第百六十九話
「これはこれはアレン博士、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな、シロッコ。相変わらず胡散臭そうなやつだな」
「いきなり辛辣ですね」
胡散臭さで言えばシャアをも上回るのだから仕方ないだろう。
「……ところで後ろにいる女性3人は……」
「おお、気づきませんで、右からレコア・ロンド、サラ・ザビアロフ、マウアー・ファラオです」
「ほう、パラス・アテネ、ボリノーク・サマーン、サイコ・ガンダムmk-IIのパイロットか」
どうやら自身が乗っていたMSを当てられて驚いたようだが、私という存在を感じているならわかりそうなものだが。
「まさか……あの鞭のようなアームを操っているのは……」
「間違いなく私だな」
レコアが言っている鞭のようなアームとは触手のことだろう。
そもそも戦場に出る艦の中でアームを操るのはアッティスぐらいだ。
(道理でこのプレッシャー……パプティマス様が失礼がないように、と念を押すはずね)
「最低限の礼節さえ守るならそれほど煩くは言わんさ。私自身為せないことを他人にまで押し付けん」
「?!」
しまった。また無意識に共鳴して答えてしまった。
同じやり取りは煩わしくて仕方ない。
「しかし、演習は残念だった……わけでもなさそうだな」
「あの機体は私が掌握する前のティターンズが設計したものを私流にアレンジしたものでしかありませんから」
「つまり本命は別にあると」
「そういうことです」
シロッコから流れてきた思念から察するにジ・Oの後継機を開発しているようだ。
非常に興味があるが、面倒なことになりそうなので追求は止めておこう。
ただ、アナハイムも今回のものとは違ったMS開発を行っているという情報も流れ込んできた……私が思っているよりも随分とシロッコの手足は長いようだ。
アナハイムか……どうにか情報を探れないだろうか。
「実はアレン博士にご相談があるのですが……」
「聞くだけは聞いてやろう」
「ティターンズと共同でMS開発を行いませんか」
これは……MS開発も狙いだろうが、私達をティターンズ側に取り込もうという意図が感じられる。
確かにTR-6を生み出したティターンズ、メッサーラやパラス・アテネ、ボリノーク・サマーン、ジ・Oなどを生み出したシロッコの技術力も気になるので非常に誘惑される。
しかし、これに乗った場合、ハマーンを除くネオ・ジオンやエゥーゴ……厳密に言えばアナハイムとの関係が悪化する可能性を考慮すると受けるのは難しいと言わざるをえない。
くっ、昔だったならこのようなこと考えずに済んだものを……不便になったものだ。
……いや、待てよ。エゥーゴ側に要求したジャミトフ・ハイマンの引き渡しがなかなか通らないことを理由に新生ティターンズに協力してもいいのではないか?いやいや、むしろジャミトフ・ハイマンの引き渡しを条件に共同開発するというのも手か。
相手が渋っている場合は別角度から攻めるのは常套手段だな。
「少し検討させてもらおう」
「良い返事をお待ちしてます」
改めてエゥーゴに交渉を持ちかけた結果、近いうちにジャミトフ・ハイマンをこちらに引き渡してもらえることになった。
たかがMSを共同開発するだけだというのになぜかシャアとアムロに青い顔をして止められた。ナゼカナ?
とりあえず新生ティターンズとの共同開発は引き渡しが行われるまでは保留扱いとした。
「というわけで演習に来たかいはあったな」
「……アレンもすっかり政治家だな」
ハマーンが呆れたようにつぶやき、隣でイリアが頷く。プルシリーズは特に理解していないようだが何となく雰囲気でイリアを真似て頷く。
「そうか?どちらかというとマフィアのやり口に……いや、マフィアも政治家も表と裏でしかないから変わらんか」
「アレンの……ミソロギアの実態など誰も掴めないからな。敵に回したくない気持ちはわかる」
「そういう意味ではネオ・ジオンが一歩リードしているか」
「主に私とイリアぐらいしか把握していないからアレンに謀略を仕掛けようとする者が出るがな」
そこは知らんよ。禁忌であることは知っているのだから手を出そうとする身の程を知らぬ愚か者は死んでも仕方ない。
「そういえば伝え忘れていたがクィン・マンサがキュベレイ・ストラティオティスの蓄積データによって運動性が10%、フル稼働時間が45分に向上したぞ」
「それはもっと早く伝えておくべきことではないか?」
「うっかり忘れていたのは認める。シミュレータに反映させているから馴染ませておけ」
「……アレの運動性が更に上がったのか……キツそうだな」
「ならクィン・マンサはプルツーか誰かに——」
「さあ、早速やってくるか!」
ハマーンの専用機なのだから頑張ってもらわねば困るのだよ。
ただ、やはり人間が操縦するには限度があるのも事実……やはり汎用(アレン以外が使えるという意味)MDの開発を急いだ方がいいだろう。