第百七十四話
新兵プル達が姉達に泣きついても訓練、新兵プル達がせめて休養をと嘆いても訓練、新兵プル達がジャミトフをけしかけて来ても訓練、新兵プル達がボイコットを宣言したが有無も言わさず訓練、新兵プル達の目が死んできてこれからが本番だ、と特訓を施した。
「よし、これでだいぶマシになっただろう」
「……」
なぜかカミーユも一緒に死にそうな目になっているが、そこはスルー。
新兵プル達の表情も随分と引き締まり、訓練にも以前よりやる気を漲らせ、緩んだ空気はほぼなくなった。
昔の人間は本当に格言を多く残しているな。これぞ愛の鞭ならぬ愛の触手と言える。
ずっとジャミトフが愚痴愚痴と煩かったが、本人も必要であることがわかっているので無理に止めることはなかったが……おそらく、プル達に対して抗議している、味方であるという姿勢を見せることで飴の役割を買って出たのだ。
飴と鞭は人をコントロールする上では基本中の基本にして完成形だからな。ジャミトフがわからないはずがない。
やはりできる大人が居ると私も楽ができる。
それにしてもなぜか新兵プル達につられてカミーユまで能力が上昇しているが……まぁ些細なことはいいか、データ収集データ収集っと。
「アレン……カミーユに無理させすぎじゃないかしら」
「そういうことはもっと早く言うものだと思うぞ。フォウ」
「だって疲れているカミーユを癒やすのに忙しかったから」
つまり、疲労しているカミーユにつけ込んで好感度を上げていたわけだな。いい性格をしているな。
「そんなに褒められても何も出ないわよ」
「ここのところ厳しくすることが多かったからな。多少は甘さを見せておかないと」
「それは私じゃなくてプル達に見せてあげたら」
「まだ早い、今やると元に戻る者がでるかもしれない」
(ツッコミ不在の会話が続く)
「ところでフォウは惚気にここに来たのか」
「本題を忘れるところだったわ。私も本格的に訓練を受けようと思って話に来たの」
「フォウ?!」
どうやらカミーユは聞いていなかったようだな。
しかし、どういう心情の変化だ?元々戦うことに同意して一応訓練もしていたが、それは時間があれば、何か欲しいものがあれば、程度の消極的なものだった。
「カミーユが頑張っているのを見ていて、私も本気で何かをしようと思ったの。でも私にはできることが戦うことぐらいだから……」
「フォウ……君が隣りにいてくれるだけで俺の力になってくれているさ」
「ふふ、ありがとう。でもそういうことじゃないってカミーユもわかっているでしょ?あんなに幼いプル達が戦うのよ?だからカミーユも訓練に付き合ったんでしょ。私も黙って見ているだけなんてできるわけないじゃない」
「フォウ」
「カミーユ」
惚気なら他でやってくれないだろうか……しかし、本格的に訓練に参加すると言うなら専用のメニューを考えなくてはな。
今まで施してきた訓練で得たデータを基にして生かさず殺さずの特別メニューを……したらファが仕事をボイコットをする可能性があるか、適度にしておくか。
私も随分丸くなったものだな。昔ならこの自分達の世界に突入している2人に治療が前提の特訓を無理やり施してニュータイプ能力で空気が読めるぐらいまで鍛えた後叩き出していたことだろう。
「となるとフォウ専用のMSも用意しないといけないか……やはりカミーユに設計してもらうのか?」
「それはアレンに頼もうと思ってるのよ」
「なんでだ?!」
「だってこれ以上カミーユに負担を掛けたくないわ」
「フォウのためなら負担なんてことはないさ」
「カミーユ」
「フォウ」
……こいつら、そろそろ〆たほうがいいだろうか?
とうとう私の思いが通じたのか2人は顔色を悪くしつつも背筋を伸ばして先程までの甘ったるい空気を微塵も感じさせない様相で並んでいる。
やはりニュータイプって便利だな。
プル達の能力平均値が上がったおかげで実用レベルでの触手の運用が可能となり、何とか母艦が航行可能となった。
もっともMSの整備まで行える技量はまだないのであくまで母艦の航行が可能になっただけで運用は交易所との往復程度のことしか行えない。
とはいえ、これでまた1つ、私の仕事が減ったことが重要だ。
アッティス内にいる時は操艦と研究が同時にできるとは言ってもやはり研究に集中できる方がいいに決まっている。
そうして作った時間で、研究をした結果、プルシリーズ向けに開発しているミソロギア防衛用MDの前段階である超遠距離用ファンネルの試作機が出来上がった。
「ただし、実戦にはとても耐えられるものではないがな」
サイコミュと操縦者に掛かる負担を軽減するためにオートメーション化しているのだが、結果は行動パターンが3つほどしかなく、実戦経験が多少あれば回避も撃墜も難しくない上に、ファンネルのビームの命中率も恐ろしく低いものとなっている。
本当に唯一のメリットは操縦者が離れていることと、1人の操れるファンネルが8基と比較的多いことぐらいだろう。
ただし、生産能力に限界がある私達に、質を量で補う戦術は向いているとはとても思えないが、所詮試作機なのでそのあたりは目を瞑るとしよう。
「これを実用まで引き上げるなら操縦者の負担も基数も含めて後3パターンは欲しいところだな」
カミーユが試験データを眺めながらボヤくが、私も同意見だ。
「命中率の改善も行いたいが……そちらは難しいだろうな」
超遠距離であるため相手の思念を受信するのは私以外はかなり苦労するのだ。
何とかしたいのだが……。