第十八話
シャアが調査の結果を聞かせてくれた。
ヴァールシカに向かっている連邦の艦隊の影が確認できたそうだ。更に少し後に件のジェラルド・シンクレアが所属する突撃機動軍第7師団から演習をしていた連邦の通信を傍受したと連絡があり、裏付けがなされた。
これで発言力を少しは確保できただろうか……アクシズにいる時なら気にしないがさすがに闘争が身近にあって悠長なことは言っていられない。
自分の意見を多少は滑り込ませる土台を作っておかなければ知らぬ間に死地なんて事になることも考えられるからな。
そして救援だが、アムブロシアの戦力は万が一陽動部隊であることも考え防衛戦力を大きく割くことができないため、余剰戦力といえるインゴルシュタット(ザンジバル級の名前)が向かうこととなった。
もっとも私やハマーン、イリア・パゾム、ナタリー中尉と数名の軍人、オクサーナニガシはアムブロシアに残ることとなった。
まぁ戦うことになるとわかっているのに非戦闘員を載せておくわけがない。ちなみに居残り組のナタリー中尉を始めとする軍人達はハマーンの護衛である。
置いていかれることに多少拗ねたハマーンであったが調教のかいあって表立っては2、3の小言程度で済んだ。検体が成長していく姿は見ていて楽しいものだな。
こうして私達は暇になったわけで、その暇つぶしにアムブロシアに許可を取ってMSで宇宙にいる。
私が操縦しているのはシュネー・ヴァイスだ。
正直、MSの操縦なんて趣味の範疇であるシミュレーションだけで十分なのだが、実戦に参加させられる可能性を考えると実機でテストをしておいてもいいだろうとハマーンのゴリ押しで決定になった。
シュネー・ヴァイスに乗ることになったのもハマーンの案だ。
「どうせ私が出撃しようとすると反対されるんだからアレンが操縦するにはちょうどいいわよ」
という一言が決め手となった。
確かに長旅であるはずなのにわざわざインゴルシュタットに搭載しているぐらいなのだから使わないのも勿体無いかと思い拝借することになった。
ナタリー中尉が文句を言っていたがハマーンの鶴の一声で轟沈した。
試作段階である対Gスーツに身を包んでテストを開始する。
「くっ?!……発進時のカタパルトはなんとか耐えることができたが、敵がいたなら出撃タイミングで落とされそうだな……いや、下手をすると味方に邪魔扱いされて消されるかもしれないな」
それはともかく、なんとかカタパルトのGは耐えることができたが近接戦闘は無理だな。
ハマーンの機体はどの程度鬼畜仕様か期待していたのだが意外と普通に動く……いや、私の思い通りに動いている。
これはなかなか気持ちいい……のだが、たまに調子に乗って対Gスーツの許容量を上回り、身体にそれなりの負担が掛かることがしばしばある。
その負担はやはりデータ上で見るものとは違ってなかなかに私を苦しめるものだ。
まぁ、それでもパイロットスーツから対Gスーツになったことで随分と機動力と運動性能を引き出すことができているのも事実だ。
『アレン、いい感じじゃない』
「ああ、ニュータイプ専用のMSにしては使いやすい部類だな。これならビット・キャリアがなくてもそこそこ戦うことができるだろう」
そもそもの話、ビットはニュータイプでもない限り動かせないから当然なのだが、そう言ってしまうだけの反応が返ってくるのだ。
多少動かせると言ってももちろんシャアやハマーン、イリア・パゾムなどに模擬戦で勝てる見込みは全くないがな。
『運動性だけならハマーンより上かもしれないわ』
『ちょっとナタリー、聞き捨てならないことを言わなかった?』
『気、気のせいよ』
2人の言い争いを無視してターゲットとして動く的が32個ほどあるのを順に撃ち抜いていく。
あまり無茶な動きをすればGが掛かるため、行動を最小限にして無理ない動きを心がけ、狙い撃つ。
ターゲットに当てること自体は難しいことはない。ただ狙って撃つだけで当たる。
『アレン博士はGさえ耐えれるなら優秀なパイロット』
「イリア・パゾムとしては褒めているつもりなのかもしれないが私としては甚だ不本意だ」
対Gスーツのテストを自身でしないといけないのも仕方ないこととはいえ、面倒なことこの上ない。
……まぁシュネー・ヴァイスが思い通りに動くのは少し楽しくはあるがな。
『今度は私が相手』
先程から待機していたイリア・パゾムが乗るザクIIF2型が進み出る。
やる前から勝敗は見えているがやらないわけにもいかない、テストだからな。
お互い接近戦は無し、うっかりで私が怪我をしてしまうかもしれないからだ。本番に向けて訓練しないと駄目なのはわかるが練習で怪我をして緊急時に動けないというのは間抜けが過ぎるだろう。
スタートの合図はなく、お互いが自然と合わせたように動き出す。
ちなみにイリア・パゾムにも私と同じ対Gスーツ……イリア・パゾム曰く、強化骨格……を着せている。
いくら訓練されているとはいえ、12歳の少女では身体が出来上がっていないため、対Gスーツは負担を軽減は大きな効果があるだろう。何より収集できるデータは多いほど良いからな。
イリア・パゾムは射撃、格闘どちらも抜け目がないがどちらかというと射撃が得意だが私よりは劣る。その代わり私より速く動くことができるので圧倒的に私が不利なのだ。
実際先程からロックオンができても当たるイメージが湧いてこない。
「ぐぅっ」
私の回避を先読みして迫るイリア・パゾムの弾を回避するために対Gスーツの限界を超えた運動を行ったため、身体中が軋むのがわかる。
これは明日は筋肉痛確定か。
相手のMSが多少旧式であろうとパイロットの差は如何ともしがたい。
それにシュネー・ヴァイスは実験機であることもあってサブウェポンは存在しない。つまり接近戦が禁止されている以上は今手に持っているマシンガンのみが武器となる。
あちらはハンドグレネードや3連装ミサイルポッドが装備されている……不公平だと思わなくもないがその2つの武装ぐらいなら——
『アレン博士に遅い攻撃は意味がない』
——このように撃ち落とすことも可能なので気にしない。
「これぐらいならイリア・パゾムもできるだろう」
『……全部は自信ない』
しばらく撃ち合っていたのだが私の身体が悲鳴を上げてギブアップ。
さすがに対Gで軽減できないGを受けつつ10分も戦闘をすれば身体が保たないな。
「お疲れ様、相変わらず良い腕ね。それに対Gスーツも良さそうよね」
ハマーンが声を掛けてくるが私はそれどころじゃない。
誰かタンカを持ってきてくれないだろうか?歩くのすら億劫なのだが。
「楽しても強くなれない」
強くならなくて結構、私は研究するだけの体力があれば良いのだよ。
ナタリー中尉も苦笑いしていないで手を貸して欲しいものだな。それともシャア以外の男性に触れてほしくないとでもいううのだろうか。
……とりあえず、寝るか。
私は早々に意識を手放した。