第百七十八話
今回の襲撃は私にとってもプルシリーズにとってもいい経験となった。
相手が人間ではない場合、ニュータイプ能力はあまり発揮されないと改めて認識したため、私は防御性能に力を入れるべく、キュベレイに外付けIフィールド発生装置の設計に取り掛かった。
さすがにキュベレイを全てストラティオティスに置き換えることは今はできない以上、既存のキュベレイに手を加えることである程度は改善されるだろう。
やはりニュータイプ能力にばかり頼るのは良くない。
「それならばアレンの計画にあったコロニー……ミソロギアの防衛計画を実行に移してはどうだ」
ジャミトフが言っているのはミソロギアに移動型砲台兼Iフィールド発生装置を設置するというものだ。他にも色々盛り込まれているが、メインはこれだ。
「それもあったか……技術的には可能だが……さて、生産に余裕は……あるか」
元々Iフィールド発生装置の生産レーンはビームガンやファンネルなどのビーム兵器が主で、フィールドモーターなどにも使うが必要数は限られている。
砲台部分はファンネルのレーンを使うことになるので自然とIフィールド発生装置のレーンは空くことになる。
消耗品であるファンネルの生産が止まるのは若干不安ではあるが、暇さえあれば増産していて今の備蓄は……5000基あるので問題ないだろう。
資源は……ないわけがない。
となると実行しない手はないか。
「それにしても軍備に関しては口出ししてこなかったのにどういう風の吹き回しだ」
「今回の件でこの平和がいつ崩壊するかわからんことを理解したのでな。助言ぐらいはしておかなければ後々後悔するだろうからな」
真意はプル達が戦う現実を目の当たりにして肝が冷えたといった所か、実際Sガンダムの対応を間違えれば1機や2機沈められても不思議はなかった。
随分と溺愛しているが……まぁ戦場に出すなと言わないし、助言であるのも間違いない。
「特に農業プラントの防備はしっかりしないと餓死することになるぞ」
確かにそのとおりだ。
この計画を考えた時はここまでになるとは考えておらず、娯楽の一種として何となく考えていただけであり、農業プラントなどというものが作られるとは想定していなかったので改めて考える必要がある。
しかし、農業プラントとなると必要な数が更に増えるな。
「……いっそ、砲塔ではなく、Iフィールド発生装置を無人化させるか?」
既に超遠距離用ファンネルというものがある。
攻撃に使うとなるとファンネルそのものの射程や複雑な機動が必要になるだろうが、Iフィールド発生装置だと射程など気にする必要がなく、単純な機動だけで済む。砲塔に関しては当初の予定通り移動式にすればいいだろう。
「問題は、これらをミソロギア全てを守るにはかなりの数が必要だと言うことか……まぁ1歩ずつ地道に進んでいくしかないか」
「国家運営など地道なことばかりよ。むしろ数年で結果が出るようなものは地道ではないがな」
100年先を見据えて計画するんだったか……気長い話だ。
むしろ、だからこそ政治家が腐るんだろうな。自分が死んだ後に成果が出るようなものばかりするのだから今の自分には実りが無さ過ぎる。
もっとも私達は100年ぐらいは簡単に生きられるので問題ないがな。
「ところでジャミトフ、今回のことはどうするつもりだ」
「裏で糸を引いているのがアナハイムだという件か、今のところはどうすることもできまい。証拠がアレンが取り調べた人間の証言とバラバラになったMSの部品しか存在せん以上どうにもならん。いや、他に証拠があったとしても今動くのは難しかろう」
「やはりそうか」
アナハイムに対する依存度が下がってはいるが、その影響力は今では連邦を動かすことができるほどだ。
私達の不安定な立場では迂闊に動けば人類のほとんどを敵に回すことに成りかねない。
「それを見越した上で私達で実験を行ったんだろうな」
「間違いなかろう」
全く、面倒なことをしてくれる……まぁアナハイムに責任を取らせるのは無理だとして……まさかこれを引き起こした責任者が無事で済むとは思っていないはずだ。
と言うか既に責任者は宇宙で事故死しているんだがな。
あまり軽く見られるとそれはそれで立場が更に弱くなるから仕方ないことなのだ。