第百六十四話
プルシリーズではないが農業プラントの稼働は順調で、野菜がは成長してやっと本格的に実りが食卓に並ぶようになった。
これにより試算では食料自給率50%となり輸入への依存度を下げることに成功し、資金に更なる余裕を生み出すこととなる。
これはMS輸出と違って一時的ではなく、恒久的な収入の底上げとなるので予算編成に大きく影響する。
とは言っても家畜類、養殖つまり肉類や魚介類はそう簡単に数が増やせるわけではないため、そちらはしばらく輸入に頼ることになるだろう。
ただし、野菜の栽培のノウハウなどはないため、他のコロニーや地球産の野菜に比べれば味は1枚も2枚も落ちるが味より生産効率重視だ。ただ、レトルトなどよりは断然美味いのでプルシリーズも妥協しているようだ。
食料の自給率が上がったことは私としてもホッとしている。
やはり輸入に頼るというのは首根っこを押さえられているということでどうも落ち着かなかったのだが、これで1つウィークポイントが軽減(無くなってはいない)だろう。
「ん?またハマーンから通信か」
物理距離があると人間関係は多少でも疎遠になるというが、ハマーンの場合は例外らしい。2、3日に1度は通信を入れてくるほどマメだ……忙しいはずなんだがな。
『エゥーゴとティターンズが合同で演習が行われることが決まったようだ』
挨拶もほどほどにハマーンが本題に入ったようだ。
しかし、合同演習か……和解したと見るべきか、それとも対立しているから優劣を決めたいと思っているのか……十中八九後者か。
正直私としてはそれほど興味がない話だな。
どう転んでもどうせしばらくは冷戦状態なのだから——
『その演習で新型MSの披露するという話だ』
「ほう、興味はある……あるのだが、どうせ軍縮に向けての量産型の展覧会だろう」
私が知りたいのは最新技術、つまり最新型の特殊機や試験機などであって一山幾らの量産型ではない。もちろんあるに越したことはないが必須というわけではない。
むしろいらない先入観が入ってきてしまって障害にすら成りうる。
『それがシャアを吐かせた……漏らした情報では量産型ではないようだぞ。アナハイムも勝者であるにも関わらず、思ったより影響力を持てなかったことで少しでも糸口を掴みたいらしい』
ハマーンはシャアを慕っていたはずなのだが……随分扱いが雑になっているな。
それはともかく。
「となるとティターンズもそれ相応の機体を出す必要がある、と?」
『そうみて間違いないだろう』
どうだ?興味が出てきたか?とキラキラした目でこちらを見てくるハマーン……つまり——
「招待されているから同行しろ、と?」
『そ、そんなこと言った覚えはない!』
こんなことでニュータイプでなくても読み取れるぐらい動揺するなよ。
『イリアも久しぶりに会いたがっていたぞ。ついでにミネバ様も一緒だ』
そういえばイリアとはしばらく会っていないな。……たまにはハマーンやイリアとの時間も作っても良いかもしれないな。
……しかし、なんでミネバを付け足した?釣る材料にしてもイリアはともかく、ミネバは何ら影響を与えるものではないぞ?(ハマーンは久しぶりにアレンとリアルで会えると必死に気を引こうとしているためテンパっている)
「わかった。問題はどう行くか、だな」
ハマーンやイリアだけならアッティスで……というわけにもいかんか、ハマーンはネオ・ジオンの宰相だ。戦時のような非常事態ならともかく、平時で他国……じゃなくて民間の船に乗る訳にはいかない。例えグワジン級、いや、それこそ一年戦争最大の船であるドロス級よりも強力で強固な船であったとしても、だ。
更に実質トップであるハマーン以外にも本当のトップであるミネバまでいるとなると微粒子レベルでも存在しない。
となると選択肢は私がハマーン達の船に同乗するということだが……正直に言うと乗りたくはない。
ハマーン達が同乗している以上、無闇に手出ししてくるとは考えづらいがハマーンの親衛隊は狂信者に等しい存在であり、私は悪魔か邪教者のような存在である……とマシュマーやキャラから聞いて確信を得ている。
つまり、敵陣地と言えるような場所で過ごさなければならなくなるのだ。そこまでして行きたいかも疑問だが、その上、危険があるとわかっている以上、私1人では警戒にも限度があるのでプルシリーズの護衛も外せない。だが、プルシリーズに長期間他人との行動はヘルメットを外すことができないためかなり苦痛だろう。
親衛隊に所属しているプルシリーズもかなり苦労していたし、ハマーンが取り計らったことでなんとか過ごせていたが今回は私の護衛である以上、できる配慮にも限度がある。
ストレスでニュータイプとしての訓練になるとは思うが、クローンであることを知られるリスクと比較するとリスクが遥かに上回る。
それにイリアはともかく、ハマーンと過ごすという目的には沿っていない。
『……わかった。こちらでなんとかしよう』
いや、どうにもならないと思うのだが……後日、どうにもならなかったとハマーンがしょげていたが特に気にしていないと慰め、結局、私とプルシリーズ20人が旗艦グワンバンにて同乗することとなった。
ただし、グワンバンにはクィン・マンサ1機とキュベレイが10機が搭載されている。
これはハマーンなりの配慮であり、周囲への威圧である。
正直に言うと、この威圧は余計に周りとの溝を掘る形になるのではないかと思ったのだが……案の定刺々しい視線にさらされることになった。