第十九話
ほう、有線式でのサイコミュ操作によるメガ粒子砲か。
シャアが帰還して見せてもらったもの、それはパーフェクト・ジオング……名前とデザインはダサいがなかなかの機体だ。
一年戦争時にシャアが未完成状態のジオングで出撃したと聞いたが……試運転もせずに実戦投入とはなんとも命知らずなことだ。
そういえばララァ・スンを討ち取ったパイロットが同じ戦線にいたというが……それで冷静さを欠いたのか?
まぁそんなどうでもいいことはともかく、有線式というのは無線式より自由度が無い代わりに直接強い信号が送れるため必要な脳波レベルが下がるため、将来的にはオールドタイプにも使えそうな技術だ。
もっともオールドタイプが使えるようになるとは言ってもそれは動かせるだけであって、使い熟すことができるかどうかは甚だ疑問であるがな。
MSの操縦だけでも一般兵の多くはOSのサポートを受けている現状で(エース級はその限りではない)更に複雑な操作が必要な兵器が使えるとはとても思えない。
ジオングを操縦できる者はこの拠点にはいないだろうから貰い受けることができそうだが……あの巨体では荷物になるか、いい加減長距離を移動するために荷物制限があるというのにあのサイズでは、な。
……いっそジオングに手を加えて小型化に挑んでみるか?組み立てた張本人がここにいるらしいし話せばひょっとすると持ち帰ることもできるかもしれない——
「ということでサイド3への同行の件はイリア・パゾムだけで——」
「却下だ。アレン博士」
……どうしてこの場面でそっち(女帝モード)が出てきた?
てっきり戦闘時や外交用の仮面かと思っていたが……いや、一応私と交渉中だったか。
しかし、ここでなぜ?
「だが、私が付いて行ったところで何の役にも立たない……いや、それどころか足を引っ張る可能性が——」
「問答無用だ」
取り付く島もなし。
対Gスーツの改良もあるというのに……ハァ、我儘な検体は扱いに困る。まぁ今に始まったことではないがな。
「ハァ、わかった。付いていけばいいんだろう……イリア・パゾムはどうする?」
「一緒に行けないのは残念だけど私の権限で許されているお伴は1人なのよ」
「構いません。楽しんで来てください。私も楽しませてもらいます」
そういえば、別に行かないわけではなく、別行動をするだけだったか。
こうして私のサイド3行きは決定したのであった。
私の仕事、多すぎやしないか?
前もって説明を受けたが……なんでハネムーン旅行を装うんだ?普通に観光客でいいだろうが。
しかも、相手が——
「私では不満があるのか?」
なんでこっち(女帝モード)のハマーンなんだ?
いや、年齢的には私とハマーンが一番近いから不自然はない。しかし、不自然がないのは年齢的な釣り合いだけで、私はまだ15歳、いや今年で16か……ただ、甚だ遺憾であるが、私は他の者より幼く見える容姿をしているのだ。
それなのに夫婦だと?ここには愚か者しかいないのか。
そういえばあのファナニガシとかいう軟派男は苦虫を1000匹噛み潰したかのような表情をしていたな。
もう少し表情を取り繕う努力をすべきだと思う。
「不満はないが問題が山積みな気がしてならん」
「ふふ、大丈夫だ。トラブルなんぞ、そうはあるま——」
『こちら機長です。不測の事態が発生しました。連邦の巡視艇が——』
これがフラグ回収、もしくは噂をすれば影が差すというやつか。
ハマーンの方を見ると顔色が悪くなっている。
全く……大人ぶっていてもすぐにボロが出る。
「大丈夫だ。この程度でバレるならそもそもサイド3内でもバレてしまうだろうよ」
「っ……そうだな。見苦しいところを見せた」
「見苦しいかどうかは知らんがいつも通りだな」
「アレン!」
「それと、今日の髪型もよく似合っているな」
今のハマーンは全ての髪を下ろした状態だ。
いつもツインテールだからだろうか、若干大人っぽく見える。
「……っ!」
声を出さずに口をパクパクとしているが……軽口が効いたのか緊張は取れたようだな。
世話が焼ける検体め。
ちなみにシャアとナタリー中尉、アンディ(アポリーの本名)とオクサーナニガシが夫婦という役になっている。
この事を知った時のナタリー中尉の反応は傑作だったな……実は隠し撮りされていると知ったらどんな反応をするのか気になるところだが、これは私とハマーン、イリア・パゾムの3人の最高機密であるため見せることが叶わないことが残念だ。
連邦の巡察員が現れた。
「お手間を取らせませんのでご協力をお願いします」
IDを求められたので提出する……と怪訝な顔をしたのがわかる。
その理由もわかる……わかりすぎるほどわかる。
つまりは——
「18?」
お前、一体何歳だ?というものだ。
とは言っても数えで2歳程度しか誤魔化していないのだが……納得出来ないだろうな。
くっ、私の若々しすぎる見た目が憎い。
せめて身長がもう少し伸びることを期待する……が遺伝子的(両親)にはあまり勝率は高そうにないがな。
「何か?」
「いえ、随分若く見えたもので」
「よく言われるよ。そのおかげでその手の趣味の女性には人気者だ。その中で選んだのが彼女だ」
実際開発商品を購入してくれている3割は女性で、その中には私を抱っこしたいと堂々と告げてくる猛者が何人かいる。
「それは羨ましいことで……それにしてもお相手も若いですなー」
「ありがとう……それと貴方、今の話……後で詳しく聞かせてもらおうか」
くっ、なんだこのプレッシャーは!訓練時ですらこのようなプレッシャーを放ったことはないぞ。
データが取れないことが悔やまれる。
このプレッシャーを感じたのか巡察員は顔色を変え、早々に次の座席……シャア達の席へと向かっていく。
「それで、どういうことか説明しろ」
「いや、そのままの意味だが」
更に言えばたまにおまけで「お姉さん」と呼んであげたりしているだけのことだぞ。
これで生活費が稼げるなら安いものだ。
そういう女性達は開発商品を高く買ってくれるから上客で、リピーターでもあることから欠かせない存在だ。
「ふーん」
なぜそのような冷たい視線を向けられなければならない。
本当に私に惚れているわけでもあるまいに。
結局あれから何故か現れたドムが脅しを掛けて巡視艇を追い払い、掻い潜ることができた。
……普通に考えればドム1機で行動していることを、そして自分達を襲わなかったことを不思議に思って当然だと思うが連邦の腐敗はここまで来ているのだろうか?
「またくだらないことを考えているな」
「まぁくだらないことであることは事実だな……ところでその喋り方はいつまで続ける気だ?」
「この視察は敵地であることを前提としている。そんな場所で気を抜かぬよう、常に意識した方がいいだろうと思ってな」
……この視察中ずっとそのままでいるつもりか?
「さすがにそれは疲れるだろう」
「どうということは——」
「いつもの可愛い喋り方の方が似合っているぞ」
「——くぁwせdrftgyふじこlp?!」
「私のわかる言語で頼——ゴフッ」
暴力で訴えるのはどうかと思うぞ。
そして、お前等、私達を見て微笑ましく笑うんじゃない。