第百六十八話
なかなか見どころのあるMSを出してきたエゥーゴ、それに対して新生ティターンズの新型MSは……同じ可変MSだ。
その姿は以前カミーユが言っていたアッシマーによく似ているが脚がないあたり、宇宙用に調整してあるのか、それとも重力下での飛行能力があるのかのどちらかだろう。
その機体の大きさ、ビームの出力はZIIに劣る(既存のMSよりは高出力)が宇宙用に調整されているため機動性がほぼ互角であり、妙に充実している姿勢制御バーニアによる運動性はZIIを上回るというものになっている。
姿勢制御バーニアに関してはジ・Oというあの黄色い達磨に使われていた制御システムを導入しているようだ。
オールドタイプには厳しいだろうが、少しでもニュータイプの素質があればこのアッシマーの後継機であろうキハールIIが優れているだろう。
機体性能面ではキハールIIが優位ではあるが、問題はビーム対策が施されてきているというのにビームの出力が低い上に他の武装は近接戦闘用のビーム・サーベルしか存在しないという点だ。
正直、ZIIよりも汎用性が低い機体だが……ここで重要となるのが元々アッシマーは連邦が開発した機体であるらしいということだ。
連邦製であるということは当然製造ラインは連邦、もしくは連邦の高官達の利権が絡んだ企業が握っていると思っていいだろう。
つまり、シロッコは政治的な手法で採用を狙ったといえる。
「なかなかやり手だな」
しかもこの方法はアナハイムには1番不味いものだろう。
仮に、キハールIIが採用されることになるとこれからも連邦の軍需産業に割り込むのはかなり難しくなる。
性能自体はZIIの方がいいし、コストもおそらくZIIが優れている……はずだ。連邦の生産力は一年戦争時のジオン公国ですら把握しきれなかった情報であるため、例え私でもまるで見当がつかない。
度重なるコロニー落としとジャブローを核で燃やしたことでかなり低下しているのは間違いないはずだが……。
それは置いておくとして、結局演習はエゥーゴの辛勝という結果になった。性能的にはエゥーゴが有利でもティターンズの精鋭っぷりは未だに変わらず、パイロットの操縦技術に差があったのだ。
「とは言ってもここに化物が2人いるから精鋭と言っても皮肉を言っているように聞こえるから不思議だ」
(化物は君だろう)
「私は君達とはジャンルが違う化物だからここでは関係ない」
(ナチュラルに人の心を読むな!)
「それは失敬」
カミーユほどではないにしても優れたニュータイプの才能を持つアムロの思考はかなり読みやすいからつい反射的に読んでしまった。反省はせんがな。
「やはり元ジオン兵が抜けた影響があるのか?」
「アレンに隠していても仕方ないから言うが、かなり影響している」
さすがにネオ・ジオン……ジオン公国が別の形であるにしても再興されたからには今まで殺し合ってきた連邦などより多少形が違っていたとしても故郷に近いネオ・ジオンを選んでしまうのは当然のことだろう。
多少の年月が過ぎようとMSの操縦技術は未だにベテランジオン兵には勝るものは一部の才能ある者達だけのようだ。
特に今回の演習は舞台が宇宙であるため、ジオン兵が抜けた穴は大きいはずだ。
「カミーユやヤヨイが居たら良かったのだがな」
「さすがにあの2人だと不公平過ぎるだろう」
カミーユは今更語るまでもないがヤヨイ・イカルガはリカルド(ロベルトのこと)と良い関係になったそうで、パイロットを引退したそうだ。
ちなみに終戦とヤヨイのことがきっかけとなってリカルドも現役から退き、今はパイロット育成に励んでいるのだとか、どうでもいいがな。
「ああ、そういえばエゥーゴにはそろそろ私達に対価を払って欲しいのだがな」
実はエゥーゴには未だ私達に払っていない報酬があるのだ。
かなり難しいことは百も承知なのだが、これが通れば私達の受ける恩恵はかなり大きくなるのでぜひとも通ってほしいのだがな。
「わかっている。わかってはいるのだが……さすがに戦犯となっているジャミトフを引き渡せというのはそう簡単にできることではない」
そう、私達……というか私が要求しているのは旧ティターンズ総帥、ジャミトフ・ハイマンの引き渡しである。
正直私やスミレ、新しく入ってきたカミーユ達とで組織作りをしていくにはかなり不安がある。
ジャミトフ・ハイマンが殺されること無く、囚われたという情報を聞いた時にオブザーバー的にジャミトフ・ハイマンを招き入れようということを思いついたのだ。
なにせこのジャミトフ・ハイマン、大陸復興公社総裁とインターナショナル国債管理公社総裁を兼務していたほどの人物である。
人脈によるものもあるだろうが、組織運用のノウハウはハウツー本以上の知識は持ち合わせているだろう。
それほどの人物だからこそ容易に引き渡しができないというのもわかるがな。
「それに第2のティターンズを作り出されるのではないかと危惧する声も大きい」
「私がエゥーゴ……いや、連邦と敵対すると?そんな勝算がない……ない……ない?……いや、あるいは……」
おっと、思考が少し漏れたせいか、シャアとアムロの顔色が悪い。
そんなに心配しなくても私達は降り掛かった火の粉は周りを真空にしてでも消すが、わざわざ火の粉を振りまくような面倒なことはしない……もしする振りまくなら火の粉ではなく、核や隕石クラスで相手を粉々にするだろうから考えるだけ無駄というものだ。
(これは安全を考慮して早急に引き渡しを行うべきなのか、それとも危険物を混ぜ合わせない努力をすべきなのか悩むところだな)
(あのクィン・マンサとかいうMSの戦闘データを見たが……アレと戦うとか冗談じゃないぞ)
まぁ良い方向か悪い方向かは知らないが、とりあえずもう少し真剣に動き出すようだからあえて何も言わないがな。