第百五十六話
カミーユの機体はそれでいいとして、フォウも用意しておこうと思う。
研究者としてはいざという時の対策はしておかなければならない。キュベレイやクィン・マンサが使えないことはないだろうが、せっかくデータが集まったのだからやはり殺し合いをするなら最善を尽くして適したMSを用意しておきたい。
それにプルシリーズは姉妹であるため連携が取れるが、フォウは未だ共にした時間が少ないのでそれを望むのは酷というものだ。
戦場で孤立してしまったなら最悪、戦死もありえる。
「一応でもクィン・マンサを動かすことができたならグレードダウンさせてしまうか」
……これは既にクィン・マンサの量産型ではないか?
とりあえず、あまりにもオーバースペック過ぎるクィン・マンサの火力、ファンネルを減らすか、特にサイドバインダーの背面に内蔵されているメガ粒子砲は他の機体と運用することを考えれば必要ないかもしれない。
機体デザインは……面倒なので大型キュベレイでいいか、しかし、この程度のダウンサイジングではメリットよりデメリットの方が上回る気がする。
いっそMDを前衛、本体が後衛という役割に徹すれば……いや、それだと本体の武装が貧弱になり過ぎるか。
もう少しサイコミュを小型化できないか、スミレとカミーユで考えてみるか。
それまでは……クィン・マンサをデザイン変更してキュベレイのものにした機体を製造するか。あくまで臨時だ。
ちなみにプルツーの機体の素案はできた……が、あくまで素案であって今から叩かなければならない。
こちらは新しいシステムを導入することでいつ出来上がるかわからない……とプルツーに伝えたところ微妙な顔をされた。
もっとも気に入らないのはいつ出来上がるのか、ではなく、新しいシステムがお好みではなかったらしいが、これが完成すれば私達の戦力は数倍になることだろう。
こう言っては何だが、1番使えそうにないファ・ユイリィの扱いに困るとは思いもしなかった。
常識を持っているため、教師が適任だと思っていたが、料理もできることが判明したのが問題だ。
私はプルシリーズの成長を優先して教師を任せたかったのだが、プルシリーズから食堂のおばちゃんに専念してもらいたい、という圧力が日に日に増している。
美味いものを知ってしまって不味いものには戻れないというのがプルシリーズの言い分だ。日頃は聞き分けのいいというのに今回だけは頑なだ。欲求の中で食欲がどれだけ強いかがわかるな。
なぜ専念を希望しているかというとプルシリーズだけで既に人口130人(10人増えた)となった。
普通の企業ならば休日や営業時間などがあるだろうが、ミソロギア……この場合コロニーか、の運営にそのような時間は無く、24時間仕事をしているプルシリーズが存在する。
もちろんローテーションを組んでいるが、料理のおばちゃんはファ・ユイリィ1人なのでどうしても働ける時間も調理できる量も限られてしまい、プルシリーズ全員が満足に利用できているとは言えない。
一応私もたまに触手で手伝っているのだが焼け石に水状態で、これからも人数を増やし続けることを考えると頭が痛い。
しかし——
「まぁ食事の大事さを知るのも成長の1つか」
ということでファ・ユイリィを専属食堂のおばちゃんにすることが決定した。
ちなみに食堂のおばちゃんという呼び名はプルシリーズ内で定着してしまっている。そして呼ばれる度に私への殺意を感じる。悪ノリし過ぎたか。
「これで小さな反乱は鎮圧……できるといいが……食糧事情を解決、いや改善するしかないか?」
仕方ない、少し高値のレトルトを購入するとしよう。ただし、今あるレトルトが残っては勿体無いので量は制限するが。
ああ、この安いレトルトは日保ちするのだから非常食としてストックしておくべきか、とりあえず200人で3年は保つようにしておこう。
地球では自然災害によって食糧難が起こるらしいが、宇宙では自然災害は少ないが交易が止まれば干上てしまうので人災が怖い。
ちなみに宇宙でもフレアという太陽の爆発現象による災害がある。もっとも対策はしてあるが、安い輸送船などは多少不具合が出ることがあるらしい……そんな安物買いをした方が悪いと思うのだが、不思議な事に需要は結構あるらしい。
それはともかくとしてそういうことから宇宙であっても備蓄は必要である。
などと思考が脱線し始めたところでファが話しかけてくる。
「あのー……調理する機械とか作れないんですか?せめて具材を切る機械なんかがあれば随分違ってくるのよ」
「…………」
全く考えなかった。
言われてみれば機械である程度の調理は終わるじゃないか、なぜ気づかなかった。
ああ、私もお菓子作りを手掛ける身としてはやはり機械は無粋だ、などという妙なプライドがあったのかもしれないな。
だから気づかなかったのではない、無意識に避けていたのだ!