第二百五話
「「「……」」」
ジュドー達はその光景に絶句していた。
現在いるのはカミーユ隊の母艦のブリッジに到着したところだ。
母艦に乗り込むまではイーノとの別れに涙し、乗り込んでブリッジに来るまではこれからのことを想像しながらあーでもないこーでもないと話したり——
「すげー?!なんだあのMS!!前に見たジムとかとは明らかに強そうだぜ?!」
「しかもいっぱいあるよ!!」
「俺も乗れるのかな!!」
「でもよー。あんなの壊したら弁償とかさせられるんじゃね?」
「……一生掛けても払えそうにないな」
ちなみに弁償する気があるなら一生掛ければ払えなくはない。(ただし不老不死もどき前提である)
「でもアレンさんに頼めば操縦させてくれそうだけどねー」
「危ない」
などと格納庫に立ち並ぶ巨大MS群に圧倒されながらもワイワイガヤガヤと騒がしかったのだが……ブリッジの光景を見ると一様に押し黙る。
「ようこそミソロギア治安維持部隊、通称カミーユ隊へ。私達は貴方達を歓迎します」
今まで案内していたプルツーが振り返り、ビシッと敬礼するのに少し遅れ、ブリッジクルーも合わせるように敬礼する。
しかし、絶句しているのは歓迎されたことへの感動や乱れぬ整列や敬礼ゆえではない。
それは——
「……ず、随分よく似ている、たくさんのご姉妹ですね」
リィナが代表して問い掛ける。
眼の前のブリッジクルーは全員が全員、性別や年頃どころか、髪型に多少違いはあれど、姿形がほぼ変わらない人間が10人以上並んでいたら一般人に与える違和感は並大抵のものではない。
「改めて紹介すると俺がこの艦の責任者、つまり艦長であるカミーユ・ビダン、そして——」
「プルツー、このカミーユ隊の副官にしてMS隊隊長だ」
「MS隊副隊長プル39だ」
「オペレーターのプル122だよ」
「操舵士プル219です」
「料理長、222」
次々と自己紹介が続いて行くとジュドー達の顔色が悪くなっていく。
それもそのはず、唯一の望みだった超規格外姉妹という可能性が、名前がナンバーであることから否定されたに等しく、嫌な汗が止まらない。
(おい、これって……)
(やばい感じ?)
(ちょっと早まった気がするな)
(だよね)
(ですね)
声を潜めた会話ではなく、アイコンタクトによる会話である。さすがニュータイプの卵である……と言いたいが、この光景を見てのほほんとして居られる人間は能天気な人間か、まだ世を知らない子供ぐらいだろう。
「名前や容姿で察することができると思うが私達は少々特殊な生まれだ」
「特殊な……生まれ」
「ああ、俗にいうクローンと呼ばれる存在だ」
ジュドー達にとって最悪な答えが容赦なく叩きつけられる。
いくら不良学生であっても道徳は学ぶし、それを好んで破っているわけでもない。他に生きるすべがない、譲れない何かがあるからこそ破っているのだ。
そして、人間のクローンなどという犯罪よりも禁忌とされているようなことまでしようなどと思うほど悪人ではない。
(イーノ……本当に一生の別れになっちまったようだな)
こんな重大な秘密を知らされたということはもう逃げ出すことはできないし、部外者との関わりを制限している理由も察しいたビーチャは泣いていたイーノのことを思う。そして、イーノの意見、選択肢は間違っていなかったとも。
ミソロギアは俗に言うブラック企業ではないが、闇の組織であることには違いないのだ。(軍需産業的にも)
「ははは、考えていることはわかるけど、もう少し楽観的で問題ないよ。俺なんかもまだここに来て新米だけど彼女達の生まれが特殊なだけで人間には変わりないし、いい娘達だよ。彼女達は」
最後の一言だけ妙に力が入っているあたりにジュドー達は更に不安が増す。
「ああ、別にアレンが問題あるわけでは……いや、問題か?アレンはこう……研究と検体が問題なければ何でもしていいというか、たまに抜けてるところがあって暴走してしまうというか……言葉で言い表すのは難しいな」
「父様は宇宙一素晴らしい人です」
カミーユがどう説明するか迷っているとプルツーが簡潔、そしてこの場にいるプルシリーズ以外に共感を得ない言葉で断言する。
そしてその言葉が余計に不安を増幅させる。
「でも、その……カミーユさんは平気なんですか」
リィナははっきりと言葉にしないが、プルツー達に視線をやって言外に伝える。
クローンなどという存在をすぐに認められるほど人間は簡単ではない。
「では聞くが、クローン人間は禁忌とされているのか説明できるか」
答えたのはカミーユではなく、プルツーであった。
「それは……」
クローン人間である本人にそう問われ、言葉を詰まらせる……が、それでもなおリィナは続ける。
「生物として不自然なことです。自然な営みから反するのはおかしいです」
「ではお前達は医療機関に世話になっていないのか?生物が生物を治療することだって十分不自然なことだ。特に人工臓器などはそうだな。それを否定できるか?それに自然の営みなどスペースノイドが語れるのか?何より……自然の営みが善とする根拠はなんだ?」
いつもはアレンが行っている問答を珍しくプルツーが行っているのはもちろんアレンの訓練の一環である。