第百八十話
無人MSの襲撃があってから1年が経って、0091年がもうすぐ終わり、0092年になろうとしている。
あの襲撃から研究、開発は進めたり、交易所があまりに利用者が増えたために拡張工事を行って倍の大きさになったり、キュベレイ・ストラティオティスは戦闘データを基に改修を行った上で30機、パノプリアは予定より多く15機を配備したり、プルシリーズは400人となるなど順風満帆、問題も特にはなかった。
世の情勢は……特に変化はない……と言いたいところだが、事件があった。
エゥーゴと新生ティターンズとの間でMSで戦闘が行われたのだ。
切っ掛けは本当に些細な言い争いであったらしいのだが、新生ティターンズの兵士が体の隅から隅まで旧ティターンズの思想に染まっているような人間の集まりだったことから戦闘に発展してしまったようだ。
死者8人、しかもエゥーゴが7人、新生ティターンズが1人という結果であったため問題が更に拡大した。
事件ではあるが覇権争いでは敗れたティターンズが、その実力が今でも健在であることを証明してみせてしまった形になり、評価されることとなってしまい、相対的にエゥーゴの評価が下がることとなった。
そして当然ながら以前からあった確執は余計に深まってギスギスした関係になってシャアは頭を抱えていたな。
シャアの思惑としてはエゥーゴが優位な立場での冷戦状態を維持してジワジワと押し切るつもりだったらしいのだが、それも頓挫しそうな勢いなんだとか。
正直、私達としては福音と言えるだろう。
連邦の不安定であればあるほど私達にとっては過ごしやすくなるからな。分かりやすく例えると、新生ティターンズと戦うことになってもエゥーゴは出てこず、エゥーゴと戦うことになっても新生ティターンズは出てくることはない。
これが連邦という組織でまとまってしまえばどちらかと戦うことになればどちらかも戦うことになる。つまり連邦そのものと戦うことになる。
正直、被害さえ考えなければエゥーゴであろうと新生ティターンズであろうと片方の組織だけならよほどのイレギュラーでもなければ潰せるだけの戦力は揃えてあるつもりだ。
これはシャアやアムロのような化物を込みにした話で、だ。
ネオ・ジオン?眼中にないな。確かに操縦技術はさすがMSの生みの親の残身というだけあって優れているが所詮少数であり、少数精鋭同士の戦いなら私達が負けるわけがない。
と、話がズレてきたな。
ネオ・ジオンの変化としては、一部の派閥が新生ティターンズと接触しているということぐらいか。
エゥーゴと密接な関係であるにもか関わらず、その仮想敵である新生ティターンズに接触するのはなかなか大胆と言える。
ただし、これはハマーンが内密に指示をしたものであったりする。
実は一見立派に独立しているように見えるネオ・ジオンだが、連邦の心積もり1つで消えうる勢力であるというのは私達と変わりない。
そのため、片方の組織だけを信頼して手を結び続けるというのは悪手でしかない。だからと言って表立って接触すると体面が悪い。
だから昔からよく使われている、秘書が勝手にやったこと、を使うことで両勢力に繋がりを持とうと言うのだ。
もっともハマーンは未だに私達のことを優先してくれて、この行動も新生ティターンズの情報を得るために行っているに過ぎず、ネオ・ジオンは二の次三の次なのだ。
助かっているのも事実だが少し無理をし過ぎてハマーンの立場が悪くなっていないか気になるところだ。
得られる利益は短期的なものより長期的なものが望ましい……それにハマーンが害されてはさすがに目覚めが悪い。護衛のプルシリーズを更に増やそうかと検討している最中だ。
「……ところで体の調子がいいのだが、アレン……何か私にしたか?」
「……」
ジャミトフがこう言ってきたが何も言わない。言えない。
嘘は吐かない信条ではあるが、沈黙はする。
実は寝ている間に内臓はほとんど、血管の9割を取り替えているなんてとても言えない……こともないが、黙っている方が何となく面白い。
後は少々時間が掛かるリンパ節や面倒な神経、骨、眼球、舌、見た目でわかってしまう皮膚や爪、歯や歯茎……後は命題である細胞ぐらいだな。
「前まで控えていた油ものをいくら食べても胃もたれもせんし、酒で全く酔わん、睡眠時間が長くなっておるし……本当になにもしておらんか?」
「……」
だから肯定も否定もしていないだろう?
近年で1番変化を遂げた場所は何処かと問われたら間違いなく交易所だと答えられるほどの変化が起こっている
まず交易所そのものを拡張したのは既に触れたが、1番多くその面積を占めているのは……病院……といえるのかどうかわからないが、とりあえず病院だ。
ジャミトフが私達の立場の強化に、と考えた策の1つがこの病院である。
人間というのは欲深い人間ほど欲するものがある。それは……健康、ひいては不老長寿、もしくは不老不死だ。
欲深い人間というのはそれに比例して金と権力を持っていることが多い。
そして、私なら不死は不可能でも限りなく不老で無病を低リスクで手に入れることができる。つまり彼らの求めるものを与えることができるのだ。
それはもう儲かる。1人の人間を適当に掻っ捌いて取り替えるだけでMS10機は作れる上にほぼ100%リピーターになるためにここを守ろうと手を貸してくれるものが増え続けている。
ちなみになぜ病院と言い切れないかというと術後の経過など見なくても成功がわかっていて、即退院が可能だが、不安がって居座る人間が寝泊まりする場所だからだ。
一応患者という扱いにするなら病院、私としてはホテルという感覚だな。
しかし、本当にこの人脈作りは随分と役に立っていて、今となってはミソロギア内で手に入らないものは特に無いぐらいだ。