第二百二十六話
高跳びするのを決めたとあれば予定が大きく変わる。
ここに定住することが前提であったためにアナハイム一派と全面対決を避けつつ、軍拡を進め、武力によって防衛することを選んだ。
しかし、これにはかなり無理があったのも事実で、私達が開発したMSや生み出したプルシリーズがいくら有能であろうと数の暴力にはさすがに厳しい戦いを強いられることは予見していた。
だからこそ、MDやGP02の核弾頭を製造(思い立ったが吉日で既に用意している)など手は打っているが……正直、あまり使いたくはないのも事実だ。
身を護るために手段を選ばないのは当然であるが、選ばなさ過ぎてアナハイム一派という一部の組織ではなく、本当の意味で全世界を敵に回すなど正気ではない。
過去にジオン公国が同じようなことをしたわけだが国力が違いすぎるからな。ジオン公国が自国を認めさせるために殺した人口は50%、そしてその上ジオン公国は自壊して自治領という名の属国という当初の目的を達成できなかった。
もしキシリア・ザビがギレン・ザビを暗殺していなかったらどうなっていたかはわからないが、結果だけ見れば半数の人口を殺しても失敗した。つまり、私達が確固たる地位を手に入れるには一体どれだけの血を流せばいいのか……天才の私でも予想がつかない。
だが、4年後に高跳びするならば煩わしい外交交渉や先が見えない軍拡を削減できるのは間違いない。もっとも油断はできないがな。
「そうなると余裕ができるな。次世代MSでも開発してみるか」
私専用のミソロギア防衛戦艦も捨てがたいが、今の所私とアッティスが揃えば大抵の相手はどうにかできるだろう。
ああ、更に高スペックなサイコミュを搭載させ、あのミノフスキー粒子を操る実験をしてみたいとも思うが……悩ましいな。
「ハァ、相変わらずアレンは研究が好きね」
「私から研究を抜けば、ただの天才ニュータイプしか残らないではないか」
「それだけでも十分なんだけど」
「ふっ、ニュータイプなど所詮は誰かがおらねば役に立たぬ能力だ。考えることは、研究することは独りでもできる最高の暇つぶしだ」
「それは寂しい考え方ね。それに……私なんてそれがなかったらアレンに見初められることなんて無く、カーン家の次女としてしか見られることはなかったのに」
「残念だったな。当時はマハラジャ・カーンはともかく(と言いつつ開発支援しているから仕方なく覚えただけ)カーン家自体に興味がなかったから存在すら認識することはなかったな」
ひどいやつね。と苦笑いを浮かべているが本当のことだから仕方ない。
それにしばらくはハマーンを見ていたというより検体としてしか見ていなかったがな。今でも半々だったりするがのだが——
「まぁ、どうせ私のことなど半分程度しか認識していないのよね?」
隠し事なく話す(裏を返せば思ったことを口にする)私であるが、さすがにこれを肯定するのは些かまずい気がしたのでつい目を泳がせてしまった。そう泳がせてしまったのだ。
「……やはり、そうか」
おお、なかなかのプレッシャーだ。ここのところプルシリーズ達との訓練で実戦に近い状態が続いていたからなのかいい感じに仕上がっているようだな。
ならば私も期待に応えなければならないだろう。
「ふぅー」
「——っ?!」
久しく開放していなかった私の本来の……なんというべきか、プレッシャーというには色がないな……私の意思?を解き放つとハマーンのプレッシャーは押し流され、私の意思一色に染まるのを感じる。
「ふむ、以前開放した時よりも広く……いや、密度が高い、か?言葉で表すのは難しいな。……ところでハマーン、大丈夫か?」
全身がプルプルと震え、先程までの勢いは失せて顔色が真っ青になり、今にも気を失いかけているように視えるが……と、そろそろ封じるか。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「まさかこれほど他者に影響を与えるとは、な。影響があるだろうと日頃から封印していて正解だったか」
「……言う、ことは、それ、だけ?」
「ああ、スマン。大丈夫か?」
「なんと、かね」(も、漏らすところだったなんて死んでも言えない)
しかし、最近になって、この意思は本当にニュータイプのそれなのかという疑問に思っている。
確かにサイコミュが起動することで私がニュータイプなのは間違いない。しかし、どうも規格外が過ぎる気がするのだ。
もしかすると別の何かなのではないかと考えてしまう。
「ああ、そういえば、ネタに走って何も考えず開放したが……周囲にいたプル達は大丈——……後で謝っておくか」
その惨状は私の心の内に秘めておくとする。プルシリーズの名誉のために、な。