第百五十一話
「フハハハハッ、驚いているようで何よりだ」
私が乗るクィン・マンサとMD化したクィン・マンサ9機がZガンダムと向き合う。
乗っているクィン・マンサにはファンネルや武装が全く搭載されていない。その代わり、強化人間人格型OSとサイコミュが複数搭載されている。
MDクィン・マンサにはコクピットを潰し、こちらにも強化人間人格型OSを搭載した。
これで私が操作する手間が減ることになる。わかりやすく言うとゲームなどにあるロックオン機能が追加されたような感じだ。今までは私自身が全てマニュアルで照準を付けていたので随分助かる。
もっともマニュアルよりも命中率が下がってしまうが、その分は数で補うことにする。
私自身が乗るクィン・マンサは防衛手段がないが、9機のMDクィン・マンサが撃破されたなら武装がなされていようと結果は変わらないだろう。
「さて、解説はこの程度として……さあ、存分にクィン・マンサの力を味わうが良い」
各クィン・マンサから10機のファンネルが放出され、90のファンネルが宙を舞う。
そしてクィン・マンサ本体も私の護衛用に2機を配置し、7機を包囲するように展開させ、メガ粒子が一斉に放たれる。
カミーユもただただ包囲されるのを待っているわけもなく、Zガンダムの機動力を活かしてなんとか突破を図っているが……そもそも包囲などしなくてもどうとでもできる。ようはただのおまけに過ぎない。
それに——
「MDクィン・マンサの機動力を上回れると思うなよ」
だいたい、現在のクィン・マンサの機動力は既にパイロットがGに耐えられないという理由で制限を設けているのだ。
そして無人となったクィン・マンサにその制限を掛ける必要はない。
つまり高機動を売りにしているZガンダムの機動力と加速力を簡単に上回る。
「これ——は……!理不尽、過ぎ——?!……るだろ!!」
囲まれたら終わりであることを自覚しているのだろう。
全速力で包囲から逃れながらも必死の回避行動で掛かるGに耐えつつ嘆くカミーユの声が聞こえてくる。
それに比べ、私はお互い相対した時から動きもしていない……まぁMDクィン・マンサとファンネルのコントロールで割りと忙しくはあるが、カミーユほどではない。
「おっと、ビームライフルかと思ったら実弾か、私がクィン・マンサを使うことがわかっていれば当然の対策か」
隙というには本当に小さな隙を突いて私の本体にビームライフルに偽装したマシンガンで攻撃を仕掛けてきた。
もっともそれは護衛に置いたクィン・マンサ2機の触手で全てを弾いたがな。
「冗談——だろっ!」
マシンガンが弾かれたということは、それより数が少なく、弾速が遅いミサイル類は通じないことを意味している。
「これが現実だ。もっともクィン・マンサは量産してはいけない決まりだからこれを実現することはまだ少し先になるが……おっと隙ができたぞ」
どうやら私の言葉にイラッとしたようで集中が乱れたようだ。
ファンネルで背中を撃つ……がギリギリのところでシールドで防ぐが体勢が崩れ、そこに1機のクィン・マンサがビームサーベルで斬りかかるがグレネードで牽制——するが触手で弾くことで少しの遅れしか生まれず、それを理解しているのか次の瞬間にはビームサーベルを抜いて近接戦闘に挑んできた。
「ここは舐めプレイをすべきか真剣に行くべきか悩むところだが……今回は真剣に行くとしよう」
Zガンダムとクィン・マンサが切り結ぶ——と同時に触手でZガンダムの胴体を巻いて引き寄せ——
「さあ、熱い思いを受け取るが良い」
あたりは光に包まれ、クィン・マンサとその周りを飛んでいたファンネルが消滅、当然Zガンダムも消滅する。
「うむ、さすが地球を滅ぼすと言われた核だ。なかなかの威力だ」
クィン・マンサによる自爆。
しかも自爆に使われたのは核であるため、その威力は折り紙付きだ。
ちなみにこの核はミソロギア宙域に漂う、ルウム戦役時に用いられたザクの核武装の弾頭を回収しているので実現可能だ。
GP02のアトミックバズーカのデータもあるので普通にしようすることもできるが……使う機会はないことを願う。
シミュレーターから出ると、迎えられたのは……拍手はあるが、どこか白けた空気だった。
……確かに真剣にやりすぎたかもしれない。
せめてMDクィン・マンサを3機程度にしておけばまだ良かったのだろうが、9機は過剰過ぎた。
催し物だから派手に、ということでインパクトを重視し過ぎたようだ。
それに、このクィン・マンサ・ストラティゴス(ギリシャ語で将軍の意味)を使えば私の優勝は確実なので辞退することにした。
決してフォウがプルツーに敗れたからではない。
ちなみにプルツーvsフォウは私の戦いとは違い、大盛況だった。
プルツーとフォウでは実戦経験も実力もプルツーが上なのだが、性格的相性というべきか、なぜか押し切れずに接戦となっていた。
結局は冷静に戦い抜いたプルツーが勝利を収めたが、シミュレーターから出てきた姿に疲労が見えていた。
もちろん対戦相手であったフォウも疲れていたが……正直、現状の最高傑作であるプルツーがこれほど苦戦させられるとは思いもしなかった。
その後の戦いはプルツーが危なげなく勝利を飾り、優勝した。
「さて、優勝したプルツーには何か賞品を用意しなければいけないな。何がいい?」
「私にも専用機が欲しい」
…………また面倒なことを。
「……パーソナルカラーでは駄目か?」
「駄目です」
「わかった。何か考えておくとしよう」
「ありがとうございます」
……私が言うのはなんだが、欲しいものを聞かれて専用機と言われるのはなんとも複雑だな。