第百八十七話
む、1人暴走しているプルシリーズがいるな。
心が乱れから負傷者が出たことは感じていたし、他の姉妹が治療をしていた以上、問題はない……と思っていたのだが……なぜ暴走した?
生死に関わる負傷でもなかったようだし、負傷した本人からも暴走するほどの心の乱れは感じず、治療していた姉妹からも同様だ。
だが、治療していた姉妹からは驚きと大体私のせい、という達観したような感情が流れてきたことから私が何らかの関与をしているらしい。
「ふむ……負傷、私の関与となれば1番可能性が高いものは……これか」
触手で備えてある治療キットをこちらに手繰り寄せて中身を確認する。
状況と対応マニュアルを照らし合わせ、薬を確認——
「よし、私は何も見なかった」
決して戦場で狂乱状態に陥った者を無理やり戦わせるために開発した強走薬グレートと負傷時に使用する身体を強制的に活性化させるために開発した元気ドリンコのラベルが貼り間違えられていたわけではない。
貼り直し作業が面倒だな……そうか、対応マニュアルを書き直した方が早いか、いやしかしせっかく考えた名前が——
「何か問題があったの」
どうやら私がくだらないことを黙考している姿にフォウは不安を感じたようだ。
彼女はそこそこ才能に恵まれているが私ほどではないから何か不測の事態があったのではないかと心配しているのだろう。主にカミーユを。
もっともカミーユは母艦に留まっているので万が一もないだろう。それはフォウも知っている。この段取りはよほどのことがないと覆ることはなく、今のところ覆る要素は何一つない以上、フォウもわかっているはずだ。
なら何を心配しているのか……今、プルシリーズが死ぬようなことがあれば、カミーユにまた背負うものが増える。それが心配なのだろう。
見ず知らずの敵の命を奪うことは多くとも親交のある味方の命を奪われた経験はカミーユには少ないのでわからなくはないが。(原作と違ってエゥーゴのカミーユと関わりがあるメンバーはほぼ健在である)
プルシリーズが死ぬことを推奨するわけではないが、個人的にはカミーユの成長に繋がるならばそれはそれでいいと思う。
「なに、些細なことだ。フォウが不安に思うようなことは起こっていない。ちなみにカミーユとプルツーとの仲も問題ないよう——」
「叩くわね」
間髪入れずにビンタが迫る。速度から考えるとそれなりに本気なようだ。
「防御するなとは言われていないからな」
私も普通の人間なので痛みを喜ぶ趣味はないので触手でフォウを拘束する。
女とは感情で生きる生き物だという名言があるぐらいであるからこの程度のことで一々咎めることなどしない。それほど私の器は小さくはない。
「アレンの器は捻じ曲がりすぎて何にも使えそうにないわね」
「つまり天才が作ったアートと褒めてくれているわけだな」
「誰も褒めていないわよ!」
そんなくだらないやり取りをしているといつの間にか根城の掃討が終了したようだ。
ただし、いくらか精神的への負担が限界に達して半狂乱状態に陥っているプルシリーズがいるようだ。
こういう時のために精神安定剤(正常になれるとは言ってない)を用意しているので大丈夫……だと思ったのだが誰も使用する気配がないのはなぜだ。(強走薬グレートの効果を見たせいである)
「それにしても、やはり勿体無い」
宇宙では資源は限りあるものである……まぁ地球もそうなのだが価値が違う……だからこそ無駄な資源はなるべくなくしたいと思うのは自然なことだと思っているのだが。
「だからって死体を農業用の肥料にするなんて認めないわよ」
そう、人間の死体すらも資源である。だからこそ海賊達の死体を肥料にしようと思ったのだがカミーユ達やスミレまでが反対されてしまったので断念した。
海賊退治はそれなりに退治した証明さえできれば生死は問わない、つまり食糧と空気を無駄遣いしないため、生かしておく必要など欠片もない。
そして、今回の海賊退治も証言に必要な数名を残して皆殺しである。
(まぁ人食まで言い出さなくてよかった……なんて思わないといけないあたりアレンはやっぱり変人ね。付き合っていくのも一苦労ね。今更だけど)