第百七十ニ話
ジャミトフの活躍により予算が大幅に増え、それを更に投資して増え続ける。
ただ、1番の収入源はジャミトフから提案があった臓器売買だったという灯台下暗し過ぎるものなのが釈然としない。
どうやら私が作った臓器は他のところで研究、製造されているものに比べると性能はもちろんだがまさか安全性まで違うとは思いもしなかった。
元々私はクローン人間を作ることを研究してきた。クローン臓器を研究するようになったのはアクシズでマハラジャ・カーンから制限を掛けられてからなので他人の作品など1度も見たことどころか参考資料すらない。
どうやら他の作品は拒絶反応などがあることから本人の細胞から増殖させて作り出すことがほとんどらしい。
私の作品は一部の臓器を除いてそんな面倒なことをせずに万能細胞から作り出し、誰でも適応するものである。
これらの差は大きく、誰にでも合う臓器ということは常時ストックしておけるということに他ならない。
「もっとも私以外に全ての臓器を取り替えることなどできる者はいない……ん?これはカミーユか?」
何やら強いプレッシャーを放ちながらこちらに向かってきている。
これは……怒りと悲しみか?
「まぁどうでもいいか」
そしてこの天才である私が作り出した作品がそれで収まるわけがなく、青酸カリだろうがテトロドトキシンだろうがアルコールだろうがカフェインだろうが全て解毒化してしまう食道や胃、標高3000mで激しい運動をしても高山病にならない高効率な肺など通常の臓器の機能を大きく上回——
「アレン!どういうことだ!!」
良いところで邪魔をする。
「なんだ騒々しい。私はどこかの青狸ではないぞ」
「わけわからないこと言うのはいつも通りだが今は聞きたいことがある!なんでティターンズのジャミトフがここにいるんだ!」
「それはもちろん殺してくれと泣き叫ぶほど働かせるためだが?」
「……」
ん?少しプレッシャーが弱まった?本当のことしか言っていないのになぜだ?
「……あいつのせいで俺の両親が死ぬことになったことを知ってのことか?」
「それは半ば被害妄想だろう」
「なにぃ!!」
「そもそも貴様の両親が死んだのはお前のせいだろう?ティターンズの兵士を殴ったりしなければ捕まらず、捕まらなければエゥーゴの襲撃はされず、百歩譲ってここまではいいとしてもMSを奪ってエゥーゴにならなければ殺されることはなかった」
そもそも技術というのは1人の命よりずっと重いものだ。
技術1つでより多くの人間が死ぬ、助かることになるなんてザラにある。何よりMS……戦争に使う人殺しの道具だから余計に、だ。
しかも盗み出したのがMSの最新機だぞ?今となっては核などより重要な機密だ。それを取り返そうとするのは当然であり、人の1人や2人、人質にして見せしめに殺すことぐらいあるだろう。
「……」
それにお前はどれだけの兵士を……人を殺してきたと思っている。自分の両親を殺されたぐらいで被害者を気取るのは虫が良すぎる。
「それに……会ったこともないから忘れているかもしれないが私もプル24を殺されている」
そう、先の戦争で出た、唯一の私達の被害は間違いなくティターンズによるものだ。しかし——
「カミーユ、殺し殺された関係で敵味方を区別していたら1度戦争が起これば人類全てを殺さなくてはならなくなるぞ」
「……」
「私の意見と心情は以上だ。さて、カミーユの言い分を聞こうか」
自分で言うのも何だが珍しく真っ当なことを言った気がする。
「俺は……」
何度か口をパクパクと動かすが続く言葉が出てこない。
ティターンズは悪としてエゥーゴで戦い続けたカミーユのこの反応は当然といえば当然だろう。
しかし、自身も加害者となっている以上、完全な被害者ではない。
それを忘れてしまえば……私みたいになるぞ。(狂人的な意味で)
「あ、勢いで言い分を聞くとか言ったが別に言わなくていい。自分の怒りや悲しみを消化できたならそれでいい。もしできなければもう1度ここに来い。論破してやる」
「……容赦ないですね」
「前に言ったと思うが嘘や建前は嫌いだ。不愉快か?」
「痛いですけど……嫌な大人よりはいいです」
……それは褒められているのか?
それにしてもジャミトフがここに来て2ヶ月経ってるのになんで今更?
(カミーユも独自に研究をしていて誰も教えなかったからだ。ちなみに教えたのはプルシリーズ)
ある日のこと、いつものように研究していると突然強烈な思念波を捉えた。
それの発信源はハマーンであることはすぐにわかり、何か緊急事態かと思い、どうするか思案しているところに通信が入る。
発信元はその当事者である。
一体何があったのか、緊急事態なのか、と心配したのだが……結構緊急事態だった。
「まさか私の結婚相手を探し始めるとは思いもしなかった」
「宰相であるハマーンに誰かを宛てがおうとするのはわからなくもないが……」
つまりハマーンが邪魔になってきた勢力がいるらしい。
この世の中、どんなに言い繕ったところで家庭での地位はともかく、社会での女性の地位は低い。
結婚してしまえば寿退社(正確には違うが)させる口実に……いや、もしかすると善意である可能性もあるか?宰相なんて役職である以上、頼れるパートナーを用意しようというお節介かもしれない。
「もしそうだとしたら代償は高くついたな」
どういうことだ。
「……」
ハマーンはもごもごと何か言っているが聞き取れない。
「はっきり言え、何を言っているかわからん」
「勝手に……そう、勝手に触手が動き出して言ってきた奴を顎を打ち上げるように殴って身体が浮いたところで足を掴んで地面に叩きつけて……いました」
何処かで聞いたような話だが……きっと気のせいだろう。
「ああ……そういうこともあるさ」
「そうよね。そういうこともあるよね」
「私が保証しよう」
「そっか……良かった」
ハハハハハ……と虚しく3分ほど笑って過ごした。
「それで話は流れたから不幸中の幸いよね」
「うむ、(殴られた奴が)不幸中の(ハマーンが)幸いだな」