第百八十六話
「何なんだ!あいつらは?!」
「ぎゃー!!腕が!腕が!!」
「男に触手なんて何処に需要が——」
「アッー」
「触手は男のロマンだがされる側じゃな——」
プルツー達の制圧戦は圧倒的であった。
敵の領域に侵入する場合に危険なのは防衛しやすい地形と一方的に被害が与えられる罠である。
しかし、プルツー達は地形?知ったことか!と言わんばかりに触手で壁を切断して排除するか壁越しに潜んでいた敵ごと貫くことで無力化していく。
それに触手は銃弾と違って機動が自由であるため、操作するプルツー達が姿を晒すことが殆ど無い。更に言うと例え相対することになったとしても常人では考えられない身体能力と触手による組織的な三次元戦闘の餌食となっていただろう。
とは言ってもプルツー達も無傷のまま、というわけではない。
「うぅ、痛い」
「頑張って、傷は浅い」
「薬」
1人のプルシリーズの太ももから大量に血が流れ出て、それを必死で止めようと2人のプルシリーズが片方は患部に宇宙空間に出ても完璧に止血するスプレーを吹き掛け、もう片方が薬を差し出す。
しかし、その薬を見た瞬間に負傷しているプルシリーズは、いやいやと頭を振って拒絶する。
決してただ薬を飲みのが嫌と拒否しているのではない……いや、結論的には飲むことを拒否しているのだが、彼女が嫌がっている理由は自身の父親が調合した薬であるからだ。
父親……アレンはプルシリーズの生みの親なのは言うまでもない。そしてプルシリーズの身体能力を1番把握していることも言うまでもない。
そんな父親だからこそ、常人では致死量であり、プルシリーズでもギリギリ問題がないように調整されていることが多々ある。というかそれしかない。
そして、健常ならばともかく、負傷した状態でそんな薬を飲みたいなどと思う人間は、偏った知識や常識しか習っていないプルシリーズであってもそのような感情を持ち合わせていない。
しかし、治療にあたっている姉妹としては実戦経験も少ない上に、治療経験はもっと少ないのだからそんな患者の気持ちなど気にする余裕などあるはずもなく、無理やり口に叩き込む。
「んぐ?!……————アアァアアアァァァァ?!!!!」(ビクンッビクンッビクンッ)
「「?!」」
負傷したプルが絶叫を上げ、身体は激しい痙攣を起こし、口からは泡を吹く。
その様子に驚いた薬を飲ませたプルシリーズは慌てて自分が渡した薬が間違えて自決用だったのではないかと確認する……が、それは間違いなく増血剤と鎮痛剤と強走薬グレートという対応マニュアルに書かれている物を飲ませている。
…………どう考えても最後の胡散臭い謎の薬が怪しいのだが、やはり偏った知識しかないプルシリーズ達には思いもつかない。
思いもつかないが別の意味での常識はあった。
それは——父親から渡されている薬は基本的に効果はあるがヤヴァイ、というものだ。
「————■■■■!!!!」
「え?」
絶叫し、痙攣していたプルシリーズが突然立ち上がり、そして……走り出した。
「あ、行っちゃった……って駄目!怪我がひどくなる?!」
「それにそっちは前線?!」
彼女はある種の覚醒状態にあり、本能的にニュータイプの能力で悪意や敵意を感じ取り、防衛本能を発揮して——
「……確か、ベルセルク?」
敵のど真ん中に突撃し、触手と拳が乱舞して薙ぎ払っていく。
「パパ……なんでこんな薬を治療キットに入れたの?」
その質問に、この場に居ないパパが答えることはできない。
ちなみにこの場に居たなら、少しミスったようだな。と返ってきただろう。