第二百十六話
「フハハハハハッ!!消滅するがいい!!」
先程まで半泣きだったハマーンは何処へやら、テンションがMAX状態で何処かの悪役のような笑いと台詞を叫んでいる。
今、行われているのはMSのシミュレータによる対決で、ハマーンが台詞を言い終わるとともに爆散したのは上位ナンバーが操るキュベレイ・ストラティオティス2機だ。
「よくもやっってくれたな!MS戦ならばまだまだ遅れはとらんぞ!」
よほど先程の訓練で鬱憤が溜まっていたのだろう。凄い気迫を感じる。
ただし、ハマーンが操縦するのはキュベレイ・ストラティオティスの基であり、ハイエンド機であるクィン・マンサなため、平等な対戦とは言えない……が、そもそもクィン・マンサを操ることは今回に限っては制限していない。つまりプルシリーズが操縦しても問題ない。
なのにクィン・マンサを使っていないのは一重に使いこなす自信がないからだ。
「粉砕!玉砕!大喝采ッ!」
今度は下位ナンバー4人が挑んだが、瞬く間に爆散する。
実は上位ナンバーとハマーンとではハマーンの方が操縦技術が上なのはわかっているが、2人掛かりで負けるほどの腕の差はないはずなのだ。
それがこのような結果になっているには理由がある。
まぁそれほど複雑なことではなく、ただ単にプルシリーズがハマーンの気迫に押されているというだけの話だ。
ニュータイプのパフォーマンスは気持ちで左右する。特にニュータイプ同士なら尚更だ。
本番、つまり本当の意味での戦闘(殺し合い)ならばともかく、今は平時であり、シミュレーションに過ぎないためプルシリーズは気持ちの切り替えが上手く出来ていないようだ。
このあたりはやはり戦闘経験を積んだとは言っても若く未熟であると言えるだろう。
その点、今のハマーンの状態は体力的にも精神的にも追い詰められているので、最後の輝きと言えるような強さを発している。
「これが戦いならハマーンの死亡フラグだよな」
カミーユもそれを感じての発言だ。
ちなみにイリアはプルと死闘を繰り広げている。
イリアの場合は感情の動きを冷静に見つめ直してコントロールすることができるため、戦闘に適したコンディションを保つことを優先している。それ故に、自身の壁を超える戦いというのは苦手な傾向がある。
プルシリーズに対しては下位ナンバーには圧倒的に勝利、上位ナンバーでも手堅く勝利することができるが格上であるハマーンや同格に近いプルツーなどになるとすぐに手詰まりになって勝つのではなく負けない戦い方に切り替える傾向がある。
確かに実戦において間違いではないのだが、パイロットとしての才能から見ると脅威度些か低くなってしまうのだ。無理をしない戦いは味方が多ければ援護の期待ができるが、敵の方が多いことが想定されるネオジオンでは少し問題になりそうだ。
ミソロギアならばファンネルという数で援護できるので問題にはなりにくいがな。
そしてプルは上位ナンバーの中でも5本の指に入るパイロットでもあるので激闘は当然といえば当然だが、イリアが強い攻勢に出ないことが余計に激しい戦いを演出することになっている。
攻勢にでなければ隙が減り、敵に攻勢を誘えば隙が生まれ、軽い牽制でそれを突いて警戒心を煽る。
本当に見ている分には激しい戦闘だな。全然決着がつかないが。
「お、真打ち登場だぜ」
ジュドーが言葉のとおり、モニターに映し出されたのはプルツーが乗るクィン・マンサがハマーンの前に立っているところであった。
元々プルツーはクィン・マンサを操る技量はあったがハマーン専用ということで日頃は禁止されていたが、今日は平等に、ということでクィン・マンサは解禁されているため使うことにしたのだろう。
「アレン、どちらが有利なのだ」
ジャミトフがこちらに尋ねてくる。
プルツーの実力はある程度知っているがハマーンの実力は知らないための質問だろう。
「気迫と才能ではハマーン、経験と努力ではプルツーと言ったところだが……さて、どちらが有利というのは難しいな……」
万全の状態であったなら6:4でハマーン有利と言えるのだが、既に疲労が蓄積していつ燃料切れになるかわからない上に、プルツーはここのところ成長が目覚ましい。戦いの中で成長することも考えられる。それにクィン・マンサを扱い慣れていないところもネックだろう。
「ふむ……以前から思っておったがネオジオンは随分個の力が突出しておるな。ドクトリンの違うとはいえ、あれほどの戦闘能力を見せられると思うところがあるな」
ジャミトフはそう言いつつも星の屑作戦の様相を思い出しているようであった。