第百九十二話
<ジャミトフ・ハイマン>
私もここに来てずいぶん慣れたものだ。
「おじいちゃん、今日も頑張ってー」
「うむ」
プル達は純粋で面倒な連中を相手にしてきた私にとって癒やしの存在と言える。
本物の孫は小さい頃から小生意気で可愛くなかったがプル達はクローンという存在であるため精神が少し不安定なところがあるが素直で良い子だ。
最初の頃は見た目の同じ存在が並ぶ光景に感じるものがあったが、今となっては可愛い孫が次々生まれてきて嬉しい限りだ。
もっとも特徴的な容姿にしていない限り、見分けがほとんどつかないが。
「そういえば創造主が何やら思いついたような表情をしていたので気をつけて」
「うむ、報告ご苦労」
またアレンが何かを始めようとしているのか……それとも研究に進展があったのか……できれば後者であって欲しいものだな。
医学と遺伝子工学の天才であり、現在のサイコミュ開発では先頭を突き進み、日用家電からMSまで作り出し、それらの研究開発を自由に行うためにこのコロニー、ミソロギアを手に入れ、敗者である私がこうしてここにいるのも彼の仕業である。
言い換えれば人付き合いが面倒になってコロニーという国とも言える組織を文字通り全て作り上げたマッド・サイエンティストだ。
そして十中八九私の身体にも知らない間になにか施されている……特に証拠があるわけではないが時々あった関節の痛みや交易所のみで解禁された酒をいくら摂取しても二日酔いどころか酔うことすらしない。
幸い、悪いことは何一つないが……勝手に身体を弄られるのはいい気分ではない。
「スミレも暴走の兆しがあったから要注意だよー」
「うむ、気にかけておこう」
アレンよりは常識的ではあるが、研究に掛ける情熱は多才なアレンよりも特化している彼女の方が勝っているように思う。
それ故に彼女が暴走した時の被害はアレン以上……というわけではないが、情熱に相応な被害を被る。
具体的にはサイコミュが暴走して意味のわからない数式を頭に直接叩き込まれたり、悪夢を視せられたりとろくなことにならない。後、たまに爆発する。
「おじいちゃん疲れてるみたいだから父ちゃんからもらったサプリメント分けてあげる〜」
「それは遠慮しておく」
確かに効果はあるかもしれないが、それは君達用に調整されたサプリメントであって常人が口にしてはただではすまない代物だということを認識しておくべきだ。
私が摂取などできるわけがないだろう。(実はアレンの肉体改造によってかなり苦しむことになるが経口可能である)
まぁ、一応善意であるから責めることはせんが。
「じゃあねー、おじいちゃん」
「あ、今日はファさんが食堂にいる日だよ」
「なら行かない手はないね!」
「寄り道はほどほどにして気をつけて帰りなさい」
「「「はーい」」」
うむ、やはりいい子達だ。
10歳で私の財産を狙ってきた孫とは大違いだ。
「さて、まずは予定通り会合を行うとして、アレンとスミレの周りのプル達に監視を強めるように言っておくか。……一応カミーユにも伝えておくか」
あの少年とは少し前までは敵同士……まぁ少年は一兵士で私は総帥という立場の違いで存在を知ったのは随分後になってからであったが。
ティターンズが両親を殺したこともあって私に思うところがある……はずなのだが、特に何も言ってくることはない。
多少面倒ではあるがこれからのことを考えれば改善しておくべき案件であると思っているのだが、この話はデリケートな問題であり、こちらから話しかけるのは難しい。
それにアレンが言うには元々親子の関係は不仲であったので私が思うほどには気にしていないと言っていた。
そうは言うが親を殺されて恨まない子はいない……こともないのが悲しい現実というやつか。
権力や財産などを有するものにとって1番の不幸というやつだ。
どんなに手を掛けて、神経を使い、思いを注いでも結局はねじ曲がる時はねじ曲がり、最悪は殺しにかかってくる子も多くいる。
そういう意味ではそれらに依存して愚かな行いをする出来の悪い子の方がまだ救いがあるというものだ。迷惑ではあるがな。
「お久しぶりです。閣下」
「久しいな。それと私は既に閣下と呼ばれるような存在ではないよ」
「いえ、私達にとっては今でも閣下は閣下です」
彼らはティターンズ……今のティターンズではなく、私が率いていた頃のティターンズに所属していた将校達である。
軽く挨拶を交わし、いくらか他愛もない会話を挟んで本題へ入る。
「それで落ちぶれた私に何の御用かな?」
「閣下が落ちぶれたとは思っていません。そもそも謎の多いこの組織も閣下が万が一を考えて用意していたものなのではありませんか?」
内情を知らぬ者から見ればそう思っても仕方ないかもしれん。
そもそもコロニーを個人が研究のために所有しているというよりも現実的であるところが頭が痛い。