第二百六話
プルツーとリィナ達の問答はしばらく続いていたのだが、突然双方が口を閉ざしたことで中断されることとなった。
「嫌……なに、これ」
「なんだこの気持ち悪い感覚」
それはカミーユやプルツー達を始め、ジュドー達も嫌な気配を感じ取ったからである。
そして、戦場に立ったこともないジュドー達はちゃんとこの気配に気づいていることに改めてアレンとの共鳴はニュータイプの素質を引き上げるんだな、とカミーユは認識する。
「艦長、ここは任せます」
「ああ、オペレーター」
「はい。戦闘警報発令します」
「索敵」
「まだ明確にはわからない。ただ、右舷の方から発してる」
この艦の索敵とはレーダーに頼ったそれではなく、感知能力に優れるプルシリーズも担っている。
他の軍ではありえない索敵方法ではあるが、弱点として無人兵器には効果が薄い。
「他には」
「今のところはない」
「ミノフスキー粒子散布がまだされていない以上は……MS隊は準備でき次第順次出撃し、艦を護衛するように伝えて」
「了解しました」
一通り指示を出し終えたカミーユはジュドー達に向き直る。
「その嫌な感覚が敵意、殺意というものだ。この感覚を忘れるなよ。これは自分の命と仲間の命に関わるからな」
「て、敵意に殺意って……それじゃあ今から——」
「ああ、戦闘……いや、あえてこう言っておこう」
殺し合いが始まる。
その言葉を聞いたジュドー達の顔色が悪くなる
「あ、相手は……」
「表向きは宇宙海賊ということになっているな」
「……裏は誰ですか」
「アナハイム」
「いぃ?!」
「とその傘下と成り果てているエゥーゴと、エゥーゴと和解した新生……ティターンズかな」
「「「えええええええ?!」」」
この驚きの声は予想の範囲であった。
宇宙海賊なら納得し、アナハイムならまさかの大企業が海賊?!という事実に驚いたものの自分達を勧誘していたことから嫌がらせか?という思考に入り、更にビッグネームが出てくればこのリアクションも予想ができて当然である。もしくは事実とは受け取らず、冗談だと笑ってしまうかのどちらかだろう
ちなみに今回の襲撃者が宇宙海賊ではないと断定しているのは、この周囲にいた海賊は既に狩り尽くしているからである。
「ただし、さっきも言ったけど明確な敵対関係じゃない。今回の襲撃は……嫌がらせか?」
「嫌がらせって」
「おそらく俺達が戦力増強していると思っているんだろうな。もちろんこの増強というのはジュドー達のことだ。俺達の戦力のほとんどがプルツー達だってことを知らないから仕方ないんだが」
「じゃあアレンさんは身を護るために彼女達を?」
「なんだよ。女子供に守られて恥ずかしくないのかよ」
ここにスミレやジャミトフが居たならビーチャの暴言に拍手することだろう。無謀なる勇者Level1が四天王に戦いを挑む観察者として。
言い終わるやいなや周囲からプレッシャーが贈られ、ビーチャはいい加減良くない顔色が更に悪くなる。
「そういう意図もあるようだが、元々研究していたと聞いている。それに勘違いしては困るが、ミソロギア最大の戦力はアレン自身さ」
「へ?アレンさんって研究者なんだろ?」
モンドの疑問は当然であったが、若いプルシリーズにとってはアレンが強いことは当然のことであるため、なぜ驚いているのかわからず、首を傾げ、先輩であるプルシリーズが囁いて教えている。
「アレンの本気は俺でも計り知れないけど……エゥーゴとティターンズの宇宙艦隊ぐらいなら全て合わせても敵わないだろうな」
事実しか言っていないのに、その事実が嘘っぽいことにカミーユは言ってから気づく。
アナハイムが敵なのは事前にそれらしいことを言っていたこと、エゥーゴやティターンズが敵なのは非合法組織であるため可能性としてはあるだろう。
しかし、地球と宇宙のほとんどを支配している地球連邦の下部組織とは言っても軍事組織の宇宙限定とはいえ、全軍を打倒することができるなどとは子供でも信じない。
そして案の定ジュドー達の表情は信用しているようには見えなかった。
むしろ信用しているようであれば別の意味で心配になる。
「少なくともアレン単独で俺達が敵わない。これは間違いようのない事実だ。そして、俺達の強さは……今から見ることができる」
ジュドー達が見て興奮していた巨大MS、キュベレイ・エスティシス、キュベレイ・ストラティオティス10機が出撃を終え、母艦の周りに居並ぶ光景がモニターに映し出される。
「…………す、すげぇ」
一同圧巻され、声が出ず。代表としてビーチャが何とか漏らすように感想を言う。
その一言で解放されたように口々に讃える声が上がる。
キュベレイを讃えるというのは作ったアレンを讃えることなのでプルシリーズもごきげんである。
そしてその讃える声の中に——
「可愛い」
という声が混じっていた。
その声の持ち主はリィナであった。
どうやら彼女の感性ハマーンに通づるものがあるようだ。