第百六十一話
シャアに1週間以内に引き取りに来い、さもなくば月に放り投げる。と言ったところ、4日で引き取りに来た。
こういう時は自身が常識を知らないことで得した気分になる。本当にやるかもしれないと思わせないと脅しというのは通じないのだ。特に政治家などの気位が高い者相手には、な。
実際あまり長い間捕虜とするなら本当に最低限の食料と空気を持たせてノーマルスーツで月へ放り投げるつもりだった。まぁ外部に取り付けた食料をどうやってヘルメット越しに食べるかは知らんが。
それはともかくとして、黒幕は誰か割り出すことが出来なかったが、この捕虜達の身元は既に割れている。そのほとんどが元連邦兵であった。
その事実を手札に交渉した結果、シャアから……正確にはエゥーゴを通して連邦から慰謝料をもぎ取ることに成功した。
やはり持つべきは組織の上位者との人脈だ。普通ならこれほど早く、簡単に話がまとまることはない。
これにより収支的には黒字となり、これならもう少しなら襲われてもいい……とは思うが、その度にプルシリーズの命をチップに賭けるのだから本気ではないが。
「さて、今回は随分と念入りに黒幕は姿を隠しているようだな」
前回のミソロギアに対するジオン残党を使った侵攻の時は共鳴してしまえばすぐに顔が割れていたのだが、今回はこちらの能力を把握しているかのように見事な隠蔽だ……いや、以前が間抜け過ぎただけか。
報復しようにも今のところ手がかりは……ああ、そうだ。全て四肢が落とされたMSがあったな。
MSを維持するには多くの部品が必要だが、その部品から製造場所を特定できる可能性がある。製造場所がわかったなら調査の手がかりとすることができるだろう。
ただ、おそらくだが今回はネオ・ジオンであるの可能性はかなり低いだろう。
連邦系のMSが多く使われていた以上、施設を新たに用意をしなければならないネオ・ジオンだとわざわざ投資を行わなければならなくなるからだ。
「今回の襲撃を防いだことで安全面に関しては評価を得ることができたのも良かったな」
20機もの部隊を被害無しで、速やかに撃退したことは私達の力をわかりやすく示すことができた(ア・バオア・クー戦などはエゥーゴやネオ・ジオンなどが情報統制している)のでサイド7との取引が本決まりした。
普通は襲われるようなことがあれば見直しするのではないか、と違和感があったので調べてみると思った以上に宇宙海賊が存在していることが判明した。
私はてっきりほとんどがジオン残党だと思っていたが、今はネオ・ジオンという帰れる場所があるにも関わらず海賊が存在し続けるということは、ジオン残党が味を占めて抜け出せないか、それとも別組織であるということか。
それを取り締まるのは連邦軍であり、エゥーゴであり、新生ティターンズであるはずなのだが現在は上手く機能していないようなのだ。
簡単に言うと利権争いにより、穴だらけの哨戒網であるため、戦力は軍縮前だから充実しているというのにイマイチ成果を上げていないらしい。
それに業を煮やしたサイド7は私達に航路の護衛という仕事も押し付けようと交易の話の中にそれも含まれている。
それなりの代価は払われるし、賊相手とはいえ、実戦経験を積めるならと前向きに検討している。
ちょうど母艦とできそうな輸送船は手に入った……改めて分析して成果だけ見るとまるで自作自演のように思えるほどの利益を上げているな。
もっとも1番欲しい研究時間は潰されているのだが、それは凡人には理解できまい。
「ろくな戦闘データも手に入れることができなかったな」
圧倒的な実力とMS差で駆逐した今回は戦闘と言えるかどうか……過剰戦力が過ぎたな。強いて戦果があるとするなら、プルシリーズの新人が実戦経験を積めたことぐらいだろう。
ただ、それで実戦を舐められる可能性もあるので改めて教育を施しておく必要があるな。
部品を解析してみるとそれはアナハイム製である可能性が高いということが判明した。
「となるとアナハイムから調べる……といきたいが、藪を突くにはリスクが高過ぎるか」
食料自給率が低い私達はアナハイムからの輸入に頼っているため強引なやり方は自身の首を締める結果になりかねない。
だからといって穏便な方法では海千山千の強者揃いのアナハイムから何かを引き出せるとは思えない。
少なくとも食料自給率が改善されるまでは保留するしかないだろう。
「それにしても一世代前の機体を改めて分析するというのもなかなか乙ではあるな」
特に連邦のMSのものとなればデータが少なくて嬉しいものだ。
今に至る過程を知ることも研究では大事であり、得られる情報も多い。
ジム・コマンドなどは一年戦争末期に作られたもので、その頃になるとジオンにも余裕がなく、情報があまり得られなかったし、戦後は私自身がアクシズという辺境に移ったので情報はカタログスペックだけ、ミソロギアの周辺に漂うデブリはほとんどがボールやジム、サラミスやマゼラン、コロンブスやセイバーフィッシュなどであったため結構嬉しかったりする。
贅沢を言えば少数生産されたというジム・スナイパーシリーズが欲しいところだが……