第二百十四話
「ついに私が来た!」
「……また突然だな。アポイントメントすらも取らずに来るのはどうかと思うが……とりあえず久しぶりだな。ハマーン」
そう、つい昨日、ハマーンから通信があったと思えば、明日から世話になるというサプライズをされた。
このようなサプライズをされて喜ぶと思っているのだろうか?
「ああ、なかなかうるさい取り巻きに邪魔されてやっと自由な時間を確保できたのだ。全くうんざりする」
「せっかくの休暇です。そのようなことで心労を蓄積させては勿体無いかと」
「……それもそうだな。せっかく本格稼働を始めたミソロギアに来たのだから煩わしいことは考えないでおくとしよう」
とはいえ、日頃からニュータイプ訓練をしている(政治家というのはそれだけでニュータイプ訓練になる)のだから多少は大目に見てやるとするか。
それに前回会ったのはアナハイム、エゥーゴ、ティターンズが量産機のコンペティションの時で、しかもミソロギアに寄ることもなかったし、仕方ないか。
「それにしても……話には聞いていたが、ここにジャミトフがいるというのは不思議なものだな」
「私自身数奇な運命であると認識している。もっとも、ジオン残党……いや、ネオ・ジオンの宰相閣下がこのような組織と懇意であるという方が意外であるが……まぁあのMS(クィン・マンサのこと)を見た今だと当然とは思うがな」
「ふん、そのようなものは副産物だ。私は元々アレンの研究材料の1人だったに過ぎん」
「ほう、そうだったのか……ニュータイプという存在は理解できるがその在り方はイマイチわからんな。データをいくらか見せてもらったことがあるがアレンは恐怖の対象であることが多いが、それと同じぐらい慕われているのはなぜだ」
「わかりやすく言えば、悪魔のような存在というやつだ。恐れられる一方で甘い誘惑で人間を誑かす」
「「「なるほど」」」
人のことを好き勝手言い過ぎじゃないか。それと納得したカミーユとジュドー達は後で覚えていろ……おっと、少し思考が漏れたらしくカミーユ達の顔色が変わったな。
「ただし、悪魔が救いだという人間がいるというのもまた事実だ。私のようにな」
「私もです」
ハマーンとイリアが取り繕ったように言うが……そういう気持ちがないことが分かってしまうとそれはそれで気恥ずかしいものだな。
ただし、必死に頷いているお前ら(カミーユ達)はダメだ。取り繕う気持ちがダダ漏れだからな。更に追加だ。
「私にはわからん感覚だが、プル達がまとまっているのはそういうこともあるのだな」
ジャミトフが言っていることは間違いではない。
クローンとは言っても遺伝子が同じ、つまり一卵性双生児となんら変わりなく、その性格は似通っているとはいえ、成長過程における環境によって大きく変化する。である以上、一般社会同様……とまで行かなくとも強い統制が必要となる。
しかし、ミソロギアではそれほど強い統制を行っているわけではないにも関わらず統制が取れている……つまり私の求心力と教育の賜物ということだな。(恐怖政治の面が少なからずあるのだが本人に軽視している)
ハマーンやイリアはよく分かっているな。さすが私の検体の中で繋がりがある最古参達だ。
「そしてそっちのは……シャアの下に居た者だな。確かカミーユ・ビダンだったか」
「久しぶりだな。ハマーン……と呼び捨てしても?」
「ああ、構わん。今、ここにいるのはネオ・ジオン宰相ではなく、アレンの検体でしかないからな。そちらの少年達もそれで構わんぞ」
「お、おう」
「うお、マジでジオンのお偉いさんだぜ。しかもなんかアレンと並々ならぬ仲って感じだぞ」
「お兄ちゃん、口は災いの元だよ」
「でもよ。どうせ考えただけでアレンにバレるんだから一緒じゃね?」
「言われてみればそうよねー」
「実はアレンはハーレムを作ろうとしていると言われても不思議じゃない」
好き放題言っているな。既に特別トレーニングは確定しているから開き直っているようだ。
内容が更にひどくなるとは考えんらしい。
「それにしても……女が増えているが……ふむ、アレンの趣味ではないな」
「カミーユの連れだから当然だろう。というか私自身が女性の好みなど理解できていないというのにハマーンが知っているというのは驚きなのだが」
「アレンの好みは……私だ」
「…………」
「…………」
「…………」
「ハマーン、後で(肉体言語的な)話がありますので時間を作るように」(プルツー)
「ちょっと調子に乗りすぎだねー」(プル)
「……斬刑に処す」(プル3)
「ミソロギア内も随分変化があったので(地獄まで)案内しましょう」(プル4)
「は、離せ!ア、アレン、助け————」
「さて、歓迎会の準備もせねばならないな。その勇気を讃えてハマーンが好きなイチゴたくさんのショートケーキを用意してやろう」
「え?!ホント——あ、ま、待て、話せばわか——」