第百五十話
大会は順調に進む。
ロザミア・バダムは次の試合でプルツーの操るクィン・マンサ・パノプリアに容赦なく落とされたが驚くことにカミーユとフォウは無事勝ち進んだ。
たまたま初期ロットと当たらなかったとはいえ、中期ロットとは当たっている。
中期ロットは使い慣れたキュベレイを使用したため、本当にただ実力で負けたことになる。
プルシリーズがお祭りムードに当てられて調子に乗っていたことも原因ではあるだろうが、カミーユはひたすら回避し、チャンスがあればファンネルを落としながら凌ぎ、最終的にはファンネルの推進剤が切れてしまい、ついでキュベレイの推進剤が切れ、カミーユのロングビームサーベルで一刀両断されることとなった。
ここはプルシリーズの油断や不甲斐なさではなく、歴戦の勇士であるカミーユを褒めておくとしよう。
エゥーゴが劣勢だった頃からエリート集団であるティターンズと寡兵で戦い続けた戦士の実力と実戦で鍛えられたニュータイプ能力の勝利というわけだ。
「やはり私は甘すぎるのか?トレーニング内容を改める必要があるかもしれないな」
と感想を漏らしてからというもの、プルシリーズの動きがやけに良くなった……というか鬼気迫るものを感じる。
それほど私が理不尽なトレーニングを押し付けると思われているのだろうか?多少トレーニングの量が増える程度なのだが。(現在の内容でも普通の人間なら致死量どころかオーバーキル)
フォウの方は、思った以上にクィン・マンサを上手く操り、正面から撃破された。
強化人間であった時はその不安定さからろくに力を奮えなかったようだが、現状では優秀なパイロットと言えるだろう。
そういえばフォウは元々オールドタイプであったとデータにあった。しかし、現在は強化人間ではなくニュータイプという扱いになったと言える……これは人工的にニュータイプを作るのに役立つかもしれない。
ロザミア・バダムが強化以前の記憶を蘇らせた時、もしニュータイプのままだった場合はほぼ間違いないだろう。
問題は、フォウやロザミア・バダムが私が手掛けた強化人間というわけではないため、強化方法のデータが無いことだ。
もっともあまり興味があるものではないがな。
ニュータイプの覚醒へのアプローチが1つ増える程度、しかもその検体に掛かる負担があまりにも大きく、立証するのに一体どれだけ廃人を作り出せばいいかわからない。
男がいくら廃人になろうと気にしないから男の検体が必要なのだが、残念ながらこのミソロギアには私とカミーユの2人しかいない……クローン?何が悲しくて男を量産せねばならんのか。
それはともかくとして、準々決勝の8人が選出された。
先程言った通りカミーユ、フォウが入り、プルシリーズはプル以外の上位ナンバー5人が残った。
正直カミーユ達以外は順当過ぎて面白みに欠けるが……途中から私の発言でプルシリーズが本気になったのだから仕方ないと諦めよう。
そして準々決勝から私も参戦するわけだが——
「これこそが宿命というやつだな」
「本当か?くじ引きの際に不穏なプレッシャーを感じたんだが……」
カミーユが先にくじを引いたことで私のニュータイプ能力が当たりくじを引き当てた。一応言っておくが不正ではないぞ。
「ふふふ、勝負を挑んできておいて負ける無様な姿を見るのが楽しみだ」
(そこまで考えて挑発したわけではないんだが)
もちろん知っているさ。しかし、こういうイベントではノリというのが大切だ……とラノベに書いてあったぞ。
実際——
「お父様頑張れ!」
「父が勝つ、当然」
「負けるな父上!」
「カミーユ、頑張って」
「お兄ちゃんが勝つんだもん」
「カミーユ……無理はしないでね」
外野が盛り上がっている。
それにカミーユも女性に応援されて悪い気はしていないようだから効果があっただろう。
「さあ、始めようか……その前に少し私の機体は専用に調整しているが、かまわないか?」
「なんだかすごく嫌な予感がするんだが」
「私はもうMSに乗るつもりがなかったのでな。多少のハンデは認めて貰いたい」
「……わかった」
「感謝する」
2人がシミュレーターに乗り込み、スタートする。
ステージはア・バオア・クー宙域であり、まだ双方の記憶に新しい場所である。
ミノフスキー粒子散布下でお互いを見つけるところから始まる……が、すぐにお互いの姿を見つけることができたが、最初に見つけたのはカミーユだった。
「……どういう……こと……なんだ」
そこには信じられない光景が広がっていた。
アレンが搭乗しているのはクィン・マンサであることは確認していた。
しかし、その目に入ってきたのは——
「なんでクィン・マンサが10機もいるんだ?!」