第十七話
シャアにイリア・パゾムに関して伝えたところ、素早く資料を集めて渡された。
それで検証の結果、ジオン独立同盟なる組織の中枢であるヴァールシカという拠点が類似していることが判明してシャアに報告を上げると念入りに調査をすると言っていたが……さて、どういう結果になるやら。
正直今の私にとってはどうでもいい。
今私がすべきは——
「……わかってはいたけど、アレンは本当に廃材好きよね」
「アレン博士は廃材を弄っている時が1番楽しそうです」
廃材っていいな。落ち着く。
なんか戦闘させられそうだし専用のMSでも作ろうかってぐらいハイテンションだ。
ん?落ち着くと言いつつハイテンションとは不思議だな。
……ところで、なんでハマーンとイリア・パゾムに生暖かい目で見守られなければならないのか。
「今度は何を作ってるの」
「これは戦闘時に掛かるGを軽減するためのパイロットスーツだ」
「……どこからどう見てもパワードスーツの一種ですが?」
「G対策をMSに施すには数に余裕がない上に改修には時間が掛かるからな。それに私自身に改造を加えるなら設備と時間がない」
「ならばパイロットスーツで、ということですか……パイロットスーツと言うにはいささか無骨ですが」
「……」(私は、私自身に改造を加える、という部分が気になったんだけど……ツッコめる雰囲気じゃないわね)
畑違いだから大変だったが考える時間だけは腐るほどあったし、メカニック達とも話すことができた。
やはり現場で働いている者達は一味違う、研究者というのはどうしても趣味に走ってしまう。
かく言う私もうっかり生体MSなんていう訳わからんものを作りかけた。
MSを生体にしたところでメリットがなさすぎることに気づいた時には、間抜けな過去の私に1時間ほど説教をしたい気分になった。
俗に言う黒歴史だな。
実用面を考えれば人間の脳をデバイス化してしまう方がずっと効率的だ。
「ちなみにこのスーツは未完成だ。なかなかザクの装甲をぶち抜くことができないのだよ。やはりバッテリー駆動の限界か?」
「……G対策、ですよね?」
「もちろんそうだが?」
「……」
「……」
なんだ?何か変なこと言ったか?
しかし、やはり核融合炉を搭載を目指すべきか……小型化が最大のネックだな。
「それにしても、お前達は外へ出かけなくていいのか?せっかくアクシズから出たというのに」
「何事もなければこの後ナタリーと一緒に買い物に行くつもりよ。何事もなければ、だけど」
「なら間違いなくナタリー中尉は行けないだろうな。イリア・パゾムの能力は私が保証してもいい」
「私だってイリアを疑ってるわけじゃないわ。でも買い物に行けないのは残念なのよ」
まぁそうだよな。思春期真っ盛りの女性がこんな根暗が籠もっていそうな開発室に好き好んで来るわけが……ん?イリア・パゾムは任務だからいいとして、ハマーンはアクシズの時から訓練が無い時も来てなかったか?
……本当に物好きなやつだ。
「よし、なら旅行の準備を手伝ってくれたことだし、今度は私が付き合うか」
「……アレン、熱あるの?」
「アレン博士、傷は浅いです」
熱がなければ死んでいるぞ。
それと負傷した覚えはないが?
