第二百二十一話
ハマーン達はしばらくショッピングを楽しみ、次の目的地を目指す。
ちなみに護衛であるイリアは、このミソロギア内で護衛の必要などあるはずもないので、今は別行動している。
もっとも別行動と言っても他のプルシリーズと共に訓練するというストイックさではあるが……肉弾戦で負けたことに悔しかったことが真実だ。
「ここが、そうか」
「うん。プル24と私達のお墓だよ」
以前からハマーンが来たがっていた理由の1つ、アクシズの独立、ネオ・ジオンの足固めのためにアレン達に協力要請を行い、そしてその結果プル24という初めての戦死者が出てしまったことに後悔していた。
戦争なのだから当然といえば当然のことで、更に言えばハマーンは宰相という立場である以上、そういったことも呑み込まなければならないのだが、私情が入るのが人間である。
そもそもネオ・ジオンにそれほど価値を見出していないハマーンにとって大事な存在を傷つけた、もしくは害を齎したことが許せないのだ。
「……あれは?」
「あれはお供え花だよ。アレンパパが週に1度、忙しい時はテンタクルでだけど、お供えしてたのを皆でもしようってことになったんだよ。だって自分達が死んじゃった時に、何もしてくれなかったら寂しいし」
プルシリーズ、特に戦争を経験している上位ナンバーの精神的成長は、下位ナンバーが同じ時を刻んだものよりも成熟したものとなった。
やはり生死を分ける経験というのは心に大きく影響を与えるものなのだ。良くも悪くも。
ついでに言うとプル24に対してプルシリーズは憧れと嫉妬も抱かれていた。
現在、この墓にはプル24のみが埋葬されている。つまり現状は圧倒的個として存在しているためにクローンであるプルシリーズには憧れ、そして後に自らが死してもその後に続くだけだということへの嫉妬である。
もちろん、そこには早く死にたいなどという自殺願望があるわけではない。
「そうか……では、私も」
「お花はあっちに植わってるのを摘むんだよ」
コロニー内では気温や気候がコントロールされているため、食用でなければ草花は放置していてもある程度成長するので花がないということはない。
ハマーン達は思い思いに花を摘み、祭壇に供える。
「……祈ったりはしないのか?」
「祈る?」
「いや、なんでもない」
いくら成長しているとは言ってもミソロギアの外の常識は疎いことには変わりなく、祈るという行為がどういったものなのか知らないのだ。
そもそも神という概念すらプルシリーズには教えられていなかったりする。アレンとしては神などは虚像だとしか思っていないからだ。
それに気づいたハマーンはすぐに流すことにした。
「じゃあ、また来るね!」
にも関わらず、祭壇に向かってそう言葉を投げかけたプル。
そこには間違いなく祖先崇拝の片鱗があった。
それからはMSシミュレータで連邦のMS同士で遊んだり、現在では国技のような状態になっているミニチュアMSで遊んでみたりと休日らしい休日を過ごした。
そして、最後に訪れたのは——
「ここが今1番の話題の食堂だよ!」
そこはもちろん、ファ・ユイリィと最近新たに加わったリィナ・アーシタとエル・ビアンノが働いている食堂である。
「ほう、それほどか」
「救世主って多分ファさんのことを言うんだよ!」
「もう、プルったら……そんな恥ずかしいことを大きな声で言わないの!」
プルの大きな声はファの耳まで届いたようだ。
「あら、その様子だと案内中かしら?」
「そうだよ!でも今日はここで終わりかな?そろそろアレンパパの邪魔しなくちゃいけないから」
「いつも大変ね」
研究に熱中すると止まらないアレンであることはミソロギアに住む者にとっては常識だ。そうであるからこそ自分の体が知らず知らずのうちに悲鳴を上げていることに気づかないことが多い……いや、気づいたとしても後で直せばいいと後回しにすることが多い。
そんなアレンが心配で定期的にプルは構って欲しい!という名目でアレンの邪魔をして強制的に休憩させていて、それをファは知っているのだ。
「アレンパパには元気で居て欲しいからね!あ、私はAランチ!ハマーンはどうする?」
「なら私もそれをいただこう」