第百五十八話
現在、ミソロギア内では空前のミニチュアMSブームが到来している。
どうやらサイコミュを使う疲労感はあるが痛くない、辛くない、楽しいことがプルシリーズに受けたらしい。
特にミニチュアMSで行われる野球やサッカーなどのスポーツが好まれている。それに伴いプルシリーズからスタジアムの建設の要望が多数挙げられてきた。
ミニチュアMSに合わせてのものであるため必要な設備、面積などはそれほど大きいものではないのだが問題は時間である。
最近、私は余計なことに時間を費やしているので研究が思うように進んでいないこと、このMDが実戦投入可能かどうかわからないこと、それにこれから次期主力機を検討、生産していくために資源の消費も抑えたいという理由で保留とした。
「まさかこれほどハマるとは……」
「私のところに専用のミニチュアMSを作るように頼み込んでくる子もいましたよ」
「ああ、俺のところにも来たぞ」
スミレとカミーユの二人がぼやいているが、もちろん私のところにもかなりの数が来ている。ただしこちらは却下している。
人数分作るだけなら別に構わないのだ。しかし、これらは全て機械であるため整備が必要なのだ。
さすがに100を超える人数分の整備ともなると手間過ぎる。
「ミニチュアMSのフレームをもっと簡略化させてみたらどうだ?本来のMSとは離れるが、量産性と整備性は上がりそうだぞ」
「それでは本末転倒だ」
これはあくまでMDの訓練のために開発したものであり、遊びのために開発したものではない。遊びはあくまでおまけなのだ。
ちなみにプルツーや一部のプルシリーズは一切見向きもしないでストイックにシミュレーターに乗り続けている。
やはり別の人間とはいえ、遺伝子が同じなのだから教育が多少違ってもある程度の性格の偏りがある。しかし、その偏りから外れた者もかなり偏りがある。
どちらかと言えばプルのような天真爛漫とした性格が主流であるのに対して、プルツーのような冷静で厳しい性格は少数派の主流といった感じだ。
「しかし、訓練ばかりでは息が詰まる。もう少し娯楽があってもいいじゃないか」
「それは守られることを前提とした発言だ。忘れるな。ここはいつ襲われても不思議ではないのだ」
だからこそリスクが高い両替機などを置いて、無理やり資金を稼いでいる。そうでなければこんな後々に面倒になりそうなことはしない。
「……アレにも一応理由があったのか」
「当然だ。だからこそプルツーは気を抜くこと無く、訓練をしている」
プルツーを贔屓しているように聞こえるかもしれないが、プルシリーズ全体で見るとおしゃべりであったり無口であったり様々だが基本的には能天気な性格をしているものが多いのだから仕方ない。
「わかった。じゃあしばらくは保留だな」
「そうするしかないだろう。少なくとも次期主力機がロールアウトするまでは、な」
と言う話から2ヶ月経った。
そして、目の前にはキュベレイがある。
ただし、そのサイズは30mと巨大化(普通のキュベレイは18mと少し)しており、サイドバインダーや胸部、腹部に砲口が存在する。
つまり——
「とりあえず試作機の完成だな」
「これがキュベレイ・ストラティオティスね……名前長くて言いにくいわね」
そんな失礼なことを言っているのはフォウだ。
ネーミングセンスがないのは自覚しているし、略称としてストラティオ、もしくはストラあたりになりそうだ、という覚悟もある。
ちなみにストラティオティスとはギリシャ語で兵士や軍人などを意味する。
「それにしてもメガ粒子砲は1門だけなんて随分思い切ったわね」
そう、この機体、砲口が多数あるが、ほとんどはメガ粒子砲ではなく、普通のビームが採用されている。
それはメガ粒子砲の出力を保たせるには現状の技術ではどうしても大型化しなくてはならないので諦めた。
「その代わり、その1門しかないメガ粒子砲は通常のメガ粒子砲より出力が3倍ある。その上、ファンネルのビームも出力を倍にしてある」
もっともファンネルが少し大きくなってしまい、搭載基数が減ってしまっているが、今までのデータからファンネルの消耗率が思った以上に低いため、多少基数が減ったところで支障はないはずだ。
むしろ計算では出力が上がったことで有効射程が伸びたことで生存率が今までより高まるという結果が出た。
戦場は計算では図れないことが多数あるから油断はできないが、それでもある程度指針にはなる。
「それに加え、ミサイルを搭載したファンネルも少数ながら搭載しているからな」
Iフィールド対策である実弾兵器には悩んでいたが、ミサイルをサイコミュで操作するという方針で考えていたが発想を変え、ファンネルでミサイルを当てに行くことにした。
これによりミサイルに情報処理機能を付け加える必要がなくなるため、コストは大きく下げることに成功した。
ただし、Iフィールド対策ということで威力が高いミサイルを採用したことにより重量が増加、それは避けられないと諦めるしかないだろう。
機体自体のスペックは機動力や運動性などはクィン・マンサと同等を維持しているが、それではプルシリーズが操縦しづらいだろうとリミッターを設けている。
そのリミッターは脳波測定でパイロットに合わせて自動的に調整される。
これによりどのプルシリーズでも操縦が可能ということだ。
一応カミーユとフォウのデータも入れているが、まだデータ不足であるためリミッターが上手く作動するかどうかは未知数だ。
「これを量産するんだよな」
「まだテストが残っているが、順調に行けばそうなるな」
(やっぱり過剰戦力なんじゃないか?)
いつ戦闘になるかわからない今は過剰であろうが防衛は大事だと何度言えば理解できるのか……まぁ自分達が命を賭けて平和を手に入れたと思いたいカミーユにはまた殺し合いをしないといけないかもしれないというのは目を逸らしたい現実か。