「ふむ……そうなると資金が必要か」
「……そういえばアレンは無給だったのようね」
「宇宙で自給自足なんてハードモード過ぎます」
「案外気楽なものだぞ。会社と違って依存状態が軽いからな」
人と人との繋がりだけで生きていけるのは割りと気軽だ。
社会的な立場というのは強い力が手に入るが、その反面柵(しがらみ)が多すぎる。
さて、資金稼ぎか。
「ならこれでも売っぱらうか」
「何?それ」
「現在もっとも多く使われているザクIIF型の改修案だ」
「しかしF型は設計に余裕は既になく、改修してもあまり変わりないと聞きましたが?」
「ああ、確かになぜあれほど応用できないぐらいガッチガチに仕上げたのかイマイチ理解が苦しむぐらい余裕がなかった」
これには結構苦労した。
ドラッツェぐらい単純に合体させたようなリサイクル兵器なら苦労しなかったんだが。
F型の後継機であるF2型は完全に改良という名の再設計に近く、F型からF2型に改修することは不可能だ。
つまり、もっとも多く使われているF型には将来性がなく、旧式化は否めない。
そして現在独立を目指して行動しているジオン残党の主力兵器でもあるため、苦しい戦いを強いられることになるだろう。
「それを解決する改修案があったなら買いたくなるだろう?」
「それは……まぁ」
「ちなみにこの改修を行えばF型はゲルググに匹敵する機動力と運動性を得ることができる……まぁ装甲は既存のものと変わりないから耐久力には不安があるがビーム兵器に対してはあまり変わらんだろう」
「……F型がゲルググに匹敵?」
驚いてくれたようで何よりだ。
これで買ってくれる確率が上がるというものだ。
交渉結果、大金が舞い込んできた。
これで同志にもっと支援できると息巻いていたが……まぁそれは知らん。
さて、これだけあれば廃材を……じゃなくて、ハマーン達の買い物に付き合うぐらいはできるだろう。
「……と思っていた頃の私が懐かしい」
まさかこれほど付き合わされるとは思いもしなかった。
女性は買い物に時間を掛ける生き物だと言うが正しくその通りだと実感した。
どうやらアクシズを出る時に行った私との買い物は必要最低限のものであって、満足できる買い物ではなかったらしい。
一々どの服がいいか聞かれるのも困ったものだ。
私の美的感覚は一般的でないことぐらいは自身でも把握しているため、聞かれても答えづらい。
そして何より——
「なんでこの喧しいのがここにいる」
「ちょっと、レディに対して失礼過ぎるわよ。紳士を名乗ってるんじゃないの!」
オクサーナニガシが来るとは聞いていなかったぞ。
と言うか、私以外は女性ばかりというのも問題だ。
戦闘要員というか、護衛要員がイリア・パゾム(12歳)しかいない。
まさかハマーンを襲う者がここにはいないと思うが護衛はつけておくべきだろう。
ナタリー中尉は案の定というか、仕事で来れなくなったのだからなお不安がある。
「一応行っておくがオクサーナニガシの分は何一つ金を出すつもりはないのでそのつもりで」
「なんでよ。女に金を出させる気?!」
「未成年に金を出させる気か?大人」
「うっ」
そう、ハマーンやイリア・パゾムは未成年だから私が出しても問題ないとしても、いい大人が未成年に奢らせるなんて醜聞になるぞ。
「そういえばアレン博士の誕生日はいつなんですか?」
どうやらハマーンの誕生日会が話題に出て、その流れで皆に聞いて回っているようだ。
「2月14日、俗に言うバレンタインだ」
「「「……え?」」」
ちなみにハマーンの誕生日が1月、今現在3月。少し考えれば彼女達が何を気にしているのかはわかるというものだ。
「ごめんなさい」
「すみませんでした」
「……」(この子の情報って少なすぎて困るのよねぇ。ハマーン様と仲が良いんだから繋ぎを取りたいのに)
せっかくの買い物でそんなに暗い顔をされたらこちらが困るのだが……
「気にするな。私は誕生日を祝ってもらうなどということは1度もされたことがないので習慣としてない」
「……」
ああ、しまった。言葉の選び方をミスってしまったようで、ハマーンとイリア・パゾムが余計に落ち込んだようだ。
それにしてもイリア・パゾムが私に対してこのような感情を向けて来るとは思っていなかったな。
恨まれるか憎まれる覚悟でいたのだが……まぁ私の扱いが雑なのは変わらんが。
「では遅くなりましたがこれからアレン博士の誕生日を祝うのはどうでしょう」
「それがいいわね……あ、でもこんな場当たり的なものじゃなくてちゃんと後日した方が良くないかしら?」
……どうやら私は初めて誕生を祝われるらしい。
そんなこと気にしなくてもいいのだがな。