第百九十七話
というわけで私の戦艦を設計しようとしたのだが——
「気持ちは分かりますけど、その前に急ぎごしらえの母艦じゃなくてちゃんとした戦艦を作りましょう」
とスミレからストップが来た。
彼女の言い分としては今の所アッティスでも十分以上に戦力になっているので他の戦力を充実させる方が優先だ、というものだ。
至極ご最だ。だが、私は私の道をゆくのだ。
「……それでなんでこんなものができてるんですか?」
「私も自分の才能が恐ろしい」
完全に無意識だったのだが、触手が勝手に動いていつの間にか朧気に妄想していたものが眼の前に実物として現れたのである。
最近、触手が勝手に動いていることが多々ある。これは私のニュータイプ能力が更に成長しているからなのだが……今の所カミーユをボコったり、プルシリーズを縛ったり、カミーユをサンドバッグにしたり、プルシリーズに特訓したり、全員が次の日筋肉痛になるほど追いかけ回したりする程度で大した被害は出ていないのが幸いである。研究設備に被害がないのは本当に幸いだ。
さて、少し話が逸れたが、眼の前にあるのは大型ミサイルのような艦艇である。
この大型ミサイル艦艇はMSを4機搭載、艦艇を軸に4方にMSを格納し、花が開くようにハッチを開くことで4機同時出撃、しかもハッチがカタパルトとなっているためカタパルト射出も可能であり、全自動整備補給機能を備えているが武装はなく、防御機構もビームコーティングとガンダリウムγと最低限のものしか備えていない。
それというのも——
「どう見てもMD専用輸送艦だ」
「ですね。しかも格納スペースから察するにクィン・マンサの搭載も想定して作られているみたいです」
「これがあればMDの遠征が可能になるわけだ……クィン・マンサは鹵獲されては大事だからまず使わないが」
ちなみにこの輸送艦は単艦では操縦ができず、MSによって操縦することが前提となっているようだ。
なぜそのように作ったのかは無意識であるため意図は確かではないが無意識ながらも私である以上想像はできる。
おそらくこの輸送艦は使い捨て前提であるため、無駄なコストを抑えることと無人艦を操縦するとなれば私がサイコミュで動かすことになる、つまりサイコミュ技術を使い捨て前提の艦に使うのは技術漏洩のリスクが伴うからだろうと当たりをつける。
「……あれ?アレンさんのMD操作可能範囲ってどれぐらいですか?」
「さて、まだ厳密に測っていないが感覚的にはサイド1ぐらいなら届くと思うが相当疲れるだろうな」
「…………それって、理論上だけですけど月に……アナハイムに延々とこれとMDを送り続ければ勝てたり……して?」
「今までプルシリーズの戦力化ばかりに力を注いできたが……MDか、確かにMDの生産に集中すればできそうだ。……殺るか?」
「殺らないでください!絶対殺らないでください!!」
「フリか?」
これは全力で応えなくては——
「フリじゃありません!」
(前々から思っておったが……ここだけ別次元じゃな。人格も、技術も)
とりあえずこのMD輸送艦は10隻ほど生産してゲルググやジム・クゥエルなどリサイクルMDを詰めて治安維持も兼ねて交易路周辺に放置することとした。
全域はカバーできないので月方面を重点的に放置している。
「そう、あくまで治安維持である。決して他意はない」
『その言い分が通じると思っているのか、君は』
モニターに映るのは慣れぬ政争に明け暮れ、若干闇落ちしているように見えるシャアである。
魑魅魍魎が集う地球連邦政府の中で揉まれて入れば闇落ちも仕方ないだろう。昔みたいにマスク付けるか?ついでに口元まで隠してシュゴーショゴーとすれば完璧だな。なんだったら私が作ってやってもいいぞ。
「建前は告げたぞ。それ以上は必要ないだろう。アナハイムの犬はとっとと飼い主に報告してればいい」
『……言ってくれるな。本当に変わらんな。アレン』
「その台詞、話す度に言っているぞ?自身が変わっていくことに恐怖でも覚えているのか?」
『そうかもしれんな。自分が何のために、何を目指していたのか分からなくなっている』
これはもう少しすればうつ病に入りそうだ。治療は……このまま放置しておけばいいか、ニュータイプ能力の向上が期待でき——ああ、彼にうっかりうつ病になって自殺でもされたら有力な伝がなくなってしまう。
ちっ、だから俗世というやつはどこまでも私の研究を邪魔をするっ!
「今、戦いで泣く者も不条理な死も少なくなっている。それを実現し、継続しようと努力しているのではないのかね」
『しかし、このままでは人々の魂は地球に縛られたままだ。地球は人間の重みに耐えられなくなる』
どうもシャアが言うと哲学的な意味なのか、現実的な意味なのかがはっきりしないので面倒だ。
哲学的な意味ではジオン・ズム・ダイクン……つまり父親が唱えたジオニズムに則ったもの、現実的には度重なるコロニー落としによる異常気象と人間は再復興という名目で自然破壊が進めているというものだ。
人間の業の深さに絶望し始めているといったところか。人間の欲深さは底が知れんのは同感だ。
『君がそれを言うのか』
「私の欲は倫理などには喧嘩を売っているが誰かに迷惑を掛けているつもりはあまりないのだがな。もし迷惑を掛けてもギブアンドテイクの範疇のはずだ」
『……』(先の内乱で随分と引っ掻き回してくれたのだが……)
「それに重みに耐えられないというならもう1度宇宙移民を始めればいいだろう。ちょうどよく宇宙利権はお前のエゥーゴが掌握しているようだし」
『その移民先である一部を不法占拠している自覚はあるのか』
「おっと痛いところを突かれたな。ならどうする?軍閥らしく武力行使で来るか?」
『遠慮しておこう』
正しい判断だ。そしてこちらとしてもありがたい話だ。
『それに宇宙移民実行にはかなりハードルが高いな。先の一年戦争、ジオン残党によるコロニー落としがまた再現されないとも限らない以上法案を通すの難しい』
「難しいから諦めるのか?なら地球を人が住めないほど破壊してみるか?いや、さすがにそれは他の生物が可哀想だ。それに大量虐殺も美しくない……なら……そうだ。精巣と卵巣の機能を失わせるウィルスでも開発してやろうか?」
これなら生物は殺していないから問題ないだろう。
ウィルスの方も私が少し本気を出せば割と簡単にできるはずだ。
『鬼か、貴様』
「ならもう少し真っ当な方法を探すんだな」
(早くなんとかしないとアレンなら本当にやりかねん。現場で遊んでいるアムロをこっちに引き込んでみるか)
「ついでに言うとおそらくだがこの手のウィルスは子供から感染するだろうから永久に精通と赤飯が食べられなくなるということに——」
『外道すぎるだろう』
「それと対象は無差別でワクチンは身内にしか配らん。つまりお前やナタリー、そして子供も対象の内だということを忘れるなよ」
ギリッと歯を擦り合わせる音が聞こえる。ニュータイプでなくてもわかるほどの怒りと殺意を目に宿している。
何にしても気力が回復したなら目的は達成できたと言える。
そもそも体外受精、体外培養なら問題ないが……まぁ性行為が廃れるとなると人間が、人類がどうなるのかは私の頭脳をもってしても未知数なので興味がないわけではないが。