1つが教師だ。
私やスミレは幼少の頃から天才と言われた部類であり、学力は一般人のそれを大きく上回ると自負しているがさすがに教えることまでは上手いかと言われると否定するしか無い。
凡才に教えることは天才の私達では効率が悪いのだ。
そういう意味ではハマーンやイリアがプルシリーズに教えるのは私達より効率がいい。
効率はいいのだが……問題は何にしても時間が掛かるということだ。
ハマーンは言うに及ばず、イリアもアクシズにいる以上、教師とすることはできない。
それにハマーンはプルシリーズにあまり好かれておらず、イリアは口数が少ないが——
「その点、君は子供の扱いが上手そうだから安心して任せられるのだ」
「……わかりました。カミーユと相談してからになりますが前向きに考えてみます」
「頼む。給料はこれぐらいを予定しているのでそのつもりで」
ちなみにミソロギア内では独自の電子通貨が運用し始めた。
今までは食事から日用品、娯楽までが配給制であったが、プルシリーズが成長していくにつれて欲求の多様性も生まれるだろうと思ってのことだ。
報酬は勤務内容と労働時間によって自動的に支払われ、物価は一次産業は生産効率(まだ稼働してない)や在庫数、輸入品は輸入数や予定日、在庫数などでシステム的に相場が設定される。
将来的には(軍需以外の)二次、三次産業も生まれることを期待している。
しばらくは一次産業の充実が優先されるため、いつになるかは不明だが。
「というわけでフォウ・ムラサメにはキュベレイに乗ってもらう」
「あまり気が進まないわね」
言葉の通り、フォウにはやる気が感じられない。
あんな酷い機体に乗せられていたならわからなくもないがな。
サイコガンダムの設計図から察するに効率を重視し過ぎたばかりにパイロットに掛かる負担を全く考慮されていない設計だった。
機体を動かすだけで軽い頭痛が、戦闘ともなればもっと激しい頭痛や体中を虫が這うような錯覚……つまり薬物中毒者のような症状を起こすだろう。
それを洗脳によって体内で過剰なアドレナリンを生み出すことで緩和させていたようだが、強引で非効率なやり方だ。
だからこそフォウはニュータイプとしてはそれなりのレベルに到達しているのだろうが。
ちなみにハマーンの専用機であるクィン・マンサが完成したことで初代キュベレイは予備機となったので紛らわしかったキュベレイmk-IIの呼称をキュベレイと改めることにした。
「このキュベレイならファンネルを無茶な運用をしない限りは副作用は発生しない」
「……そういうことを言ってるわけではないんだけど」
ああ、そうか、普通の感覚では人殺しの道具などに好んで触れたくはないということか。
「なら武装を外したMSを用意しようか、それなら忌避感もないだろう?」
そうすればただの大きなパワードスーツだ。
もっとも武装が付いているだけで装填されてはいないがな。
「そういうところ、割りと好きよ」
「そんな言葉はカミーユにでも囁いていればいい。さて、操縦方法は随分違うはずだが、マニュアルは読んできたか?」
「ええ、多分大丈夫よ」
そう言って早速キュベレイに乗り込み動かし始める。
私は手元の端末で脳波のデータやサイコミュの様子を見ている。
「本当ね。サイコガンダムなんかよりずっと動かしやすいし、安心するわ」
「あのような機体と比べられても微妙だが評価されたと受けておこう」
やはり、人間というのは個々に違いが大きいな。
脳波は人によって質や強弱が全く異なる。
ニュータイプ能力というのは脳波の強さ、思いの強さという共通するところがあるが、その思いの種類がことなる。
クローンであるプルシリーズでさえ、プルは無邪気さ、プルツーは強さへの探求と責任感、プル3は私や姉妹を守るという思いなど質の違いがある。
カミーユやフォウは悲しみという分類に入るだろう。このタイプは戦場で覚醒したニュータイプが特に多い。
もっともフォウの場合は無理やりそうさせられただけだが。
「ところで今私がアレンを殺そうとする……なんて考えないのかしら」
「ふん、その程度が感じられずしてなにがニュータイプだ。それに何より武器が使えないMSなんぞに私が負けるわけがない」
触手さえあればMSの手足を使った攻撃程度が当たるわけがない。むしろ、操縦に不慣れなフォウが操るキュベレイなら腕の1本や2本ぐらい触手で間接部に侵入させて切断することぐらい容易だ。
「ふふ、もちろん冗談よ」
「わかっている」
それぐらいはニュータイプ能力で察することができるさ。
余談
すごい今更ですがガンダムオンライン始めました。
始めてDXガシャ(無料分)引いたら金図キュベレイ出た……強さは微妙だけど嬉しい。