第二百十八話
……まぁ実のところ、クィン・マンサ同士の戦いというのは地味なものになる。
なぜかというと最大火力はパノプリアのメガ・ブースターによる収束砲なのだが、それならばIフィールドを貫通することは難しくないが、クィン・マンサ単独のメガ粒子砲ではかなり至近距離で撃たなければ貫通することはない。つまり、牽制どころかただの虚仮威しにしかならない。盾と矛では盾が上回っているのが現状なのだ。
ならばどうなるかというと——
「大型ビームサーベルとテンタクル(MSの触手)しか有効打がないのは面白みに欠けるな」
「……あの戦いを見てそんな感想を抱けるのはアレンだけだ」
「目で追うだけでも一苦労じゃな」
ジャミトフは気づいていないようだな。元の身体能力ではあの速度のテンタクルを見切ることなど常人にはできないのだが、私の手に掛かれば音速で動くそれを捉えることすらもたやすいのだ。
ちなみにテンタクルの動きは軽く音速を超えているのでそれらの先端を視界に捉えるのは常人ではまず不可能である。
余談ではあるがテンタクルはその動作ゆえにこまめにメンテナンスをしないと動作不良を起こしてしまう可能性が高いため、実のところMSよりもメンテナンスを行う回数が多い上に、テンタクルの反動によってMSへの負担も大きかったりする。
本当に、実機による模擬戦ではなくてよかったなと思う。もっともメンテナンス自体はプルシリーズが行うから手間自体は多くない。問題はパーツの消費である。
「おい、ついに殴り始めたぜ」
「腰が入ってないからあんま効きそうにない——おい、MSの頭突きって効果あるのかよ」
お互いがお互いのテンタクル、ビームサーベルを破壊してしまい、近距離からのメガ粒子砲の撃ち合いはもちろんのこと、ジュドー達が言っているようにMSによる肉弾戦を始めた。
「なんとも野蛮な戦いだが……最新技術によって行われる戦いの原祖というのもなかなか乙なものだな」
「何処までいってもアレンはアレンだな」
私が私以外なわけないだろう。
しかし……クィン・マンサの頭突きには少し疑問がある。それは単純な話でクィン・マンサで頭突きをすると頭にはコクピットにあるのだから衝撃が酷いはずで、何より、首の耐久性はそれほどないはずなのだ。脱出機構が内蔵されているのだから。
だが、シミュレータの判定では耐えられているし、衝撃は少ないようだ。
「そういえば今まで気づかなかったが訓練で使っている時にも同じような現象があったな」
ならシミュレータの設定ミスか?後で確認しておく必要があるな。
『これで——』
『この一撃で——』
『『終わりだ!』』
……これはまた典型的と言うかなんというか……クロスカウンターによる同時撃破判定。
しかし、やはり頭突きで撃破判定が出ないのはおかしい。そもそも今のクロスカウンターよりも頭突きをした時の方がダメージは大きいはずだ。
これはなにかあるのか?
などと考えていたらいつの間にか出てきたプルツーとハマーンが私が見ていなかったと勘違いしたらしく怒られた。
もっとも勘違いだと知れた時の2人の顔は見ものだったがな。
「さて、色々とあったがやっと落ち着いたな」
「ああ……やっとだ……そして疲れた」
「お疲れ様です。ハマーン様」
イリアがソファにだらしなく横になっているハマーンにココア(生クリームたっぷり)を渡している。
余談だが、ハマーンはいつもは威厳を保つためとカフェインの覚醒作用を頼ってコーヒーや紅茶などを飲むことが多いらしいが本当は甘いココアや果汁100%ジュースの方が好みである。
最近は美容が気になり始めたようで野菜ジュースも飲むらしいが飲みやすくする果物類の方が多いので野菜ジュースと言っていいのか微妙なものだとか。
そして今はプルシリーズから受けた訓練で己の怠慢が気になりプロテインも飲むか考えているようだ。
「ところでハマーンはこちらにどれぐらいいるつもりだ?ネオ・ジオンは問題ないのか?」
「大体7日滞在する予定よ。ネオ・ジオンは大丈夫、というよりも私1人と護衛のプル達が抜けて問題が起きるような国は歪よ」
このミソロギアは私がいなくなれば終わりだろうがな。
「なら宰相の席が奪われている可能性の方が高いか」
「それならとっとと明け渡すわよ。むしろ熨斗付けるわ。早くこっちに移住したい」
ネオ・ジオンの国民が聞くと涙しそうだな。
それにしてもプルシリーズにあのような扱いを受けてもこちらに移る気なのは変わりないのか。実はハマーンはマゾヒストか?