第百七十話
まさか私達が取り逃がすことがあるとは思いもしなかったな。
しかし……あの速度で離脱され、しかもパイロットは捨てられたせいで思念が存在しないコンピュータの制御のみとなれば、こちらの攻撃も当てづらい。
……まぁ、今撃墜してしまうより次の機会に鹵獲できるかもしれないという邪念が入ったのは否定できないが……決してわざと見過ごしたわけではないぞ?いつものフリではなく、割りと真面目に。
それにしてもロボット3原則を守らずにパイロットを見捨てるというのは大丈夫なのだろうか……私が心配することではないのは百も承知だが。
「さて、こうなるとこちらのMSのデータは敵勢力に渡ったということになるな……これは気合いを入れないといけないな」
(これ以上気合いを入れられると地球が壊れるぞ)
「まさか、いくら私でも地球を壊すようなことはしないぞ。カミーユにも躾が必要かな?」
「い、いや、俺が悪かった」
「全く、地球を壊すなんて非効率なことをするわけないだろう。やるなら人類だけ死滅させればいいだけのことだ」
「おい」
「もちろん冗談だ」
半分は、だがな。
本当に勝ち筋も逃げ道もなくなったら、その限りではない。人類の命より私や家族の方が大切なのでな。
「それはともかく、やはりサイコミュリンクシステムを修正する必要があるか」
「あれか……でも、あんなこと可能なのか?部隊の統率まではともかく、ファンネルの統率なんて」
「理論上は可能だ」
今回の戦いでパイロットだけでなく、ファンネルの統率も必要だと感じた。
元々ファンネルを多く飛ばせる私が数を制限している理由はキュベレイやファンネルなどを誤射しないように気を使ってのことだ。
プルシリーズが操るファンネルも自由な軌道で戦闘しているわけではなく、ある程度意思疎通して座標を固定させて使っているため、効率良く使われているとは言い辛い。
ただ、これは全体の底上げであって無人機に対しての何らかの対策も必要ではあるだろうが……しかし、無人兵器の復権はならないだろうがな。
いい加減ロボットというのは信用ができず、爆撃や偵察などのリスクの高く、大雑把な攻撃や補助には使われていたが機転が必要な巡回や白兵戦では用いられなかった上に、ロボット3原則を守れないようなロボットを信用できるとは思えない。
少なくとも私は使う気にはなれない。
何より兵士を解雇してしまうとかなりの失業者が生まれてしまうし、大きく利権を失う者も出てくるので自然と圧力が掛かるだろう。
とはいっても対策しないという選択肢もないわけだが……私が想像しているサイコミュリンクシステムが実現できれば100以上のファンネルで包囲することが可能だろうから問題ないか。
「それにしても今回の刺客の裏がアナハイムだとはな」
あの無人MS……Sガンダムのパイロットを捕虜とすることができたので尋問してみたが、思ったより簡単に裏が確認できた。
まさかそれなりの利害関係だったので手を出してくるとは思わなかった。最近他所との付き合いが増えたから嫉妬でもしたか?それとも更に裏がいるのかもしれないな。
「アレンの能力はニュータイプのそれだとはとても思えないな。あんな尋問の仕方、他人から見ればただの妄言だぞ」
「今更何を……ここで私の発言を疑う者などいないだろう?なら問題ない」
(真偽に関しては疑ってないが、正気かどうかは疑うよ)
「MSの設計としてはガンダムの合体システムによるコア……人工知能を守ることを前提とし、武装はTRシリーズで得たノウハウを活かしたオプション装備を採用することで戦場を選ばない、か」
もっともこれらは全て推測とパイロットからの聞き取りの結果導き出されたものであり、1番大事なデータの類は全て、その人工知能、ALICEによって逃げられているため肝心な部分は何一つわからないがな。
一応、エゥーゴやティターンズなどから集めた技術が使われているだろうこの機体のノウハウを得られたのは十分ではあるが。
「さて、アナハイムにはどう報いてもらおうか」
(ちなみにロボット3原則を守っていないように見えるALICEだが、負ける場合、コアは脱出させ、機体諸共パイロットを抹殺するように命令されていたので、ちゃんとロボット3原則は守られている。もっとも敵は人間ではないと考えれば、だけど)