第二百二十二話
食堂は副菜はビュッフェ形式としていて、メニューで選ぶのは主食(米やパンなど)と主菜(肉、魚)とデザートとなる。
この形式が確立されたのもここ最近のことで、ファ・ユイリィが1人で切り盛りしていた時はプルシリーズの人数分の調理自体が大変だったこともあるが、盛り付けに取られる時間が多く取られることからこのような形となった。
ちなみに副菜も注文することが可能だが、お値段も相応以上に高く設定しているので本当にたまにしか頼まれることはない。
「ほう、家庭料理というやつか」
アレンと共にいる時は割りと酷い扱いを受けるハマーンであるが、役職ももちろんであるが家柄的にも生粋のお嬢様である。なので日頃の食事からすると素人が作った料理なので悪く言えばお粗末なものと言えるだろう。
「あのレーションは地獄だったなぁ……本当に……」
いつも明るいプルが顔を伏せ、背にダークなオーラを放ってブツブツと何やら言っている姿にハマーンは若干引く。
(レーションって……あれかしら?あのコクピットに備え付けられているやつ?)
一応お嬢様なハマーンもパイロットとしての訓練を一通り受けている。そしてその訓練の一環として緊急時のレーションで1週間を過ごすというものがあったのだ。
(それを常食なんて……私なら10日で発狂するわね)
「お待たせ、ハマーンの口に合うか心配だけど……」
「見た目通りの味付けなら問題ない……うむ、思った以上に美味い」
家庭の味など知る由もないハマーンだったが、想像以上に美味かった。
もちろん日頃の食事と比べれば幾段も味が落ちるが、それでも何か別の満足感を得たような気分となった。
(食事とは味だけでなく、環境も大事なのね)
ハマーンにとってここには敵がいない……プルシリーズの拷問のような嫌がらせも実のところアレンの訓練に比べれば大したことではない……環境というのは何よりも優れた調味料であったようだ。
「それは良かったわ。これ、私からサービスね」
「あ、アイスだ!私の分は?!」
「これはハマーンだけよ。プルはちゃんとお金を払って買いなさい」
「えー、ズルだー差別だー卑怯だー横暴だー」
「我儘言っちゃいけません!」
今のファはまるで母親のようだ。
「ふ、仕方ないな。ここは私が持とう」
「え!いいの!」
いつも以上にキラキラした瞳でハマーンを見つめるプルに鷹揚にうなずいて肯定する。
「ああ、案内の手間賃ということで、な」
「わーい!!」
「ハマーン、あまり甘やかしたらいけないわよ」
などと何処かで見たことがあるような家庭のやり取りが行いつつ食事を楽しむハマーン達であった。
「楽しそうで何よりだな」
「あ、アレンパパ!今日は(正気を取り戻すのが)早かったね!」
「研究も一段落ついたからな」
ニュータイプがサイコミュを使うことでMSにまで纏うオーラのようなものの計測と解析を行っていたのだが、思った以上に簡単に判明した。
どうやらパイロットの脳波がサイコミュを介してミノフスキー粒子に干渉して発生するものらしい。
ミノフスキー粒子の濃度とパイロットの素質によるが、場合によってはIフィールド発生装置などなくともビーム兵器を無効化、それどころかミサイルなどの実弾兵器すらも無効化することが可能なのようだ。
もっとも既存のサイコミュではそこまでのレベルに達した場合、サイコミュが処理落ちしてしまうようだがな……まぁこれは実際私が行った結果だ。
ただし、私の素質には問題なく、問題はサイコミュとミノフスキー粒子の濃度ということなのだからなんとかなる余地があるだけマシだがな。