第二百二話
あの少年達……ジュドー達はなかなかの素質があるな。
ただし、1番の素質がある者がまさかジュドーの妹の方だったとは思いもよらなかった。
リィナと言ったか、彼女は他の者達とは違い、思春期由来のニュータイプではなく、本質的なニュータイプであるようだ。
しかもトラウマ型ではなく、私のような天然物である。まぁ私ほどの才能は無いがな。(ドヤァ)
是非ともジュドー共々ここに就職しないかと誘ってしまった私は悪くないだろう。ただし、兄であるジュドーに警戒されるハメになったようだ。
そういえば、私の思春期とはいつになったら来るのだろうか、性欲すらもろくにないのだが……生殖器は正常のはずなのだが……まぁ欲に溺れることがないと思っておくとする。
結局、ジュドー達とは色々話したが保留ということになった。こちらの誠意は伝わったと思うが、さて、どうなるかな。
「アレンさんも意地悪ですよね。あんな子供を脅すなんて」
「?なんのことだ?」
「無自覚でやってたんですか……ジュドーくん達に、万が一ニュータイプであることがアナハイムや連邦にバレたら研究材料か徴兵される可能性があるって」
「ああ、あれか。言われてみれば確かに脅しと取られても不思議ではないか」
それに私達がジュドー達と接触したことで、ニュータイプであるということを察する鼻がいい奴らもいるだろう。カミーユ隊はマークされている可能性が高いことも一つの要因だ。
もしあちら側に取られたとしてもそれは惜しいとは思うが本人達が出した結論なのだから別に構わないが……十中八九、せっかくのニュータイプの素質は時間と共に失われる強化を施されるか、トラウマ型のニュータイプになってしまうかのどちらかになるだろう。
私達が信用できないならば……ネオ・ジオン経由で雇用するようにハマーンに頼んでみるか、ネオ・ジオンなら私達よりは信用がある……はずだ。ただ、ジオン公国には恨み辛みを抱く者が多く居て、ジュドー達がそうではないという保証はない。
などと考えて2日、プルツーから連絡が入った。
「アーシタ兄妹、ビーチャ・オーレグ、モンド・アガケ、エル・ビアンノから契約の同意を頂けました」
「おお、てっきり断れると思っていたのだが……」
「父様のご人徳の賜物かと」
自分のことながらそれはない。というか言っている本人も信じていないことを言われてもな。
ん?そういえばもう1人、イーノという少年がいたと思うのだが。
「彼はまだ悩んでいます。調査した性格からすれば周りに流されて決めるものと思っていました。しかし、他の家庭より財政的にゆとりがあるためか、踏ん切りがつかないようです。あまり時間が掛かるようですと他の方達の決断が揺らぐ可能性がありますし、そろそろ私達も次の任務に向かった方がいいのではないでしょうか」
プルツーの忠誠心は美徳ではあるが、余裕がないのは玉に瑕、というほどではないにしてももう少し余裕を持たなければ思わぬ失敗を生むことになるのではないかと心配になる。
「人生の重大な決断だ。焦らせても良いことはないだろう。ジュドー達にも改めて考えるように言っておけ。特に軍機に触れるために簡単に辞職や脱退ができないことを改めて念入りに説明しておくように」
騙したなどと思って欲しくはない。
これは別にいい人間を演じているわけではない。
コロニーという閉鎖的な社会で生きていく仲間となるわけだが、閉鎖的社会だからこそ問題になるであろうことは前もって防ぐ試みである。
人間というのは己の意思で選択した行為には不満を口にこそすれ、恨んだりすることまではしないものだ。よほど責任転嫁が好きなもの以外は。
柵(しがらみ)を1番作るのは他人ではなく自分自身が多いのだ。
ちなみに私も柵は多く作っている……プルシリーズというな。
「では、改めて説明しておきます」
失礼します、と挨拶を終えるとモニターからプルツーの姿が消える。
感慨深いものだな。あの父様父様と追いかけていたプルツーが今では立派になって。
「パパ!パパ!MS戦闘でまた1位になった!」
「そうかそうか、偉いな。褒美にプロテインをやろう」
「いらないもん!」
プルはいつまで経っても変わらない。もちろん成長しているのだから間違いなく変化はあるが表面上の変化はあれど根本的な変化は少ない。
もっともそれはそれでいいデータが取れるので問題はない。
ちなみにプルはMS戦闘においては以前から変わりなく、プルツーに次ぐ2位である。
プル自身も身体能力、ニュータイプ能力共に成長し、他のプルシリーズの追随を許さないほど優秀である。ならばなぜ指揮官や外交官などの訓練をしているプルツーを抜くことができないのか。それは……単純にプルツーの才覚が抜きん出ているというのもあるが、根本的にプルとプルツーは戦う上で相性が悪いというデータが出ている。
しかし、プルにはそれを教えていない。負け続けることで負け犬になるか、更に成長するかは賭けのようだが、今の所賭けには勝っているので問題はない。
まぁいざとなれば負け犬根性は触手で叩き直すことぐらいはできるだろう。
「な、なんか嫌な予感がする!」