第二十三話
今、私は自身の命を託すことになる高機動型ザクII改良型のコクピットの中にいる。
少し旧式であることは否めんがどうやら専用機であるらしくチューンされていてなかなかの機動力に追従性だ。
もっともその分装甲が薄いのだが。
「それにしてもまさか黒い三連星のものを使うことになるとは」
黒と紫のカラーでもしやと思っていたがMSに残っていたデータによる裏付けがされた。
ルウム戦役でレビルを捕らえたジオンで1番有名なパイロット達だ。
そして彼らもまた、白い悪魔の伝説を彩る一要因とされてしまったと聞いている。
つくづく白い悪魔とは出会いたくないものだな。いや、検体として会うなら是非ともお願いしたいが。
「……追従性はともかく機動力とか私に必要なのだが……こればかりはすぐにどうにかできるものではないから仕方ないか」
どちらかと言うと機動力よりは追従性を活かせる範囲で装甲が欲しい……相手はビーム兵器を標準装備しているという話だから装甲も意味が無いかもしれないがな。
もっとも1番の問題はMSより耐Gスーツの方だ。
一応作動テストを行っているとは言っても普通なら最低でも1000回(本当に最低限)は行うところを10回程度の作動テストでは安心できるわけがない。
少しでも信頼性を上げるために、改めてMSとデータリンクさせて入念にチェックを繰り返す。
実際既に10のパラメータを修正した。これで耐G性能が向上するはずだ。
「本当にそれで出るの?」
「これがないと満足に加速ができないからな」
カムジ准尉がハッチから話しかけてくる。
研究者に苦手意識はあるが好奇心に負けたというところだろうな。あまり多く言葉を交わしていないが何となくそれがわかっていた。
「そんなので大丈夫なの?」
「さて、どうだろうな。実戦経験どころかシミュレータですら200時間超えていない程度しか訓練していないが……」
「……本当に大丈夫?」
……そう繰り返し聞かないでくれ、私自身も不安でいっぱいなのだから。
耐Gスーツの調整をしているのは少しでも安全性、信頼性を向上させるためでもあるが、不安である現状から逃避行するために行っているという側面もあるのだ。
「まぁ私はせいぜい囮となって敵を引き付けて後はシャア大佐に任せるさ」
「……それ、新人がやることじゃないヨ」
避けることはそこそこ自信があるから大丈夫さ。
……なんだか自分から死亡フラグを立てた気がしたが気のせいだ。
『連邦MS隊が先行してます!このままでは輸送船が危険です。発進急いでください』
声に力が入っているぞ。ナタリー中尉。こちらまで緊張してしまいそうだ。
『では、出撃するぞ』
シャア大佐の声と共にハッチが開く。
モニターが映し出すのはいつも見ている光景と変わりない。変わりないはずだが、今はいつも以上に身を切るような冷たさ感じる。
とうとう戦場か……ジオンに関心があるわけでもなく、連邦に思うところがあるわけでもない私がこのようなことになろうとはな。
「いかんな。データ的には戦場では思い、執念があるほど生き残る可能性が高くなるとあるのに私はそれほどのものを持ち合わせていないぞ」
などとふざけた独り言を呟きつつバーニアを吹かす。
作戦……というか注意事項としてジョルジョ・ミゲルがガンダムタイプにジムタイプが5機という編成のようで、ジョルジョ・ミゲルと戦うフリをして残りを始末……ではなく、無力化するらしい。
戦場素人の人間に殺す以上に難しい無力化しろという無茶振りはさすがに開いた口が塞がらなかったぞ。
しかも、アレンならできると信じているなどと見え透いた言葉までつけられたが煽てられても木には登らんぞ。
『アレンくん、遅いヨ』
「残念ながら私の全速力はここまでだ。先行して全機落としてくれても構わんよ」
『それはさすがに……あ、でも大佐がいるからやれないことはないかもね』
……確かに。
実力が未知数だったカムジ准尉は今、リアルタイムで実力を見せられている。
その操縦技術は確かなもので、実戦の強さはどの程度か不明だが少なくとも私以上に足を引っ張ることはなさそうで心強い。
この2人なら多少の戦力差など物ともしないだろう。
『今回は輸送船の救援が任務だ。敵が全てこちらに向かってくるとは限らんからな』
そういえばそうだったな。
やはり私自身気づかないうちに思った以上に初陣で緊張しているのだろう。こんな基本的なことを忘れるとは。
となると護衛が優先されるとして、その護衛は最大戦力が行うべきと考えると……シャア大佐が行うことになるのか。
しかし、私達は敵後方から近づくことになる関係上、護衛しようと思えば敵を突っ切るしかなくなる。
そのサポートを私達がすることになるわけだ。
できればシャア大佐を3機ぐらいで狙ってもらいたいものだ。
その程度でシャア大佐が死ぬとは思えんからな。
『それにしてもその耐Gスーツは大したものだな。以前のデータより倍以上の速度を出せている』
ほう、さすが大佐ともなると戦力分析ぐらいはするようだな。
「おかげで前よりは身体への負担は少なくなったが……駆動音がうるさいのは玉に瑕だがね」
若干通信が聞こえにくいのは問題があるな。
まぁ急ごしらえであるためこれ以上を求めるというのは酷な話だろう。
『見えたぞ』
事前に伝えられた通り敵は6機、ジョルジョが搭乗しているというガンダムタイプも確認できた。
戦術的に考えれば護衛しつつ倍する敵と戦うなんて愚策、無謀としかいいようがないな。
つまりジオン公国の幹部達はかなり無謀なことをしていたということだ。
「さて、私は生き残れるかな」
相手はガンダムタイプを含めて私の知らない機種だ。
サイド3を防衛、監視している部隊が旧式を使っているとは考えづらい。となると新型ということになるわけだが……先に仕掛けたシャア大佐とカムジ准尉の攻撃を躱す行動を見るに、こちらとは随分と機体差がありそうだな。
アクシズのタカ派は連邦が油断していると言っているが、機体のスペックだけ見ると油断しているとはとても思えない。
まぁ政治家達の腐敗は深刻化していそうだがな。
「さて、私も……」
2人に遅れてつつも敵が有効射程に入ったので引き金を絞る。
敵を殺すのは検体を廃棄することと似ている。
思うところが無いではないが思いを引きずるほどの強さはないようで、それに抵抗はなかった。
「ちっ、本当に反応がいいな」
狙い違わず命中したにはしたが、ギリギリのところで盾で防がれてしまった。
数的に詰めておきたかったんだがな。