第二百七話
「あれって大丈夫なのかよ」
先程までキュベレイを見て感嘆していたのが嘘のように心配そうな声が漏れた。
それもそのはず、モニターに映し出されたのは36機ものMSの大部隊だったからだ。
「思ったより数が多いが、MSはどれも旧式ばかりだから問題ない」
カミーユは安心させるように優しい声色で言ったが、ジュドー達はとても信用できなかった。
不良学生だけあって殺し合いなんて経験はない。しかし喧嘩ならそれなりにしているので数の強さ、タイマンならともかく、喧嘩慣れした人でも1人で複数相手するのは難しいことを身をもって知っている。
これが本職同士の殺し合いなら尚更変わらないだろう、と思っても仕方ないことだ。
「相手は一年戦争末期に開発されたMSばかり、つまりロートル機だ。負けることはない」
負けることはない。それは事実だが、カミーユは別のことが気になっていた。
アナハイムが襲撃に使うMSはだいたい現行機か最新機(テスト機)を主力としていたがこのような在庫処分は宇宙海賊を使っていたという認識であった。
なら眼の前にいる襲撃部隊が宇宙海賊かというと、間違いなくしっかり訓練された正規軍人であることがMSの機動や連携から見て取れる。
なぜ今になってこうなったのか——
「アレンが言っていた通りになったということか?」
それはエゥーゴという名のアナハイムとの間にできた契約、宇宙海賊、厳密には犯罪者を無闇に殺さず、捕虜として引き渡すということを利用しての物量によって情報収集を行うという予想であった。
(報奨金が出るし捕虜の生活費はあちらが持ってくれるらしいから捕虜を捕るようにするつもりだが……安全も考慮すると全員殺してしまった方が……ハッ?!アレンにだいぶ汚染されている?!)
カミーユが己の変化に戦慄している間にMS隊は動いた。
プルツー達は6機だけ正面の敵に向けて前進し、残った4機は母艦の護衛として周囲を警戒する。
「おいおい、いい加減数が少ないのに更に分けるって無謀だろ?!」
ビーチャが絶叫を上げる。
ブリッジクルーのプルシリーズはその言葉にイラッとするが、己の命惜しさに、ではなく、MS隊を心配しているのだと感じ取ったため、すぐに苛立ちは消え、悪評を一旦取り下げることとした。
実はまだ表面化されてはいないがプルシリーズ内の悪評、つまり陰口は洒落にならない。
万が一、プルシリーズの2、3人に悪印象を与えた場合、他のプルシリーズにも伝播してしまう。そしてプルシリーズは見た目と反して本質的にはまだまだ子供であり、感情を隠すなどということはあまりしない。
そのプルシリーズがミソロギアの人口のほとんどを占めている……その中で生きていくとなるとかなりの苦労を覚悟しなくてはならないだろう。
知らぬ間に、危機的状況に陥り、何とか紙一重に回避することに成功したビーチャであった。
もっとも素直であるためそれなりの能力があれば汚名返上もさほど難しくはない……が、それだけの才覚がビーチャにあるのかは誰も知らない。
「「「え?」」」
キュベレイは全く動いていないにも関わらず、敵の先頭を駆けるMSの3機が頭、腕、脚が突然爆発する光景にジュドー達は何が起こったのか理解ができなかったようだ。
後続の敵が慌てたように散開し、何かから逃げるような機動をするがまた2機が同じように胴を残して爆発する。
その時、ジュドーがモニターに小さな何かを見つけ、これがアレを引き起こしているのか?と考えていることをカミーユは察した。
「さすがアレンが求めるだけの才能があるな。あれが俺達の主力武装のファンネルというニュータイプしか扱えない兵器だ。分かりやすくいうと小さいビーム砲を意思だけで遠隔操作できるものだな」
「え?そんなもの映ってるか?」
「……見えない!」
「私も」
「あ、もしかしてこれ、ですか?」
広大な宇宙空間の中で小型化されたファンネルを戦局全体を見渡すほどに引かれた状態で映されている状態で見つけることは至難の業である。
にも関わらず、ジュドーとリィナの兄妹はそれを見つけ出した。
(プル達のことでわかっていたことだけどやはりニュータイプの素質は遺伝子が大きく関わるのか)
となると自身の両親もニュータイプの可能性があったのだろうか?……ないな。とすぐに否定するカミーユであった。