第百五十ニ話
シミュレーター大会も終わり、花火に移行する。
もっとも花火と言っても広いコロニーとはいえ、打ち上げ花火を本当に打ち上げるとなると危険極まりないので視覚はホログラムによるもので、匂いや音は別に再現しているので体感的には本物に感じるだろう。
実際カミーユ達は感動していた。
しかし、肝心のプル達は呆けている。
どうしたのかと問えば——
「MSが爆発してるのとどこが違うの?」
と返ってきた。
そう言われてみれば確かに——
「違うでしょ!なんでそこで納得しちゃうのよ!」
とファ・ユイリィにツッコまれた。
いや、私自身綺麗だとは思うが、花火の色を見る度に使われている金属が頭に過るのだから納得してしまうのも仕方ない……と言っても納得してくれないのはわかっているのでとりあえずスルーしておく。
しかし、まだ実戦を経験していないプルシリーズは興味深げに眺めているので意味が無いということはないだろう。
しかし……プルシリーズの世代差が進むに連れ、経験の違いから多様性が生まれ、近い将来間違いなく犯罪……いや、私の都合が悪いことを行うものが出てくるだろう。
その気配は私が察知できる。となるとそれを再教育するための組織が必要か……だが、現状の私達にはトップを私、次点でスミレ、他は姉妹の経験上から来る年功序列は存在してもほぼ平等という形で構成されている。
新たな組織を構築することによって特権階級が誕生してしまうことになるが……将来を考えれば仕方ないことなのだろうか。
特権階級というのは管理する上では便利なものだが、腐敗や不満が溜まるものでもある……実際指揮や交渉役を任せることが多いプルツーに、不満と嫉妬を抱く姉妹も現れてきているのを把握している。
嫉妬する者にしたいことに対しての教育を施すことで対応しているが、いつまでこれが保つやら。
国、組織の運営というのは本当に大変だ……私はなぜこんなことをしているのだろうか、確か本業は研究者、副業で開発者だったはずなのだが?
葬儀から1ヶ月、ハマーンから私が待ちに待っていた知らせが届いた。
それはグリプス2、コロニーレーザーの解体が決定し、既に解体作業に入っているというものだ。
正直いつ私達に向けられるかわからず、戦々恐々としていた。ほぼ常時ミノフスキー粒子を散布してミソロギアの座標を掴まれないようにしていたが、物資の損失も馬鹿にできず、本当に良かった。
しかし、油断をして足を掬われるのはごめんだ。ミソロギアのダミーバルーンを設置し、その上、外部との交易所を用意した。交易所からミソロギアに輸送する際はミノフスキー粒子を散布して隠蔽する。
これでミソロギアの正確な座標は把握されることはないはずだ。
「これで少しは安全に研究ができるな」
ハマーンから送られて来た情報は他にもある。
エゥーゴと新生ティターンズは直接争う兆しはなく、あくまで政争に留まっているらしい。平和なことで何よりだ。そのままこちらに注目しないでもらいたいものだな。
案の定と言うか、エゥーゴのバックであるルナリアンと新生ティターンズのバックである地球至上主義が激しい言い争いになっているとのことだから大丈夫だとは思うが。
「そういえば、プルシリーズの中から料理と芸術に興味を示した者が出たらしいな」
「はい。最近生まれた戦闘教育を施していないプルシリーズです。やはり児童教育と同じく教育が大きく趣向に影響を与えるようですね」
クローンであっても例外はない可能性が高まったわけだ。
それに戦闘行為は訓練や実戦を経験すれば他のものよりずっと精神に影響することが多い。となると兵士は兵士として教育すべきか?しかし、そうなると防衛戦力の確保が難しくなる……やはり職業の自由化はまだ先か。
「しばらくは戦闘教育を優先する。それとゲーマルクに搭載したマザーファンネルはやはり使えないか?」
「かなり難しいですね。クィン・マンサを操縦しながらファンネルを動かす事自体がハードルが高いのに更に数を増やすとなるとクィン・マンサもファンネルも、どちらも誰も満足に動かせませんよ」
マザーファンネルは親であるファンネルにサイコミュを搭載し、子ファンネルを制御するというものである。
これにより子ファンネルの数を増やせばウェイトが重くなるはずの本機が、親ファンネルにサイコミュを搭載することで軽量化することができる……はずだったのだが、結果的にパイロットには負担を強いることになってしまうことが判明した。
「では、サイコミュによる誘導ミサイルの再現を優先するか」
「その方がいいでしょうね。Iフィールドを搭載するMS同士の戦いがないとは言い切れませんし」
というか十中八九あるだろうな。
クィン・マンサとTR-6の戦いを見た者達は間違いなくその必要性に駆られることだろう。
一応軍縮の勢力が勝てばそれもなくなるだろうが……エゥーゴ、新生ティターンズ、ネオ・ジオン……そして遺憾ながら私達という軍事力を有する者が複数存在する以上、軍縮は無いだろう。
そうなると仮想敵はア・バオア・クーの決戦で活躍したクィン・マンサという事になり、対抗する手段としてまず前提条件としてIフィールドだろう。
これがなければこちらが勝つのはほぼ確定なのだから。
それの対抗策に考えたのがサイコミュによる誘導ミサイルだ。
以前から案はあったのだが、使い捨てするサイコミュとミサイル自体の資源の問題で実現は難しいと思っていたがサイコミュはバイオセンサーのように部分的な機能を持たせることでコスト削減し、ミサイルは宙域に浮いているものを再利用するという限定的生産なら可能……ということにした。
「サイコガンダムmk-II程度ならば問題ないがTR-6が量産されては面倒だからな」
「そういうことを言ってると本当に出てきそうで怖いですね」