第百五十九話
キュベレイ・ストラティオティスの試験を始めた。
火力こそクィン・マンサに劣るものの機動性、運動性は同等、しかもサイズの差も相まって上回っているように思える。
そして特に入念にテストを繰り返しているのはミサイル搭載型ファンネルである。
現在、ミサイル搭載型ファンネルは1基に大型ミサイル2発と標準型ミサイル3発と小型ミサイル4発のものが用意されていて、どちらが効率的か念入りにテストしている。
Iフィールド対策という用途を考えれば大型ミサイルがいいと思うのだが、大型というだけあって避けられやすい。小型だとチャンスは多くなるが威力が足りない。
標準型はバランスがいいが中途半端な気がする……結局プル達の得意なものを選ぶことになりそうだな。
そうなると問題は生産ラインの確保か。さすがに各種揃えるとなると必要な設備が多過ぎる。
標準型はパノプリアの第1コンテナに搭載してあるミサイルと同型であるため、これは問題ない。
問題は大型と小型だが……パノプリアと同時運用も考えると大型一択か。小型ミサイルは弾幕のような役割が主だが、パノプリアは標準型で弾幕を張ることができるのだし……まぁ結局は試験結果次第なのだがな。
しかし——
「当面の課題は機体性能はこれ以上を要求するとなるとパイロットが保たないことか」
耐GスーツでGを軽減し、身体能力が強化されているプルシリーズでもMSにこれ以上の機動性や運動性を持たせると身体に負担を掛けすぎることになり、1回出撃すると重傷、なんてバカみたいな事になりかねない。
だからと言ってMDを操縦させるには高機動過ぎると求められるニュータイプ能力と操縦技術が上がる。
それにMDは高性能なサイコミュが必要であるため、MSサイズに収めようとするとクィン・マンサ・ストラティゴスのように非武装となる。一応Iフィールドを搭載しなければ多少は武装化できるが、あの巨体で防御力を落とすという選択肢はない。
「……新しいクローンか」
1つの選択肢ではある。あるのだが……昔の一研究者であった頃なら喜々として研究、調整していただろうが今の私は組織を運営する側の人間になってしまっている。
そうなると不要なリスクを避けたくなってしまうのだ。
今の人口のほとんどはプルシリーズだ。
そのプルシリーズが新たなクローン体に対してどのような反応を示すかがネックとなる。
現状はプルシリーズ達同士は姉妹であることから問題は比較的少ない。
しかし、忘れてはいけないのは人類というのは肌や髪の色が違うだけで差別を行い、格差を付けたがる存在なのだ。
新たなクローン体を生み出すということは戦闘面ではプルシリーズを上回るものを作ることになる。そうなれば……最悪の場合、内乱が発生するという可能性が低くない。
組織運営だけでも難しいというのに、過去にない大半がクローンである組織など前代未聞であるのだから手探りなのは仕方ないが……非常に窮屈だ。
それは突然だった。
まだまだ距離があるが、明らかな敵意がこちらに向かって近寄ってきている気配を感じた。
「ミノフスキー粒子を散布したか、これは決まりか」
今までこの宙域でトラブルがなかったわけではない。
ジャンク屋達が勝手にデブリを回収しようとして追い出したり(ジャンク屋からすれば勝手にアレン達が占有している)話し合ったり、時には砲艦外交で解決してきたのだ。
そういう意味では1番有力な敵勢力はジャンク屋だが……今更になってジャンク屋が動くのか、このタイミングで動く必要があるのか、という疑問だ。
しかし、ネオ・ジオンにしろエゥーゴにしろ新生ティターンズにしろ私達の力であるクィン・マンサ・パノプリアの強さを目の当たりにしている以上、そう簡単に挑んでくるとはとても思えない。それ以前にキュベレイすらも一般兵では相手にならないと知っているはずだが……となると両替機の利用客の誰かか?
口封じや集められている金を狙ってきた可能性が高いな。もしくは技術を狙ったものか……もしそうなら裏ではアナハイムが動いている可能性もあるか。
「にしても舐められすぎていないか」
こちらに向かってきているのは輸送船2隻、輸送船というからには機動性はともかく、積載量が多いはずで、MSを搭載しているなら軍のように武装を複数用意するなどしない限り、かなりの数が載せることが可能だろう。
しかし、所詮は輸送船である。
キュベレイを出すどころかアッティス単艦でファンネルも使わずにメガ粒子砲のみで沈めることが可能だ。
「そうか……私は敵意があることは明確にわかるがオールドタイプがほとんどの世である以上、現段階で落とすわけにはいかんのか」
それに万が一、一般企業の輸送船を落としたという話になってしまうと私達はテロ組織と認定されてしまう可能性がある。
そうなればハマーンがそのつもりがなくてもネオ・ジオンとの繋がりが断たれることになる。
「面倒な事態だな。早急に捕縛して月かネオ・ジオンに引き渡すか」
そもそもミノフスキー粒子を無許可で散布するのは確か法律違反なので捕縛には問題ない。(アレン自身もミソロギアを隠すためにミノ粒を散布しているので完全に棚上げ状態だ)