第百四十九話
主催ということで私はシードとして準々決勝からの参戦することになった。
プルシリーズが断固として許さなかったので仕方なしに、ではあるが。
せっかくカミーユ達と戦う機会だと思ったが……間違いなくファ・ユイリィは脱落するだろう。というか今脱落した。
ファ・ユイリィは今まで使っていたメタスではなく、Zガンダムを使っていた。どうやらメタスに不満があったらしい。
ちなみに対戦相手はプルシリーズのキュベレイ・パノプリアだ。
プルシリーズはだいたい子供なのだが、あえてこう言おう……大人気ない。
ミサイル弾幕とファンネルに翻弄され続ける姿には哀愁が漂っていた。
「強さが全てではないさ」
「わかってます!!」
女性の癇癪には打つ手なし。
まぁ幼馴染のカミーユに慰め……いや、宥めてもらうとするか。
「もおーーーーー!!武器多過ぎでわけわかんない!」
その声はプルのものだった。
ちなみに対戦相手はカミーユで、結果は敗北。敗因は……TR-6を選んだことだろう。
今までプルシリーズのほとんどはキュベレイだけを訓練してきた。
キュベレイは武装がシンプルで、ビームガン、ファンネル、ビームサーベルしか存在しない素人でもそれなりに扱える設計となっている。
武装が多そうなクィン・マンサも武装の殆どがメガ粒子砲であり、そのメガ粒子砲の出力はほぼ統一しているため有効射程などに変化はない。
パノプリアのミサイルやビームを収束させて放つメガ・ブースターのみ射程が違うが撃つ頻度が少ない。
それに比べてTR-6は強化人間人格型OSの補助があるにしても武装が豊富であり、MSの操縦系統を無理やり再現しているが、それを使いこなすにはぶっつけ本番ではプルシリーズの上位者であるプルでも難しい。
「プル達は、強いな」
シミュレーターから出てきたカミーユが称えるように言うが——
「当然だ。私の作品だからな」
「その言い方は好きじゃない」
「……そうだな、せっかくのイベントだからこういう言い回しもいいか……言い方を変えて欲しくば私に勝ってみせろ。話はそれからだ」
「その言葉、忘れるなよ」
「記憶力には自信がある方だから心配するな」
私の言葉でカミーユのプレッシャーが一段と強くなったのを感じる。
これは私も本気で迎え撃つのが礼儀というものか……データを調整しておくとしよう。
……まぁ私に当たる前にカミーユが負けなければ、だがな。
「それにしても……フォウがまさかクィン・マンサを選ぶとは、な」
サイコガンダムにいい思いがないからとクィン・マンサを選んだが……やはり初めての操縦では完全に操りきれているとは言い辛いが、センスは感じる戦いをしている。
なにせキュベレイを操るプルシリーズに負けていない……いや、むしろ押している。もっとも対戦相手のプルシリーズが後期ロットであり、パノプリアを使いこなせないためにキュベレイ単体で戦うことになったのでIフィールドを有するクィン・マンサ相手では分が悪い。
それに後期ロットであるため近接戦闘も修得できているとは言い辛いものがあり——
「負けたか」
キュベレイが爆散する映像が流れ、プルシリーズは落ち込んだ様子で出てきた。
「要修練だな」
「はい。頑張ります」
「シミュレーターでいくら落ちても死にはしない。いくらでも失敗するといい」
「はい!」
よし、気合いが戻ったか。
どうも後期ロットは初期、中期ロットという姉がいるためか、若干精神力が足りない気がする。
新規ロット達は隔離して教育すべきか……しかし、責任感や協調性、親密性などを学ぶにはいいのだ。……このあたりも要研究だな。
「ふふふ……しっかりお父さんをしているわね」
先程の戦いが余裕であったかのような微笑みを浮かべているフォウが近寄ってくる。
しかし知っているぞ。実は結構焦っていたことを。
いくら後期ロットとは言ってもプルシリーズはプルシリーズ、そこらのパイロットなどより優れたパイロットなのだから簡単に勝てるわけがない。
「こういう時ぐらいは、な。最近は時間がろくに取れていない……というのもあるが、人数が増えすぎて私1人では面倒を見きれない」
「それはそうでしょうね。100人家族なんて1人で支えられるものではないわ」
「ふん、人間とは1人で生きていくことはできないし、何より親が子を支えるが、親が子に支えられているものなのだ。子を持たぬ身ではわからんだろうがな」
「ええ、そうね」
「それにフォウやカミーユ達もここでは支え、支えられる存在であることを自覚するがいい」
「あら、私のお父さんにもなるつもり?」
嬉しそうにそう言って私の頭を撫でる。その表情はどこか満足げだが……こちらに来てからずっと私の頭を見ていたがまさか撫でたくて見ていたのか?
まぁ撫でたければ撫でればいい。そのうち貴様の身長なんぞ抜いてやるからな!(と23歳が言っています)
「それも吝かではないが、フォウの場合はカミーユがいるだろう?」
「カミーユには小姑がいるからなかなか甘えられないのよ」
「ぶふっ」
思わず吹いてしまった。
小姑というのは十中八九ファ・ユイリィのことだろう。
確かに若干小煩いイメージがある……まぁ良くも悪くも普通の感性だからだろうな。私達は言うに及ばず、カミーユやフォウ、ロザミア・バダムは私達ほどではないにしても常識から外れている。
そんな中で常識人がいれば口煩く正そうとしても仕方ないことだろう。
「それに、連れ子までいるのよ」
「くくっ、治療中の人間までネタにするとはいい性格をしているな」
連れ子か、今のロザミア・バダムにはぴったりな表現だ。
本人はカミーユをお兄ちゃんと呼び、妹ポジションを訴えているが発言内容を鑑みると子供のそれだ。
そしてその子供は——
「どうだったお兄ちゃん!私、勝ったよ!」
「ああ、ロザミィは凄いな」
なんとプルシリーズに勝っていた。
いくらなんでも今のロザミア・バダムにプルシリーズが負けるわけがない……と思ったら、何故か対戦相手のプルシリーズの機体がサイコガンダムを選択していたようだ。
サイコガンダムは火力は申し分ないが運動性が悪く、その巨体故に近接戦闘が不向きである。
ロザミア・バダムはなぜ選んだか知らないがドライセンを選択していた。つまり相性は最悪。
しかもよりにもよって攻撃パターンが少ないサイコガンダムだと子供に等しくても学習能力と仕込まれた操縦技術を持つロザミア・バダムにすぐパターンが見抜かれ斬り刻まれることになったようだ。
「イベントだから何で戦ってもいいが……接待はやりすぎるなよ」
「……了解です」
つまり、プルシリーズはロザミア・バダムに勝つのが偲びなく、勝ちを譲ったようだ。
だが、そういう配慮ができるようになっているとは思いもしなかった。
子は勝手に育つというがまさにそのとおりだな。