第百九十九話
さて、シャアと言う名のアナハイムの犬からの要求にどう応えるべきか。
コロニー落としやウィルス、ネオ・ジオンを煽って盾とする、いっそ地球圏から脱して辺境に引っ越すなど色々考えたのだが、どうも力技が過ぎて美しくない。
それにジオン公国のお家芸であるコロニー落としは不死鳥の会との繋がりもあってやりづらいものがあるな。
それに私も多少は大人な対応をしておかなければ威厳がいつまで経っても身につかない。(身長が低く、幼く見られることがコンプレックス)
「MSから撮った画像データのみなら提出しよう。それ以上を求めるなら……うーん、そうだな……月を全面封鎖するぐらいで手を打つが?」
脅し?脅しだと思うなら勝手にそう思ってもらっても構わないが本当にやるぞ。アドバンテージを奪われるぐらいなら早々に片付けた方が手っ取り早く、苦労も少ないからな。
普通なら私達程度の勢力ではそのようなことは無理なのだが、MDがそれを可能にする。
もちろん、全面封鎖を行ったことで手に入るであろう物資は私達がいただく予定だ。
『……わかった。それで話をまとめる』
「そうか、お互い気持ちよく落とし所を見つけれてよかった。戦争や略奪、捕虜の虐殺などという野蛮な行為は控えたいからな」
うん、凄く大人な対応だった。
映像データを渡すことになったが、PLSが完成した今となってはお互いの位置確認など行っていないため、自分達の機体を見ずとも連携が可能だ。ファンネルは少し写り込んでしまったり相手のMSの実戦データを与えてしまうが……それは仕方ないだろう。
「ああ、後、もちろん犯罪者の維持に掛かる費用と報奨金は出るんだろうな?」
『もちろんだ。後……MSを引き渡——』
「引き渡すと思っているのか」
『一応証拠品なのだが、な』
「なら私が直々に犯罪者の身元洗い出ししてバックも調べだして取り締まってもいいならそれでいいが?」
暗に(?)犯罪者を口実にアナハイム一派を叩くぞ、という意味を含ませているわけだ。
証拠品なら犯罪者を捕まえるために使っても問題ないよな。(使命感)
そもそも既に襲撃を仕掛けてきているのはアナハイムであるという証拠は揃ってたりするのだが。
『わかった。犯罪者と証拠として戦闘時の映像データの引き渡しだけでいい。手間を掛けたな』
「本当にな。いくら犬とは言っても飼い主の暴走を正すのも犬の役割だろうに」
『それができれば苦労しないさ』
苦り切った表情でそう呟いて通信が切れた。
もしかするとこの状況を1番どうにかしたいのはシャアかもしれないな。
(前回といい、今回といいなぜアナハイムはわざわざ虎の尾踏んで竜の逆鱗に触れようとするのか。ああ、胃が痛い。ナタリー……は仕事の時間か、マーブル(娘)に会いに行くか)
そろそろカミーユ隊がサイド1に着いた頃——ん?伝聞?
【例の少年達、説得失敗】
……着いて早々にこの内容、説得する気が0なようだ。
仕方ないので優しく注意してやるとするか。
【それは残念だ。話は変わるが最近、カミーユ専用のサプリを開発中だ】
【もう1度少年達を説得してみる】
期待通りの反応ありがとう。こういうところを見るとカミーユもここに慣れてきたのだな、と思う。
しかし、残念ながらサプリの開発は決定事項だからどんなに頑張ろうと、それこそ勧誘が成功しても変わることはない。
せいぜい渡すタイミングが少し変わる程度の差だ。
「それなりの待遇を用意したが……勧誘が成功するだろうか」
欲に流されそうな性格ではあるが、妙なところで芯があるようなので難しいかも知れないな。
一応、支度金に5000万、生涯雇用、衣食住使用人付き(プルシリーズ)、資格取得へのサポートや例の妹のサイド3の名門校入学と引越し費用と学費全て負担もしくはミソロギアで私、スミレ、ジャミトフによる育成プログラムなどを用意してた。
「アレンさん……逆に怪しすぎだと思いますけど。未成年者に対してこんな高待遇、どう考えても怪しいお仕事の予感ですよ」
「そんなことはない。世の中には人から物を預かって渡すだけの仕事やATMから金を引き下ろすだけの仕事、白い粉を運ぶだけのお手軽な仕事など数々の——」
「それ、全部アウトな仕事ですからね?!」