第百九十三話
<ジャミトフ・ハイマン>
「私達は閣下と伴に死ぬ覚悟でいる所存。何卒、ご配下にお加え下さい」
体裁も何も考えずに即答していいのならば、だが断る!と言ってやりたいところであるが、可愛さ余って憎さ百倍ということも考えられるので無碍にするようなこともできない。
一応アレンの代行であるため私も人事権は有しているが、あくまで代行でしかないため、人事権は限定的だ。
もっともそれに不満があるわけではない。
人事権とは強権であるが、同時に人間関係を汲み取らなければならず、その者の才覚が問われ、失敗すれば遺恨を残すことになる。
そんなもの私は欲していない。そもそもプル達に恨まれるなんて御免被る。
さて、どう断れば良いものか……いや、まずはアレンに伺いを立ててからの方が良いか。
ミソロギアの情勢は今までの曖昧な立ち位置からアナハイムと敵対することが決定し、その手先であるエゥーゴと敗北してもなおシロッコが率いることで何とか維持できておるティターンズと対立関係になる可能性があり、それに対して不老長寿と反アナハイムを掲げた不死鳥の会と協力関係となった現状では私やアレン、スミレにカミーユ達、プル達では人手が足らん。
それにプル達は更に増えるらしいから人手は足りたとしても能力には疑問があるし、解決するには時間が必要だろう。
「……わかった。前向きに検討するが、とりあえずこの話は持ち帰らせてもらおう」
「ありがとうございます!必ず役に立ってご覧に入れます!」
話を聞いていたか?検討するだけであって必ず採用するとは言っておらんぞ。
……まぁよかろう。もし面倒になればこいつらも始末してしまえば問題ないだろう。
今の私はティターンズの総帥ではなく、ミソロギアの住民にしてプル達の保護者である。(そんな事実はない)
彼女達を守るためならこの老骨に鞭を打ってでも守る所存だ。(魔改造によって見た目以外は若々しい肉体となっているので老骨という表現であっているかは疑問である)
アレンも身内にはなんだかんだと甘いが、こういう手に忌避感はないのは助かる。問題があるとすればカミーユとファか。
あの2人は軍人の経験をしてなお一般人の感覚が抜けていない。それは元々民兵であり、訓練された職業軍人ではないから仕方ないことかもしれないが……エゥーゴは表向き平和であった世に民兵を用いるなどテロリストとそう変わりないと改めて思う。
フォウはおそらくどうでもいいと切って捨てるだろう。彼女の思考のほとんどはカミーユが占めている。
つまりカミーユに害を及ばさなければ特に何か動くことも思うこともない。
彼女がアレンが言っていたヤンデレというやつなのだろうか。そもそもヤンデレの意味もわからんが。
それにしても、こうして内通を疑われ兼ねない会合を護衛のプル(この場合はエルピー・プルではなく、プルシリーズの誰かという意味)1人が同席するだけで許されるというのは不思議な感覚だ。
普通であれば疑わしきは罰するのだが、アレン達はそのつもりはない。というより必要ないと聞いた。
アレンのニュータイプ能力は他のニュータイプとは一線を画する存在であり、彼の前では上っ面だけの虚偽は意味をなさないらしい。
ニュータイプ……ジオン・ズム・ダイクンが提唱していた新人類である、とはジオン公国のフラナガン機関から接収したレポートに書かれていた。
そのような存在は眉唾ものだと思っていたのだが、今となってはその可能性は濃厚と言える。
アレンの戦闘訓練を見ていれば、とてもではないが同じ人類とは思えないのだ。
「ということだ。どうするかはアレンが決めろ」
「ふむ」
ジャミトフを視てみたが特に隠し事や邪気、悪意は感じない。むしろ面倒だという感情が視てみなくても表情から見て取れる。
しかし、外部の、しかも旧ティターンズの将校か……階級が高いことは軍事関連のノウハウが少ない私達にとってポイントが高いが、元々のポイントがマイナスに近い以上、多少の加点では焼け石に水である。
本当は排他的、保守的など言いようは色々あるが、この情勢で急激な変化など危険な行為だ。研究のデータ取りと考えるなら問題ないのだが、な。
そのようなことはジャミトフもわかっているはずだ。なら、なぜ彼らの話を持ってきたのか……考えられるうのは1つだけだろう。
「人手として使える……か」
ジャミトフから肯定の感情が流れてきたので正解だったようだ。
人手不足なのは確かだが、信用できるかが問題だ。もちろん私の面接を経ての採用である以上、悪意を持つものは弾ける。しかし、プル達の存在を知られることはやはり抵抗がある。
となると——
「準構成員という待遇で扱うか」
「具体的には」
「交易所限定でこちらの仕事を手伝ってもらう」
「……」
ふむ、それで彼らが納得するかわからない、と。
将校といえば人の上に立つ人間達の階級だ。つまり自分は特別だと思い上がっている凡人達にとって雑務など、短期ならともかく長期となれば難しいか。
「そいつらは交渉事は得意か?」
「将校というのは責任ある階級だ。自身の部隊の予算を勝ち取るために鎬(しのぎ)を削っていた者達である以上、得手不得手は多少あるだろうがそれなりにできるだろう」
「ならば交易所に不死鳥の会が参入してくるのだから担当させればいい。相手はアナハイムほどではないが大企業だ。冷遇されているとは感じないだろう。ついでにジャミトフの直属の部下となれば文句など出ないだろう?」
「……そうだな。今まで私が行っていた連絡なども代行させられるのは大きいか」
現在、外交は全てジャミトフに任せているので無理をさせているので丁度いいだろう。
もちろん面接し、能力に問題なければ、だがな。