第百四十七話
「確認だがZガンダムの設計をしたというのは本当か?」
「設計とはいってもアナハイムが元々設計していたのを俺が使いやすく手直ししただけだ」
「自分が望むものを形作るのは難しいものだ。誇っていい」
それにアナハイムが採用したということはそれだけ設計が良かったということだ。たかが1人のパイロットのために専用機を作り上げるなんて非効率なことを金の亡者共がするわけがない。
実際のところZガンダムの設計は学生のものとは思えないほどの出来で、可変機能が一般受けしないこととその可変のための整備性の悪さぐらいか。
整備性の悪さは管理する側の都合として、可変機能なんて長距離移動か戦闘開始時の機動力を得るぐらいで戦闘中は致命的な隙となりかねない機体は好みで分かれ、使いこなす練度を考えると特殊部隊の少数生産に限られるだろうな。
それはともかくとして——
「当面私やスミレの助手をしてもらうとしよう。その後見合った仕事を割り当てるとする」
「わかった」
プルシリーズの成長を待たなければならないと思っていたが、思いがけないところで助手が手に入った。
カミーユならプルシリーズに1から教育を施すよりも早くものになるだろう。
「ここにはアクシズ……いや、ネオ・ジオンの一部のMSと私達が開発したMSの設計図があるので好きな時に見るといい」
「そういえばアクシズからネオ・ジオンに改名したんだったな……それにしても全ての機体じゃないんだな」
「私達とアクシズの研究部や開発部とはお世辞にも仲がいいとはいえないからな」
外部の小規模民間(?)企業に惨敗し続けるというのは兵器開発部にとって屈辱的だろうな。
まぁ一応量産機のコンペティションではザクIIIやドライセンを抑えてガルスJが採用されているのだが……やはり研究者、開発者にとってはハイエンド機で勝たなくてはならないと思うのは宿命みたいなものだ。
「……大変なんだな。となるとあのゼダンの門で暴れていた白い機体はネオ・ジオンの機体か……」
「いや、クィン・マンサは私達が開発したものだからここにある」
「……あれを作ったのはアレンだったのか」
「正確には私達だが、その通りだ。そもそもあのような機体を凡人が作れるわけがない」
「ちなみにクィン・マンサをマイナーチェンジして量産する計画もある」
「…………一応確認しておくけど、どこかに戦争を仕掛けるつもりじゃないよな?」
クィン・マンサの強さを知っていれば当然の感想だな。個人が持つ戦力としては防衛目的にしても明らかに過剰な戦力だ。
しかし——
「残念ながら仕掛けるつもりはなくても仕掛けられる条件が揃っているから後悔しないためには準備しておくべきだ」
今はまだ内乱後でエゥーゴと新生ティターンズがこれからどういう関係になるのか不透明であるために身動きが取れず、ネオ・ジオンはハマーンが抑えてくれるはずだが、以前ジオン残党を装って襲ってきたことを考えれば安心とは言い切れない。アナハイムもデータ欲しさや月の目と鼻の先にいる私達が目障りに思っているだろう。
何より私達を守ってくれる法はないのだから。
「……思った以上に危ないところに来たみたいだな」
「今更それを言うのか、プルシリーズが表に出れば一気に世界の敵待ったなしの場所だぞ」
「それは秘密が漏れれば、だろ。コロニーなんて外とは隔絶した世界なんだからそう簡単には情報漏れなんてないはずだ……それなのに……」
まぁ私としては助手ができたのもだが、戦力が充実して嬉しい限りだ。
カミーユはMSパイロットとしてはシャアに匹敵する。(勝つとは言ってない)
あの化物を抑えられるなら後はクィン・マンサに乗ったハマーンが寝返る、白い悪魔が宇宙に上がってくるなどがない限りはプル達の犠牲はあるかもしれないが負けることはない……はずだ。
「ふむ、カミーユ専用MSも考えてみるか」
「俺はもう戦場に立たない」
「そう言って彼女達を見殺しにするのか?」
「……」
「それに貴様はのうのうとミソロギア内で暮らし、自分より年下の女性であるプル達の後ろに隠れていると」
「その言い方は卑怯だ」
「事実しか言っていないがな」
とは言っても私自身も立ち位置的にはプル達の後ろにいることになるが……一応ファンネルやシールドビット、最近ではMDも導入しているから後ろとは言いづらいか、そもそも艦艇だけなら私が1番落としているからな。
「それに多少は運動した方がいい」
「MSの操縦が運動?」
…………これが肉体的格差というやつなのか、私なんぞ耐Gスーツを着ても翌日には筋肉痛で動けなくなるというのに……おい、サプリメント、仕事しろ。
プル達やガトー達などは順調に人間の領域を超え始めているにも関わらず、私には目立った変化はない……副作用もないとはどういうことだ。
「カミーユには後でサプリメントを渡しておこう」
「なんでこの話の流れでその話になった」
デスクワークにも体力が必要なのだ。それにパイロットに戻るとなると体力は必須といえる。だから決して嫌がらせではない。
痛みに悶えるがいい。