第百七十六話
「これで私達が生み出した彼女の価値が認められる」
「上手く行けば更なる予算が約束されるぞ!」
その一室は艦内の中で何処よりも熱気に包まれていた。
彼らは研究者である。
そんな彼らは自分達の作った兵器が凍結の危機にあり、どうしても研究を続けたいと上に訴えるとある条件が出された。
その条件とはコロニーを襲撃し、1機でもMSを撃破すること。
条件を聞かされた彼らは自分達を馬鹿にしているのか?と思ったものだ。
なにせMS1機なんて今の彼らが開発している兵器を使って倒せないはずがない。ならば数が多いのかと思ったが20機に届かない数しかいないはずだと言われ、その程度なら全滅は難しいが1機なんて容易いだろうと首を傾げるが口約束ではなく、正式に契約書を用意したこともあって疑問に思いつつも彼らは同意した。
「それに彼女なら多少駄目なパイロットでも問題ない!」
「さすがに私達では身体が保たないけどな!」
「「ハッハッハッハッハ」」
彼らは自分達がパイロットの血圧を上げる行いをしていることを研究者というのはなぜか空気が読める人種ではないため気づかない。
ちなみにこのパイロットは特に優秀でもなく、劣悪でもない、至って平凡である。もっともその平凡さが研究者達からすれば駄目なのだろうが。
研究者である彼らは今向かっているコロニーの事情を知らないが、このパイロットは事情を知っている。知っているからこそ彼らの発言が余計に強く腹立たしく思う。
「私達のALICEなら大丈夫だ」
「スペリオルは既存のMSとは一味違うからな!」
彼らは所属がバレないようにとガンダムヘッドからジムヘッドへと替えて雰囲気が変わったスペリオルガンダム、通称Sガンダムと呼ばれる無人化という方針の下、開発されているMSである。
もっとも既存のMSを上回る性能を有し、しかもALICEというSガンダムに搭載されているAI……人工知能がそのほとんどを制御を行う。
問題はそのALICEの性能だが——
敵は最初からやる気があり、こちらが勧告を行うまでもなく、MSを出撃させたことでこちらも容赦なく応戦することができた。
ただ、敵のMSは10機とそれなりの数ではあるが、2隻も船があってこれは少ない。それに1機は明らかに他のMSとは成りが違う未確認MSだ。
何より——
「なんだ?動きが読めない?パイロットの意図とは違う動きをしているぞ」
思考と動きが違う……これは……まさか——
「キュベレイは後方へ下がって他を相手しろ。そいつはストラティオティスとパノプリアで相手しろ」
ええい、緊急時にストラティオティスは長いな。誰だ。こんな名前付けたのは!(アレンだ)
それはともかく、まさか無人兵器……いや、パイロットは乗っているのだからオートメーション化というべきか?何にしても——
「やりづらいな」
戦闘においてニュータイプの能力は相手の思念を読み取り、先読みすることで優位を得るのだが、相手がコンピュータとなるとそうはいかない。
以前、私がニュータイプ対策として射撃をプログラムに任せることでシャアを多少戸惑わせることができたが、今度はそれを私達が受けることとなったわけだ。
「機体性能も情報処理能力も悪くないあたりが対処に困るな」
随伴していた他のMSは開幕でパノプリアのミサイルとファンネルで全て撃沈したが、このMSにはリスクを無駄に背負うようなことはせずにプルシリーズには距離を保つように指示し、ファンネル50のファンネルを飛ばして包囲、攻撃を続けている。
しかし、人間が操縦しているのではないことを証明するように正確で、最小限の動きで回避され、逆にはこちらのファンネルが落とされ続けている。
人間なら疲労と死の恐怖で思考と集中力が乱れるが、機械にはあまり効果的ではない。
「まさかIフィールドを搭載しないMSにこれほど苦戦するとは、な」
本当はパイロットが乗っている以上、ある程度予測できるものなのだろうが……どうやらそのパイロットは凡人であるため、コンピュータの動きに翻弄され、混乱しているため私達が使えるような情報が流れてこない。それどころか邪魔でしかない。
敵艦を制圧できたなら降伏も促せただろうが、敵艦は最初から戦闘宙域に入っては来ず、今では影も形もない……まぁ思念で位置はわかっているがこちらからの射程から外れているし、この場から離れるには不安があるので放置するしか無い。
仕方ないのでファンネルの同士討ちのリスクもあるが更に20基追加する。
それにしても……最初に使った有線式ファンネルは精度がお粗末だったが、あれはパイロットが操縦していたのだろうか?それとも別の要因だろうか?
「……動きが悪くなってきたな」
今まで最小限な動きながらも余裕があったように見えたが、それがなくなってきたようで次々着弾とまではいかないがカス当たりし始めた。
それと同時にパイロットはGに耐えかねたようで気絶したようで、今のままだと近いうち死ぬだろう。敵の手ではなく、味方の回避行動で死ぬとは情けない死因だな。
こちらの手数が相手の情報処理能力を上回りCPUの冷却が間に合わず、ずっと攻撃に晒されながらも得た情報の蓄積でメモリへの負担が急激に増大したことなどが能力低下に繋がっている——
「あっ?!」
……まさか脱出装置がついているとは……いや、予想して然るべきだったか。