第二百十九話
「プルプルプル〜!ハマーン!朝だよ!起きないと目覚マシンが来ちゃうよ!!」
「……部屋に無断で入れたのか、早すぎる朝だとかはとりあえず置いておくとして……目覚マシンというのは——」
「あ、来たよ」
そこにはやはりセキリティやプライベートスペースなどという概念が無いかのように入ってきた六足歩行するロボットが侵入してきた。
そしてハマーンとプルをスキャンし、起きていることを確認するとカシャッとシャッター音のような音が聞こえたかと思うとそのロボットから声が響く。
『プル、おはよう。さすが私の愛する検体だ。今日も元気に励むように』
「はーいっ!」
その声は間違いなくアレンの声であり、まるでそこにアレンがいるかのように元気よく返事をするプル。
『ハマーン、過度のトレーニングは成長を阻害する。ほどほどにすることだな』
「あ、ああ、気をつける」
戸惑いながらもアレンの声であるため応えるハマーン。
そして、その言葉を聞き終わると六足歩行ロボットは部屋を後にした。
「……あれが目覚マシンでいいんだな?」
「そうだよ。私達上位ナンバーは若い妹達の教育もやってるんだけど、ちょっと失敗しちゃって妹達が寝坊とかありえないことを始めちゃって……それでアレンパパが私達のサポートってことで作ってくれたんだよ」
「なるほど」
プルの話を聞いてハマーンは納得した。
アレンは昔から教育が難しいと常々言っており、アレンよりも人生経験が短いプルシリーズがクローンとはいえ、教育に苦戦するのは仕方ないことなのだ。
「それとあの最後の台詞だけど、ランダムで言ってくれるから割りと人気があるんだよ。言ってくれた台詞は後でデータ配信されていつでも聞けるようになってるの」
「……欲しい。欲しいぞ!」
「ハマーンへの台詞はバッド系だからめったに聞けないんだよー。バッド系はペナルティがあるからね。今回はアレンパパが配慮してペナルティはないみたいだけど」
「ペナルティか……ちなみに日頃はどんなだ」
「まず評価がマイナスされるんだよ」
「評価?」
ミソロギアでは人手不足であり、その不足を少しでも補おうとプルシリーズのデータ取りが日常レベルで行われ、それによって評価され、それによって配置場所が決められる。
そしてこの評価はプルシリーズにおいて立派なステータスでもあるため、マイナスされることは避けたいのだ。
「それとアレンパパのニュータイプ訓練ハードモードももれなく付くよ」
「……それはご褒美の間違いではないか?」
「??すごく辛いよ??」
「そんなものは当然だろう?」
お互いの意識にズレがあるようだが、そのズレを正すつもりはハマーンにはなかった。
本格的にハマーンがマゾヒストであるという疑いが濃厚となったようだ。
(アレンと訓練……最近なかったからな。この滞在中にぜひ一度受けておきたいな)
「でもあまりアレンパパの手を煩わすと粛清されちゃうよ。もちろんその中には私もいるからね?」
「ふっ、その程度のことで私が引き下がるとでも?……と言いたいところだが、私もアレンの邪魔をするのは本意ではない。自重するよ」
早くこっちに移住してアレンに構ってもらいたいな、と考えるハマーンとやはり危険人物だと思うプルであった。
「ところでプル、起こしてくれたのは感謝するが、それだけか?他にも要件があるようだったが……」
起き抜けとはいえ、プルの感情を読み取っていたハマーンはプルが他にも何かを伝えに来たことを把握していた。今は既に記憶に無いようなので思い出させるように促した。
「あ、そうだった。結局昨日はあんなことになっちゃったから私がミソロギアを案内することになったんだよ!」
「アレンが案内をしてくれないのか」
「本当はアレンパパが案内する予定だったんだけどちょっと気になることができたって研究に没頭しちゃったんだよ」
「それは無理だな」
離れていた時間が長いとはいえ、元々の付き合い自体は長いハマーンは速攻で諦めた。アレンが研究……しかも何か閃いた時は一通り研究が終わるまで没頭してしまうことをよく知っていた。