第百九十話
以前にも言ったが、交易所で1番の収入源となっているのは私自身が行う医療である。
大体の疾患は治せる上に、仮初ながらも漫画やアニメのエルフのような若さを保つことができるのだから金持ちが挙(こぞ)って訪れる。
そしてそんな患者と触れ合うことがあれば世間話をすることもあり、今となっては貴重な情報源とも言えるレベルに到達している。
その中には世界を裏で操ろうとする人間や組織も存在するのだが、そういう者達にとって現在目の上のたんこぶとも言える存在がいる。
アナハイム・エレクトロニクスだ。
後援していたエゥーゴが内乱に勝利し、予定よりも影響力が確保できなかったようではあるが大量消費地であるコロニーの利権の多くを握った上に、MS開発もティターンズと二分する形で手に入れ、表でも裏でも強引なやり方で勢力拡大をし続けてきたためそれ相応の恨みや妬みを買っている。
近々それに対して圧力を掛ける計画があると聞いていたのだが……
「アナハイムが一枚上手だったか」
それはハマーンから得た情報だった。
アナハイムは秘密裏にエゥーゴと新生ティターンズの仲を取り持ち、和解させることに成功したというものであった。
思いの外世論も兵士達も戦争に対して嫌気が差していたようで、一部の過激派を除けばそれほど苦労もなく実現したらしい。
私から言わせれば既に内乱で勝敗は決していたのだから今更和解と言っても……という思いなのだが新生ティターンズは負けたという意識はないのだろうな。
それはともかく、これによりアナハイムは母体となる連邦すらも持て余していた軍閥の仲裁を行ったことで更なる発言力を高めることに成功したわけである。
「……まさかアナハイムはこれを狙っていたのか?さすがに陰謀論と言ってしまうとそれまでだが……」
新生ティターンズは前身であるティターンズの時代はエゥーゴとは違い、元々は連邦軍から派生した部隊であり、連邦独自の技術によってMSを開発していた以上、アナハイムとの繋がりは薄いはずだが……商人というのは何処にどう影響しているのかわかりづらいため、私が把握していないだけという可能性は否めない。
そして、新たな試みとして新生ティターンズとアナハイムの間で共同MS開発が行われるという話が持ち上がっており、それも実現が近いようだ。これで更にMS産業はアナハイムの独占となるかもしれない。
……そうか、軍閥としてはエゥーゴはアナハイムへの依存が高くて独自に兵器を開発する術がないのに対して新生ティターンズは独自開発が行える。戦後エゥーゴが勢力の拡大を行えなかったのはアナハイムがあえてしなかったということかもしれないな。
もっとも私達にとって問題となるのは——
「この和解がどこまで本格的なものかということだな」
情勢は世界規模で見ても落ち着いてきている。
この落ち着きは私達にとってはやはりよろしくないものである。
一応、数多くの金持ち達(俗に言う先生や社長や代表や名家などと呼ばれる類の者達)を不老プラス若返りプラス健康を餌にして依存させることで私達の後ろ盾とすることに成功はしている。
しかし、彼らは今、商売の方はともかく、政争ではアナハイムに押され、そして何より武力という意味では軍事費などは支援してくれるだろうが直接的な戦力としては期待できない。
何事もなければいいが——
などと考えているとこれだ。
「派遣していたカミーユ隊(治安維持部隊の通称)が襲われたか」
交易路の治安維持も兼ねてパトロール中に……実際は私の感知に反応がなかったので依頼主達へのアピールのための航行……突如襲われたようだ。
もちろんニュータイプで構成されているカミーユ隊に奇襲など通じるはずもなく、問題なく全て撃破できたのだが、少し見過ごせないものが、MSが存在したのだ。
それは形こそ違えど以前、カミーユが乗っていたZガンダムの後継機としか思えないMSである。
相手のパイロットが凄腕だったらしく、鹵獲に成功したものの爆散していないだけと言ってもいいような状態であるため細かなことは分からないが、間違いなくZガンダムの設計を基にして作られた機体であり……そしてティターンズのTRシリーズ、そして以前鹵獲したパラス・アテネとボリノーク・サマーンの技術まで使われている形跡があるのだ。
つまり、このZガンダムもどきにはアナハイム、ティターンズ、新生ティターンズの技術が盛り込まれていることになる。
それが直接私達に攻撃を仕掛けてきた。
「これは本格的に戦うつもりでいるということか?」
しかし……エゥーゴにしろ新生ティターンズにしろ私達と戦うにはまだMS格差が埋めれていないと思うのだが……アナハイムの独断か?
……そうか、今、アナハイムは連邦に対して多大な発言力と影響力を持つ、つまり私達が訴える先は無く、私達がアナハイムやエゥーゴ、新生ティターンズへ報復しようとすれば世論を操作して世界の敵という形にすることができる。
さすがに世界を敵に回して勝てない……こともないだろうが、それ相応の苦労をする以上、選択しづらい。
1番平穏な方法は私達が泣き寝入り(その代わり襲ってきた相手は全滅する)こととなる。
……ん?別になにも問題ないか?襲われ続ければ私達のMS開発も捗るし、プルシリーズの経験にもなる。
もしやこれはアナハイムのサプライズプレゼントか?(絶対違う)