第二百九話
「こうして直接挨拶できることを嬉しく思う。これより君達は大事な検体、貴重な検体——」
(((おいっ!)))
「——大事な仲間、大事な兄妹、家族として迎え入れよう。思う存分食べるといい。乾杯!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」
「「「か、乾杯」」」
プルシリーズの掛け声が大きく、応えるのも早く、そして料理に手を伸ばすのも早い。
それに対してジュドー達は戸惑いながらも杯を進め、恐る恐る料理に手を伸ばす。
言わずともわかると思うが、現在、ジュドー達の歓迎会を始めたところだ。
「ところでなんで俺達の歓迎会はしてくれなくてジュドー達はするんだ?」
「ふっ、僻みか?まぁ冗談は置いておいて、なぜ歓迎会を開いたかというと、ジュドー達は初めて正社員契約を行った相手だからな」
スミレはどちらかというと友人という枠組みであり、共に行動するようになったのもアクシズであった事件で身の危険と嫌気が差したことがあったからだ。
カミーユ達はフォウやロザミアの治療というのが主な理由であったし、ジャミトフは戦犯をリサイクルしたに過ぎない。
つまり、歓迎会を開くに値する動機があるか、ないか、その違いである。
「酷い言い草だな」
「気にしていない相手に気配りは面倒だ」
「なら気にしていたら気配りは……」
「しない」
だろうな。と笑って離れて行くカミーユを見送る。
ちなみにだが、さすがにミソロギア総出の歓迎会ともなれば料理担当のファや覚えたてのプルシリーズだけでは荷が重いため、交易所からデリバリーすることで解決したのだが、質より量となっているためファの料理よりは劣るものとなっている。そのせいか、ジュドー達は特別美味そうな表情は浮かべていない。
食の贅沢をプルシリーズに覚えさせると後が大変だから仕方ないのだ。欲というのは手に入ってしまえば次を求めてしまうものである。
不死鳥の会との提携で随分と財政は楽にはなったが、それでもミソロギアの防衛設備やキュベレイからストラティオティスの配備、度重なる戦闘行為などで消耗が激しいため、日頃から倹約を心掛けているのだ。
決して研究に費やしているわけではない。
「それにしても……リィナがこちらに話に来ないあたり、プルツーは上手く丸め込むことに成功したようだな」
プルシリーズに関して思うことがあるのは思念から伝わってくるが、だからと私に何か言いに来ることもない。
本当にプルツーはシリーズの中で優秀な個体だ。
「何より、プル達と上手くやっていけそうで助かる」
リィナ以外の面々は同じような容姿のプルシリーズにまだ慣れていないようではあるが、それでも女子にちやほやされて嬉しそうにシャングリラのことを話したりミソロギアのことを聞いてドン引きしたりしている。
……なぜドン引きしているのか私にはイマイチ理解出来ないが……サプリメントなんてどれも同じようなものだろう?(当社調べ)
「えー、服屋さんそんなに少ないのー?!」
何やらエルが不満を漏らしているが、衣服もだが装飾品類はミソロギアでは私が用意している高性能スーツ以外は手に入らず、交易所でもそれほど取り扱っていない。
なにせ消費者が少ない上に、そもそも見せる相手というのがほとんど居ない以上、最低限のものになっても不思議はないだろう。
「でも皆、髪はお洒落ですね」
リィナがフォローするかのように言うが、おそらく事実だろう。
プルシリーズはクローンであるため、やはり個を欲している。
そして、その個を求めた先は髪型である。
各々髪型を変え、時には私特製の染料で染めたりなど様々であるが、上位ナンバーや尊敬するプルシリーズ達はプルツーを真似ることも多い。
このあたりは性格がよく出ている……のだが、プルが個に走らないのは少し意外だと思っている。
最初の個体であるという自認でもあるのかと思ったが、そうではないし、プルツーとは本当に姉妹のように仲はいい(反面ライバル視もしているが健全な部類)からかと思えば、そういう意図もない。
今はどちらかというと私の役に立ちたいという思いが強く、あまりその手の話に興味が無いようなのだ。
……個を求めるのはいいが、視界がカラフル過ぎて鬱陶しいのはどうにかしたい。まぁ最低限の楽しみなので口にはしないようにしているが。
「プル達にいい刺激になるといいな」