第二十二話
美味い食事とは活力になる。
食事とは栄養摂取以外にも気力の回復という意味もある……フラナガン機関の食事は不味かった。大体軍隊の緊急用のレーションよりも不味いというのはどうなんだ。
まぁ、そのおかげで料理をするようになったのだが……他の研究員はあの食事で問題がなかったのだから凄いと思う。尊敬はしないがな。
私の食事は終わったが、女性陣のデザートとガールズトークが止むことがなく、話し相手もいないが暇ができた。普通なら退屈なところだが貰ったニュータイプ達のデータを検証することができる。
私は訓練を受ける前のデータしか見たことがなかったが、MSパイロットとしての素質はクスコ・アルが頭一つ抜きん出ているな。
噂では白い悪魔は大破させたというものがあったが信憑性が増したな。
それに比べてララァ・スンやシャリア・ブルはニュータイプの素質は高いが操縦術はイマイチだ。サイコミュの開発データとしては優れたものだがな。
このクスコ・アルとシャアのデータを組み合わせればOSの補助ツールを高性能化ができそうだ……またやることが増えたな。
最近あまりにあっちこっち手を出しすぎて自分は何が専門なのかと疑問に思う時がある。
ん?これは……もしかしてクルスト・モーゼスの検体だったというマリオン・ウェルチのデータか?
彼女のデータはクルスト・モーゼスが秘密主義であったため初期のデータしか閲覧することができなかった。
こんなところで手に入るとは正しく嬉しい誤算だ。
「データを見て嬉しそうにしているところはまだまだ子供だな」
「お恥ずかしながら私もアレン博士と同じ人種なので……」
「私もどちらかというと……」
そういえばこの場にいる女性は学者肌の者が多いな。
唯一それとは関係ないのはハマーンぐらいだ。
もっともハマーンの方が特殊なのであってナナイ・ミゲルやナタリー中尉が普通なのだが。
どうやらデータを眺めている間に時間が経っていたようで女性陣がデザートに満足したところを察したシャアが声を掛け、外へ出る。
泊まる宿まで距離があるということでラボに一旦帰り、ナナイ・ミゲルが車を用意してくれるということになったのだが……何やら慌てた様子のジョルジョが現れ、とてつもなく嫌な予感がする。
「厄介なことが起きました」
だろうな、と心の中でツッコミを入れつつ話を聞いてみると、連邦の通信を傍受し、ジオン独立同盟以外のジオン残党組織がMSを輸送する計画があったらしいがそれが連邦に漏れたようだ。
それを放っておけないのでジョルジョは援護に行く……つもりだったが休暇中にもかかわらず呼び出しを食らう。しかもその討伐に出撃するホワイトベースIIにMSパイロットとして乗ることになったとか。
なかなかに酷な仕事をしているな。
それにしてもまさかここでペガサス級に出会うとはな。
確か白い悪魔の母艦がペガサス級だったはずだ。まさか白い悪魔がいたりしないだろうか、もしいるなら是非データ収集がしたい。
「わかった。私達が救援に向かおう」
「ありがとうございます。一応MS-06R-1A(高機動型ザクII改良型)が3機用意できます。それとパイロットは凄腕が1人も準備できています」
「そうか……」
と言って私達の方を見て、何やら思案している……いや、正確には私とアンディを見て、というのが正しいだろう。
ああ、ますます嫌な予感がする。
「アンディ、お前はハマーンの護衛を頼む。ナタリー……そしてアレン博士には私と共に出撃してもらいたい」
やっぱりか?!
防衛のためならともかく、誰とも知れない人間を助けに行くなんてごめんだぞ。
「大佐、私が行く」
「ハマーン、君は査察が任務だ。もし万が一があっては困る。大人しくしていてくれ」
「だがアレン博士は戦場を経験していない。いや、それどころか軍人でも兵士でも責任ある立場でもない。そのような者を戦場に連れて行っても足手まといにしかならぬだろう」
ハマーンの続けた言葉でシャアが少し思案を巡らせ……私を見た。
そのサングラスの奥にある目が、アレン博士はそれでいいのか、と問うてきたのがわかる。
問うてきた、というのは語弊があるな。これは私を釣り出すための餌だ。
私は紳士を自称している。その紳士が少女を盾にして戦わないつもりか、とシャアは誘導している。
汚いなさすが赤い彗星きたない。
つまり、私を助けようと動いたハマーンだったが、ハマーン自身が私を戦場に導くことになったわけだ。
「わかった。協力しよう」
ハァ……なんで対Gスーツを持ってきてしまったんだろう。
あれから2時間経った。
私はユキミズキという輸送船の中にいる。
ハァ、本当に戦場に出ることになるとは思いもしなかった。
「シャア大佐、御一緒させて頂きますカムジ准尉です」
妙にラフな格好をした若い女性が現れた。
ジオンは女性の軍人が本当に多いな。
シャアが私とナタリー中尉の紹介するとカムジ准尉は私をジッと見つめてくる……正確には私の着ているものを、だが。
「すごく大きくて立派ね」
「ふむ、ありがとう」
自分の作品を褒められるとやはり嬉しいものだな……ところでなぜナタリー中尉は顔を真赤にしているのだろうか。
「でもアレンはパイロットには見えないですヨ」
「ああ、私はパイロットではなく本業は研究者だ」
「あ、だから——おっとと」
何かを言いかけたが慌てて口を閉ざすカムジ准尉だが、その言葉を私が引き継ぐ。
「嫌な奴らに似ている、か?」
「な、なんでわかったんですか?!」
「わかるさ。私はニュータイプの研究をしている。そして君は……ニュータイプ、だろう?」
そう、カムジ准尉は間違いなくニュータイプだ。
しかし、ニュータイプ特有の精神波の漏れが少ないように感じるところを見るとおそらくサイコミュの適正はなさそうだな。
「ニュ、ニュータイプってな、なんですか?」
「心配しなくても私は本人が望まぬことはせんよ。もちろん望むなら別だがな」
「謹んでお断りしますヨ」
そしてこの反応から推察するにおそらく感受性に優れていてジョルジョが凄腕と言っていたことを加味するとパイロットとしてはかなりの腕前なのだろう。
「だが、今は共に戦う仲間だ。よろしく頼む」
このまま微妙な関係で実戦なんぞ挑みたくないので少しでも改善するように改めて挨拶をしておく。
「……ええ、よろしくお願いします」
戸惑ったようだがちゃんと手を握ってもらえた。
「では、カーゴルームに案内します」
さあ、初めてのMS……そして実戦だ。
生き残れたらいいが。