第百六十話
一応推定侵略者達は真っ直ぐこちら、交易所に向かって来ている。
おそらくミソロギアの場所は掴めていないため、座標を把握している交易所を目指しているのだろう。
交易所に着いてから仕掛けてくるつもりか?しかし、それならミノフスキー粒子を散布する必要がないはず、なら必ず仕掛けてくるはずだ。
キュベレイ・パノプリア1機とキュベレイ6機を先行出撃させ、侵略者達の後ろに回り込ませ、正面にキュベレイ6機を配置し、いつでも狩れる準備はしているのだが、敵対行動を起こさないのでは攻撃しづらいな。
……よし、検閲を名目に接触するか。そうすれば何らかのアクションが返ってくるだろう。
早速プルシリーズに検閲を行うように伝え、実行に動く……と、それに応えるかのように侵略者がアクションを起こした。
輸送船のハッチが開き、続々とジム・コマンドやジムIIなどの旧式MS達が20機ほどが出現する。
「……これだけの数を揃えたのはどこの勢力にしても褒めてやるが、こんな戦力で私達に勝てる勢力がいるとは到底思えないな。やはり別か?」
これがエゥーゴや新生ティターンズ、ネオ・ジオンなら使い捨ての戦力だったとしてももう少しマシな戦力を投入してくるだろう。でなければ——
「父さん、敵を無力化しました」
——何もできずに全滅してしまうことぐらい知っているはずだ。
語るまでもないとはこのことである。
戦争は数、これは1つの答えではあるが、敵が倍程度なら質でどうとでもなるということは目の前の結果で証明している。しかも、無力化……つまり、殺さぬよう手加減をした上で、この戦果だ。
もっともキュベレイとパノプリアによる挟撃など私でも相手はしたくないがな。
「敵の行動から察するに素人ではないようだな」
感想としては訓練はしているが実戦は経験していない、俗に言う新米兵士のようなイメージだ。
そのあたりの疑問はパイロットと共鳴すればわかることか。
「輸送船の方はどうなっている」
「キュベレイ6機による包囲は完了し、現在降伏勧告を行っています」
「そうか……自爆されて被害が出るのも馬鹿らしいから一定の距離を保つように伝えろ」
「了解」
この程度の戦力で攻めてきたのは油断を誘うためで、狙いはこちらの消耗という可能性もある。これをやられると1番厳しい戦術だ。
例え人的被害はなくともMSの出撃には推進剤を消耗し、補充するには輸入に頼らなければならない。それに整備にも時間が取られる。
つまり、私の研究の時間と資金が減ってしまう。
「ミニチュアMSを投入してみるか」
少なくとも補充に時間が掛かり、貴重な人的被害を防ぐことができる。
触手を装備したプルシリーズが対人戦で遅れを取るとは思わないが、艦ごと自爆などでされては耐えられない……ふむ、さすがに爆発などは難しいが、銃弾ぐらいは防ぐ皮膚でも作るか?以前、作ったリザードマンをモチーフにしたものがそれに近いのだが、あれは重かったから実用には至らなかったがもう1度挑んだ見るか。
急遽ミニチュアMSを投入して輸送船の制圧は完了した。
幸い、私の心配は杞憂であったようで、船内からは爆発物などは出てこなかったが念の為に交易所やミソロギアなどではなく、適当に宙に停留させている。
このまま何事もなかった場合、この2隻は新たなMS母艦として使いたい……と思っていたのだが、よく考えるとクルーが足りない。
全て私が操るということも考えたが、欲している理由が私が眠っている時や別行動している時に必要であろうと思ってのことなので私が不在を前提にしなくてはならない。
それにアッティスは私が1人で整備をしているのでプルシリーズにはその手の知識がないのも問題だ。
完成するのに人ほど時間が掛かるものはないな。まぁ死ぬまで完成する人もいないのだが。
「さて、楽しくない尋問タイムだ」
捕虜にしたのは153人、その内、共鳴により10人ほど廃人にしたがあまり得られた情報は多くない。
仲介を挟んでいるようで差し向けた者が誰なのかは把握することはできなかった。
いくらニュータイプとは言っても、知らないことを知ることはできない……まぁ未来予知みたいな能力はあるが。
ところで……こいつら……私達が養わなければならないのだろうか?宇宙に投げ捨てても問題無い気がしてきたぞ。
「気持ちはわかりますけど、さすがに駄目ですよ」
よく国は犯罪者を刑務所に入れるという形で養っているな。
正直、役に立たないどころか邪魔でしか無い人間なんて早々に死刑にしてしまった方がいいと思うのだが……特に重犯罪者は。人権?他人の人権を踏み躙るようなやつに人権は必要ない。
「仕方ないか……とりあえずシャアに連絡をして迎えにこさせるか、それまでの間は3日に1度の食事でいいよな」
「それなら問題ありません」
「問題しかないわ!」
スミレが納得したのに横から別の声が上がる。
その声の持ち主はなぜかこの場にいるファ・ユイリィのものだ。
「人を捕まえたというので嫌な予感がして来てみたら案の定ですね!!」
「しかし、私達にはあの人数を養うだけの余裕はないぞ。そもそも私達より人数が多いんだぞ?普通に食事をさせるとエンゲル係数が倍になるんだぞ?自分達を殺しに来た人間にそこまでするのか?」
「で、でも……」
さすが常識人のファ・ユイリィ、しかし、私達にはできることとできないことがある。
これが10人ぐらいならまだ考えるのだがな。考えるだけだが。
「なら妥協して1日1食だ。これ以上は譲れんぞ」
これでも3日過ぎれば私達の1日の食料が消費されることになるのだ。
「……」
それでも納得していないがこれ以上言う言葉がないといった感じだな。
「心配せずともシャアに連絡すれば迎えはそう経たずに来るさ」
「……わかりました」
ファ・ユイリィの正論は煩わしくはあるが、常識を言ってくれるというのは助かるな。私1人だったならこいつらは既に宇宙の海に放り投げていることだろう。