第百七十話
演習が終わり、パーティーと言う名の政争を眺め終わり、ハマーン達とも楽しいひと時を過ごしてミソロギアに帰ってきた。
帰ってくるとキュベレイ・ストラティオティスのテストを終えていた。
改善点はまだまだあるが、それでも一応の一定の完成をみた。
これから量産体制に入り、キュベレイは現行の30機で生産を終了し、保守部品のみ製造することになる。
もっともキュベレイ・ストラティオティスは大型MSであり、維持費も掛かる上に資源の消費も相応なのでひょっとするとキュベレイを改修して再び生産する可能性が高かったりするので終了と言うより一時休止と言った方が正確か。
パノプリアも10機まで生産する予定だが……こちらも資源の関係上、それで一時休止だろう。
そもそも私達は科学者であり、開発者であるから技術は日進月歩であるため更新が早い……と言っても安全性や安定性を考えれば他より早い程度だが……ためにMSもすぐに旧式化することが容易に想像できる。
クィン・マンサすらも後半年もすれば旧式化する可能性がある——と言うよりも、だ。
「サイコミュによる未来予測システム……ねぇ」
「ええ、ニュータイプには元々優れた空間認識能力と思念から得た情報で未来予測を行っているのは今更言うまでもありませんが、それをより明確に視ることができるシステムです」
「ニュータイプによる未来予測は正直、あまり当てにはできんぞ」
ニュータイプの未来予測と言うのは相手の思念……あえて思考と言っておくが、それと空間認識能力によるものだというのはスミレが言った通りだ。
しかし、問題は思考の部分だ。
人間というのは感情や思考で動いている部分以外にも条件反射、無意識に動作してしまうことが多い。特に自分が無意識に作り出しているパターンなどは思考や感情を挟まずに行動するため未来予測はあまり役に立たない。
「そうでなければ私がたかがMS如きに砲塔の旋回速度が遅いと言っても砲撃を外すわけがない」
「なるほど」
何よりベテランパイロットになればなるほど自分の手足のような感覚でMSを動かすため未来予測がしにくい。
それでも的中率が下がるだけであって7割は命中するが……砲撃戦ならともかく、MSのような白兵戦で本人の才能ではない未来予測を頼るのは危険なことになりかねない。
「でも残念ですね。これで少しはプル達の安全が——」
「誰が意味がないと言った。私が言ったのはあくまで私の感覚では、だ。他の者より能力が優れているとはいえ、私に合わせて考えていては重大な見落としをしかねないぞ。あくまで過信は禁物だということを言いたかっただけだ」
「そう、ですね。いつも以上に入念に試験してみます」
もしこれで未来予測に明確な差が生まれるなら生存性はかなり高くなる。それにもし私が使用したなら……どうなることやら。
「私も遊んでいたわけではないぞ」
それなりに時間を使って考えていた成果をスミレに見せる。
「……共鳴を使った通信、統率を行うシステム……サイコミュリンクシステムですか」
「現状のままでは共有できる情報量は少ないが、その分だけサイコミュ自体の負担も小さい」
その点で言えばスミレの未来予測システムはかなりサイコミュに負担を掛けるため大型化は否めないだろうな。
ちなみにこれはプルツー専用機に搭載して指揮官機として運用するつもりでいる。
「……アレンさんはプル達の連携強化によって戦闘能力を引き上げようというわけですね」
「所詮MS単機では限度があるからな」
「確かに」
(一騎当千に等しいクィン・マンサを作っておいて何を言ってるんだが)
「クィン・マンサはパイロットが扱いきれる最高を目指しただけで、一騎当千を目指したわけではない。そもそも稼働時間が短いから持久戦に持ち込まれれば厳しいはずだ」
(その短い稼働時間の間にどれだけの被害……いや、俺もこちら側だから戦果か……を上げると思ってるのか……)
「最低でもクィン・マンサの進む方向には空白を作り続けるだろうな」
サイコミュリンクシステムや未来予測システムのテストを行ったり、ファが料理の作り過ぎで腱鞘炎になったり(私が一瞬で治したがな)、カミーユが寝ぼけてフォウに抱きついて寝てToLOVEったりして2週間が経った。
そして、ついに奴が来た。
「おぬしか、私を欲したというのは」
目の前にいるのは間違いなく連邦という殻を纏い、世界征服を行おうとした(厳密には違うが)偉人にして変人、ジャミトフ・ハイマンである。……ん?何処かでブーメランとか何とか言っているような……気のせいか。
「アレン・スミス、そちらにわかりやすく言うとゼダンの門でTR-6などを破壊したMSの開発者だ」
「……アレの生みの親か、道理で私を引き入れようなどと奇特なことを考えるわけだ」
「奇特か……」
「なんだ。気分を害したか?」
「いや、その程度なら大したことでもない。日頃から変人、化物、マッド、奇人、鬼才、外道などと呼ばれているからな」
「それは大したものだな」
さすがにこの程度のことでは動揺もしないか、さすがは一大勢力を率いた人物だ。
「その呼ばれる所以の片鱗を見せよう……来い」
声を掛けると同時にプルシリーズが1人、2人、3人……続々と入ってくる。
最初の1人や2人、3人までは特に反応を見せなかったジャミトフだが、5人を超える辺りから一気に顔色を変え始める。
「き、貴様は……まさか、クローンを——」
「その通りだ」
信じられないものを見るように私を見て、そして少しして理解の色を示す。
「なるほど、コロニーなどというものを科学者が手に入れてどうする気かと思っておったが、この禁忌を守るためか」
「理解が早くて助かる。ついでに言えばここに居る全員……私も含めて、世にいうニュータイプと言われる存在だ」
「……私はどうやら恐ろしいところに来てしまったようだな」
口振りではそんなことを言っているが、既に腹が決まっていることを感じる。やはり上に立つ者というのはこうでなくてはならない。
「協力してもらえるかな」
「選択の余地はあるまい……老い先短いが協力しよう」
「ああ、その点は気にしないでくれ。時間なんてある程度は引き伸ばせるからな……具体的に言えばおそらく100年は大丈夫だろう」
最近、クローン技術は人間を作り出す方面では面倒なことになりかねないため控えているが、治療技術の方面ではかなり進歩してきている。
既に身体の9割は新品同様にすることが可能だ。
「……」
改めてジャミトフの表情が引きつったがその程度のことはスルーだ。