第百七十九話
「新事実が発覚しました!!」
そう言って私の部屋に問答無用に侵入してきたのは興奮状態のスミレである。
ちなみに私の部屋はロックはしているが、それは侵入者に対してのロックであり、身内なら誰でも解除できるものだ。
「未来予測システムなんですけど、アレンさんが言っていた通りに相手の思考を読み取る傾向が強いのは間違いないですが、どうやら思考を読み取る以外にも察知能力から来る未来予測があるようなんですよ!」
確かに空間認識能力から由来する察知能力があるのはわかっていたが、それほど重視してこなかった。
なぜなら思念の受信が強すぎるからだ。
相手が人であり、MS自体や発射された実弾などにも思念が宿り、それを感じ取れば大体避けることは容易い。
いや、むしろ無意識に思念を読み取る傾向が強いために、察知能力が影に隠れて計測しづらいのだ。
「話の流れから察すると、その察知能力による未来予測が可能になった、と?」
「まだ試験段階ですからあまり精度は良くありませんが、間違いないと思います」
ほほう、ということは……先日のSガンダムのように無人化された兵器にも通用するということになる。
あまりにも都合が良すぎてスミレが狙っていたのではないかと疑うぐらいだ。
「実はこっそりアッティスに試作機の未来予測システムを設置していたんですよ。それで得たデータを分析してみると例の無人MSの本当に微々たるものですが未来予測することに成功していたんです」
なぜこっそり設置したのかは後で追求するとして……なるほど、それが実現するなら私達の安全性は更に増すことになるな。
「よし、スミレの予算を増やすようにジャミトフと調整するので思う存分研究するがいい」
「やったー。じゃあ前から欲しかったアレンさん特製PCが欲しいです!」
「……」
もしかしなくても私が使っているフル手製PCのこと……だよな。
アレを作るのにどれだけ手間を掛けていると思っているんだ。パーツを全て手作業で2ヶ月掛けて作りあげた狂気の一品だぞ?それをもう1台作れと?……まぁ1番時間がかかった理由は希少金属が不足して代替えを探すのに苦労したことだったりするのだが、面倒なのには変わりない。
だが、今回の研究はかなり重要である以上無下にするのもどうかと思うぐらいには私の足りない常識でも把握できている。
「……少し時間が掛かるぞ」
「わーい、私もそれに憧れてたんですよ」
喜んでもらえるようで何よりだ……自爆機能でもつけるか?
ハマーンから依頼があったバウの再設計が完成した頃、連邦では本格的にZIIとキハールII、そして新型量産機だと言われるジムIIIが配備され始めた。
他の機体は以前見たがジムIIIは初めて聞くMSだが、どうやらひたすら既存技術を基にして拡張性と生産性が重視された平凡なMSで面白みは一切ないが、そのあり方はMSの量産機としては完成されたもののように感じた。
ちなみにジムと名前に付くが、製造はアナハイムであるため見た目こそジムだが中身はどちらかというとネモに近かったりする。
それらが配備されたのは宇宙のソロモンとルナツーで、地球は後回しになっているようだ。
宇宙が優先され、地球が後回しになった理由はネオ・ジオンや私達の存在に対する牽制……というのもあるが、やはりエゥーゴと新生ティターンズとの政争の一端だろう。
同時にネェル・アーガマと呼ばれる新型戦艦もソロモンに配備されたそうだ。
ただ、このネェル・アーガマという戦艦の情報は私達はもちろん、ネオ・ジオン、つまりハマーンですら詳細な情報は掴みかねているあたり、何かあると考えて間違いないだろう。
唯一掴めているのはネェル・アーガマを建造したのがアナハイムであることぐらいだ。
……ZIIといい、ジムIIIといい——
「アナハイムの成長は目に見張るものがある。さすがは私を打倒しただけのことはある」
と自嘲気味にジャミトフが褒めているが、そのとおりだ。
量産機から戦艦まで牛耳るとは……いや、勝者としては正しい姿なのだろうが、他のMS以外の分野も決して疎かにしているわけではなく、それだけに恐ろしいほどの影響力を手に入れているように見える。
実際の内情は知らないが。
ああ、ちなみにバウの再設計はカタログスペックを全体的に10%向上させ、本体重量を3%軽減、合体、分離機能は残したものとオミットしたものを用意して用途別に使えるようにしたがネオ・ジオンがどう扱うかは知らんがな。