第二十話
※サイド3にいる間は偽名を使って行動している、という設定ですが面倒なので偽名表記はしません※
観光コロニー、サイド3があまりにも地球から遠く離れているため作られた人工的ではあるが宇宙では貴重な自然を満喫するためのコロニーだ。
地球は重力がきつく、スペースノイドの観光には制限が掛かっているため他のサイドから遠いサイド3でも需要がある。
もっとも宇宙で自然環境を維持するにはそれ相応に手間と金が掛かるため入場するにも相応の金が掛かるため、自腹であったなら永遠に縁はなかっただろう。
「空気が違うわね。これだけでも来た価値があるわ」
「ふむ、空気が違うとは湿度が高く、埃と微生物が多数存在——」
「そういうことを言わないの」
……これは失言だったな。
しかし、いつの間にかハマーンの喋り方が元に戻っている。どうしたのだろうか?まぁこちらの方が私も落ち着くので歓迎だが。
「あれは何かしら」
湖の上に浮いている白い鳥を指して聞いてくる。
……なんであんなものがここに?
「あれはスワンボートだな。カップルで乗るのが定評だが——」
「乗ってみたい」
……話は最後まで聞くようにと何度も言っているはずなんだがな。
まぁ言いかけた内容はそのカップルは別れてしまう、なんていうどうでもいいジンクスがあるという本当にどうでもいい情報だったから問題はないか。
そもそも私とハマーンはカップルというわけではないわけだし。
ただ、1つ問題がある。
「……身長の関係上、私はあまり漕ぐことができないが構わないか?」
なぜ私がこのような屈辱的な気遣いをせねばならないのか。拒否した方がよかったかもしれん。
「……ふふふ」
「何が可笑しい」
「別に」
私を見ながら微笑んでいるハマーン……一体何だというのだ。
くっ、やはりスワンボートなど乗らなければよかった。
ギリギリ足は届いたが漕ぐには非効率な体勢で全然漕げなかった……ハマーンには申し訳ないことをしたな。
……きっと悪戦苦闘している私を見て喜んでいたように思ったが錯覚だったのだろう。
スワンボートを楽しんだ後は森林浴を満喫して暇で死にそうな思いをしつつのんびり過ごたり、記念撮影をしたりと今まで経験したことがない一般人の休日を過ごした。
「いよいよズム・シティね」
そしてハマーンが言うように私達は最終目的地、サイド3・1バンチコロニー、旧ジオン公国首都にして現ジオン共和国の首都であるズム・シティを目前にしていた。
そういえばサイド3に来るのは初めてだな。他のコロニーに比べて随分と大きいと聞くが……スクラップはあまりないだろうな。
そんなくだらないことを考えているといつの間にか入港してしまっていた。
エレベーターで外縁部へ降り、まず目に入ってきたのは——
「かつての公王庁舎、現在は共和国政府が使用しているわ」
ふむ、あれがザビ家のお家というわけか……前々から思っていたが、なぜジオンはこれほど悪役風のデッサンを好むのだろうか。
コロニー落としなど悪役がやるにはぴったりな所業ではあるが、そこまで悪役に成り切らなくてもいいものを。
街へ降り、協力者との待ち合わせ場所へ向かう。
「こうしてみる限りはここも平穏ね」
「平穏……空気税が月の10倍というのが平穏と言えるのか」
いくら距離があると言ってもサイド3と月ではそれほどの距離は離れていない、にも関わらず空気税が10倍となると連邦の悪意を感じる。
更に消費税も2倍ぐらいあるぞ……これは再び反乱してくれと言っているようなものだろう。
しかも連邦兵の犯罪がかなり横行していて、それを裁くことができないらしい。
これはあのハゲがテロ行為を行い始めたのも理解できなくはない。
「アレン博士、こんなところで——」
「ジオン軍の残党だ!」
オクサーナニガシが何か言いかけたところで如何にも犯人を追ってます的な声が割って入ってきた。
こんな街中で捕物劇とは、連邦のポイント稼ぎだろうか?それとも威圧行為か?
何にしても住民にとっては気分の良いものではないだろう。
そんなことを考えていると1人の男がこちらに向かって走って来る……わざわざこちらに来なくてもいいのに、と思いつつ周りを観察してみると、どうやらジオン軍はまだまだ見放されていないようで男が走ってきた道はすぐに周りの人間が隠してしまっている。つまり、男を逃がすのを手助けしているのだ。
そして男が私達の前を逃げていくのを見届け、次に連邦の犬らしき人間が多数通る……最中に私特製の時計型麻酔銃で全員を撃つ。
効果が現れるまでだいたい30秒、効果時間10分前後、麻酔針は視覚できないほど細いものだからそうは簡単に見つからない。
一応今回のために象すらも数秒で殺す毒仕様も用意しているんだが、使う機会がないことを願う。
後、追いかけて助けようとするアンディを止め、この場から退散……しようとするとサングラスをつけた怪しい男が近寄ってきた。
……サングラスで怪しい男なんて1人で十分なんだが。
「おまたせしました。こちらへ」
狭い路地に案内されたが……これが敵だったら一網打尽だな。
その時は無関係を装えば助かる……わけないか。
道案内をしている男の自己紹介を聞きつつ歩く。
男はジョルジョというらしく一年戦争時は学徒兵だったらしいがお偉いさんに説得されて連邦軍の犬になっているらしい。
そして現在通っている道はコロニーメンテナンス用の通路で、本来コロニー公社しか使うことが許されていない通路なんだそうだ。
確かに連邦は手が出しづらい場所だろうな。
しばらく歩いていると一旦地上に出て休憩しようということになり、あるマンションの一室に通された。
そこで色々話をしたが——まさかフラナガン機関の名前を聞くとは思わなかった。
どうやらサイド3でもフラナガン機関は存在していたらしく、そのラボに向かうこととなった。
これは思わぬ成果が期待できるかもしれない。