第百六十三話
片手間どころか設計に費やしたのは30分程度のMSがサイド6に採用されてしまった。
少し申し訳ない気がするので真面目に設計し直してコストと重量を10%カットして再提出、無事再採用された。
ノックダウン生産、つまり私達が生産し、組み立てはサイド6で行われ、消耗が激しいパーツのみ現地生産を行うことになっている。
さすがにサイド6の防衛戦力だけの生産なら設備投資は効率が悪いので当然といえば当然だな。
それにMS生産設備を用意してしまうとジオンの再来か、と連邦に必要以上に警戒されてしまうという考えのようだ。
これなら万が一、反旗を翻したとしてもサイド6、ミソロギア間の交易路を閉鎖してしまえばサイド6も補給線が途絶えてしまい、大した脅威にはならない……もっとも交易路を閉鎖しようとすれば約定に基づいて私達が戦うことになるので巻き込まれる可能性があったりするが、その時は遠慮なく切り捨てるつもりだが。
ちなみにだがこの機体の名前は知らん。サイド6の奴らが勝手に決めるだろうからな。ミソロギア内で使われている呼称は量産型Aだ。
「思わぬ臨時収入だ。今から予算会議を始める。ナンバー順に意見を述べろ」
スミレとプルシリーズとカミーユ達を揃えて大会議である。
サイド6へのMSの輸出はその経済規模から20機にも届かない程度の少数になるのだから追加注文などいつになるかわからないので臨時収入と言っても間違いではない。
「温泉!」
「パノプリアの追加生産を」
「……ミソロギアに砲台設置」
「シミュレータの増設」
「姉妹がもっと欲しい。戦争は数ですよ、父上」
「目指せサウザンド」
「ミニチュアMS大会開催」
「あ、じゃあ触手武道大会」
「えー、それはちょっと……せめて武道大会?」
「私的に使えるMSが欲しい」
「シミュレータの敵にもう少し弱いのを追加して欲しい。強さが極端過ぎて辛い」
と、上位ナンバーのほとんどは軍備に関してのことで埋め尽くされる。
これは教育の賜物と言っても過言ではない。もっとも、研究者としては軍人的感性に偏り過ぎてニュータイプとして劣化していかないか心配だ。
その点、プルは心配はいらないな。
中位ナンバーも半数が軍備、半数が食料の充実のことで、下位ナンバーはほとんどが食料に偏っていた。
これが量産の弊害か、それとも大量生産の弊害か、それか戦争未経験者ゆえの緩みか……この前、賊が現れたばかりだから最後はないと思いたいのだが。
「スミレとカミーユ達はどうだ」
「研究設備ですね!ちょうど欲しいと思っていたレーザー彫金機があるのよ!」
間髪入れずとはこのことだ、と言わんばかりにスミレが主張する。
その衝動は同じ研究者として理解できるが、かなりの予算を渡しているのにまだ足りないのか……足りないんだよなぁ。
「俺は特に無いかな」
「仕事を減らして欲し——「却下、次」——なんでよ!」
ファの仕事を減らすとプルシリーズの士気が下がるのだから仕方ない。ほら、プル達の表情を見てみるといい……こら、わざと見ないフリをするな。
「私は……そうね、山が欲しいわ」
「フォウよ。貴様の願いはなぜ一々でかいのだ?嫌がらせか?」
海の次は山か、ただし、海より難易度が上がっている。
コロニーは回転することで重力を得ているわけだが、外周から離れれば離れるほど重力は弱くなるため高層ビルなどは建てられない。せいぜい4階程度が限界なのだ。
しかし、その程度は山と言えるかどうかと言われれば微妙だろう。
「私は飴が欲しい!」
うん、ロザミア・バダムは平和でいいな。ちゃんと用意しておくとしよう。
とりあえずプルツーの意見は採用しないことは当人に話している。
最近、プルツーを優遇し過ぎているように取られているため、今回は見送るという形で示す……これが知られればやはりプルツー優遇と言われそうだが、バレなければいいのだ。
「まずは低コストが安く、手間がかからないものから採用するぞ。まず温泉、触手武道大会並びに武道大会、ミニチュアMS大会、シミュレータ増設を採用。防衛戦力として必要なパノプリアの増産も採用。プルシリーズは1000人まではさすがに無理だが姉妹を近いうちに50人増やそう。カミーユ達にはこれをやろう。ちなみにスミレの案は自身の予算でどうにかするように」
そんな……と崩れ落ちるスミレをよそに、カミーユ達にあるものを渡す。
「これは……」
カミーユとファ、フォウの(引きつった)笑顔を見る限り、サプライズ成功といったところだろうか。ロザミア・バダムは何か理解できていないようだが。
「もちろん君達専用の触手だ」
触手のサイコミュは私とプルシリーズ専用に調整されていて他の者には動かすことができない。
ファはあまりニュータイプの素質がないが、日常生活の補助するぐらいならすぐに使いこなすことができるだろう。
ハマーンすらも上回り兼ねない素質を持つカミーユや強化されていたフォウ、強化されているロザミア・バダムは言わずもがな。
「これを私達に使えと?」
「それ以外に何がある。そうそう、ファは使いこなせると仕事が大きく捗るだろう」
私の言葉にファの意思が揺らいでいるのが手に取るようにわかる……元々その気になれば手に取るようにわかるのだがな。
そしてプルシリーズからは「諦めが肝心」や「こちらの世界にようこそ」や「慣れれば便利ですよ。羞恥心を捨てれば」などなどの言葉が掛けられている。
その便利さは私の研究作業を半分ほど短縮することができているので間違いないぞ。
「ファ……」
カミーユとフォウがファの揺らぎに気づいたようで哀れみの感情を浮かべる。
それにファが「まだ使うなんて言ってません!」と叫ぶように言うが、『まだ』言ってないだけで使うことになる可能性は高いだろう。
スライサーを用意したが、どうも機械で再現できない包丁さばきというものがあるようで、味が明確に落ちる結果となっている。
プル達もファの忙しさを理解していてそれでも我慢しているが、我慢しているのがファにも伝わっていて、心優しい彼女はそれ故に思い悩んでいるのだ。
……もっともそんな配慮をしているにも関わらず、食料に関しての要望を遠慮なく出すあたりは未熟ということだな。