第二百一話
結局カミーユの説得(半ば無気力)とプルツーの勧誘(嫉妬混じりで怒気が若干混じる)を受け、更に支度金を増やしたり、高待遇を用意してもリィナの懐柔が成功することはなかった。むしろ余計に不信感を強めた。
これには勧誘しているのがカミーユやプルツーが若すぎることも1つの要因と言えるだろう。人間見た目ではないなどというが、ニュータイプであろうと所詮人間は見た目で8割で印象を決める。簡単に言ってしまえばカミーユ達には真剣さや厳格さ、重さが足りないのだ。
その点で言えばジャミトフが1番適任ということになるのだが、彼はアナハイム一派との水面下ので抗争が始まったことでかなり忙しい身であるため叶わなかった。
さて、話は平行線ではあるが、ジュドー達が釈放されたのは実のところアレン達が手続きを終わらせたからに他ならない。それはリィナも知っている以上、無碍にできない。できないが、信用もできない。
そして信用ができないがハッキリと断ることもまた難しい。
ということでリィナが出した結論は——
「私と直に話そう……と、なかなか豪胆な子だな」
ミソロギアの責任者、つまりアレンと話がしたいということだった。
もちろんモニター越しではあるが。
ちなみにビーチャとモンドも来たがっていたのだが留置所で済んだとはいえ、警察の世話になったのは事実であり、保護者に軟禁状態であるため参加できなかった。
エルとイーノはリィナとジュドーの後ろで様子を伺うように立っている。
ちなみにモニターに1番近いのはリィナであることに異論がないあたり彼女に信頼がある証だろう。
そして、リィナ達がアレンを見た感想は——子供?であり、アレンもそれを察したが大人な対応でスルーすることにした。
もっとも勧誘に成功した暁には……と不穏なことを思っていたりするが。
「お忙しいところお応えいただいてありがとうございます」
「なかなか礼儀がいいな。他の連中(特に連邦関係)も見習ってほしいものだ」
(まずは自分から礼儀を正すべきだと——)
「私は礼儀にはそれ相応の礼儀で返しているつもりだが、カミーユはどう思う?」
「……」
いい加減慣れればいいのにカミーユは余計なツッコミをいれるばかりにアレンから更にツッコまれることになるのだ。
幸いというか、リィナ達には悟られていないようだ。
「さて、まずは何から話そうか……ああ、その前に1つわかってもらいたいことがある」
「何でしょうか」
「私は機密などでよほどのことがない限り、隠すことも嘘も吐かない。なぜだと思う?」
そんな人はいないとリィナ達は思いつつも代表してリィナは無難に答える。
「……正直者だから、ですか?」
「違う。私はニュータイプを研究しているというのは話に聞いていると思う。ニュータイプという存在がどういったものか、理解できるかね?」
マスコミが報道している程度の情報しか手に入らない民間人にとってニュータイプとは何処か普通の人間とは違う何か程度でしかなく、リィナやジュドーもそれに倣ったものとなる。
「その程度だろうな。ニュータイプというのは今までの人間……正確に言えば今までの、ではなくごく一部の、だが……に比べてとても読み取る能力が優れているのだ。空気や気配、そして人の心も、な」
最後の一言を言い終えるとリィナ達……とついでにカミーユとプルツーも巻き込んでアレンが精神的に触れる。
「どうだ。感じたか」
「……はい」
「これがニュータイプというものだ。もっとも私は他の者達よりもかなり優れているようではあるがな。さて、普通の人間でも嘘や騙されることを嫌うというのに、それを見破ることができてしまうニュータイプがどう思うか……聡明な君達ならわかるだろう?」
アレンの思惑とは違い、頷くことはなかった。
あれ?と疑問に思うアレンだったが、すぐに納得がいった。
「まだニュータイプとして完全に覚醒していない状態で言っても分かりづらいことか。つまり、嘘がわかる以上、嫌な気分にさせるのもするのも嫌だから嘘は吐かない、ということだな」
「わかりました」
そう答えたものの、リィナも完全に理解できたわけではないが、想像してみると嘘がわかってしまう人ならば嘘が嫌いになることもあるだろうことはわかったので深く考えないでおくこととした。
「それを踏まえた上で質問してくれ」
「では、まずなぜお兄ちゃん達を勧誘したんですか?」
「それは既に話していると思うので却下する。私の時間は金より価値がある以上、それ相応のものを求む」
この発言で、確かに隠し事とかあまりしなさそうだ、とリィナ達は思う。態度は不遜だが、自分達の周りにいる大人達よりは接しやすいとは思う。
「では改めて、お兄ちゃんの業務内容は教えてもらえますか」
「…………?そういえばその手の話はしていなかったな」
衝動的に動いた結果がこれである。
「基本的に私の実験に付き合ってもらうことになる。内容に関しては色々あるから一口に言い表せないがデータ取りが基本だ。そして本人の希望と才能があればプルツーのようにMSのパイロットやカミーユのように戦艦の艦長なども就くことができるぞ。もちろんその分の危険手当も出る」
「こ、殺し合いをするんですか?!それにプルツーさんがパイロットでカミーユさんが艦長?!」
ただのスカウトだと思っていた相手が思っていた以上に物騒な肩書であったことに驚くリィナ達はついそちらに顔を向けると、プルツーが堂々とした様子で胸を張って答える。
「本人の希望があれば、な。先程も言ったが基本はデータ取りが基本だ」
「……危険はないのですか」
「危険はないとは言い切れん。まだ社会に出ていないので知らないかもしれないが、そもそも仕事とは大なり小なり危険が伴うことが多い。ただ、死亡に至る危険性は少ないと言い切れる。」
「なぜですか?」
「腕や足、それこそ心臓が潰れたとしても即死していなければ私が治せるからな」
もちろんそのようなことになることはないがな。と付け加える。
「そんなことができるんですか」
「理論上とかそういう机上の理論ではなく、実際行ってきたことだ。なんだったら不老不——」
「そこから先は本当のこととは言っても胡散臭くなるので止めておいた方がいいと思う」
それもそうだな。とカミーユの意見を聞いて話を止める。